第29話

 ポーションが尽きるまで延々と乱戦を繰り広げては街に帰還し、最低限の補充だけしたらすぐに荒鷲の丘に戻る。

 ということを連日繰り返しているうちに、あっという間に金曜日の夜になっていた。


 現在のソウジンのレベルは20に上がってすぐといったところ。

 ここ数日のプレイ時間の殆どを戦闘に費やしていたことを考えると、レベリングはまともにできなかったが、代わりにプレイヤースキルは大きく成長を遂げていた。


 荒鷲の丘のエリア端――あまり人目のつかない場所でソウジンは、襲いかかるトウテツの噛みつきを最低限の動きで避け、違う方向から仕掛けてくるランホークの強襲に対しては、爪が当たる直前に手裏剣で軽く弾くようにして防御の構えをとる。


 手裏剣と爪が接触した瞬間、ランホークの体勢が大きく崩れると、同時に接近していたトウテツを巻き込んで地面に転落する。

 どちらのHPも減少するのを確認しながら、畳み掛けるように飛びかかってくるトウテツの胴体をすれ違い様に斬り裂き、少し離れた場所にいる3匹目のトウテツ向かって手裏剣を投げ放つ。


 そこからクイックステップで前方にいるランホークの元へ一気に距離を詰め、反応しきれずにいるところに連続で斬撃を浴びせる。

 両翼を狙い、地面に落としてみせると、離れていた場所にいるトウテツが反撃の突進をしてくる。


 振り向きざまにソウジンは、手元に帰ってきた手裏剣を攻撃が当たるギリギリのタイミングで構え、後方へと受け流してから先ほど斬撃を浴びせたランホークに手裏剣を突き立ててとどめを刺した。


「……よし、いける」


 残りのエネミーたちも転倒したままでまだ大きな隙が生じている。

 且つ、いずれも手負いの状態なので、ここまで来たらソウジンの勝利はほぼほぼ確定したような状況だった。


 また新たに違うエネミーが乱入してくる前にソウジンは、迅速にエネミーたちを全滅させるのだった。




「はーっ、やっとできたー!」


 戦闘を終え、エネミーが湧いてこない場所に移動してからソウジンは、うんと背を伸ばしながら喜びを露わにした。


 移動時間も含めてなんだかんだでプレイ時間の大半を荒鷲の丘で過ごしていたせいか、尋常じゃない達成感と解放感に満たされている。

 入団テストの時は難問のテストを正答できた時のような感覚だが、今は難しい課題を終わらせることのできたような感覚だ。


 本当だったら戦闘の様子をマコに見せたかったが、生憎ギルドの活動があるので、こっちに顔を出せないとのことだった。


 まあでも、これは仕方のないことだ。

 寧ろ、その合間を縫って特訓の様子を見に来てくれているだけでも感謝するべきなのだろう。


 何はともあれ、これでようやく2つ目の目標であるダンジョン攻略に取り掛かることができる。

 本当だったらもっと早く行けたのだが、一対多数の戦闘に慣れる為にとレッドたちには随分と待ってもらっていた。


「とりあえず、皆んなに報告はしておこう」


 このままダンジョン手前の拠点に向かってもいいが、それよりも特訓が終わったことを伝える方が先決だ。

 ソウジンは、メニューを開き[マップ]から[ファストトラベル]を選択する。


 ファストトラベルは、今まで訪れたことのある拠点やプレイヤー自身が所属するギルドの活動拠点にワープしてくれる機能だ。


 フィールドやエリアへ直接の移動はできないので行きは歩かざるを得ないが、帰りは簡単かつ安全に戻ることができる。


 折角苦労してボスを撃破したり、珍しい素材を採取できたとしても、帰る前にエネミーに倒されたり事故ってデスしてしまったら苦労が水の泡だ。

 帰還がしやすくなっているのは、そういった危険性を減らす為の措置だと思われる。


 ただし、戦闘中だったり特定の領域内ではファストトラベルは使用不可なので、そこだけ注意は必要となる。


 ファストトラベルの画面が開き、いくつかの拠点名が並ぶ中からソウジンは、[キャメロットハウス]をタップする。

 それから確認として出現したポップアップに[はい]を選択する。

 

 直後、足元から周囲を囲うように光が発生し、視界一面が真っ白になる。

 ふわりと軽く浮遊するような感覚がした数秒後、視界が開くと周囲の風景は荒鷲の丘からギルドの活動拠点へと一変した。


「今は……誰もいなさそうだね」


 室内を見渡してみるが人影はない。

 ギルドメンバーはオンライン状態になってはいたから、別の場所にいると考えた方が良さそうだ。


「じゃあ、レッドに後でメッセージを送っておくとして……ドラさんには声をかけておこうかな。ついでに相談したいこともあるし」


 ソウジンは円卓の部屋を出て、廊下を少し歩いた先にある階段に向かう。

 地下室は工房となっており、訪れるのは拠点の中を案内してもらった時以来だが、ここであれば確実にいるはずだ。


 地下に降りて、工房の前に辿り着くとソウジンは部屋の扉をノックする。


「あーい、だれー?」


 返ってきたのは女性の気だるそうな声だ。


「ソウジンだけど、入ってもいい?」

「あー、ちょっと待って。今、アイテム調合してる最中だから――って、あれ、これ失敗……んぎゃああああああっ!!!」

「ドラさん!?」


 突如として勢いよく何かが爆発する音と中にいる女性の悲鳴が聞こえ、慌てて扉を開ける。

 そこに広がっていたのは、部屋中に物が散乱している惨状と、爆発があったであろう場所でぐったりと仰向けに倒れる金髪の女の子の姿だった。

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