第28話

 言うは易く行うは難し、とはよく言うが、今のソウジンはまさにそんな状況に置かれていた。


「はいはい、パリィを仕掛けるタイミングが早い。もっと敵の攻撃を引きつけてからじゃないと踏ん張りが効かない防御になるだけだぞ」


 トウテツの攻撃にパリィで対応しようにも、防御姿勢に入るのが早過ぎたり、


「すぐ回避をクイックステップに頼ろうとするな。無闇に使ってると大事な時に再使用待機で命取りになるぞ」


 気がつくとトウテツとランホークに囲まれてしまい、包囲網から抜け出すためにクイックステップを使わざるを得ない状況に追い込まれたりと、いつまでも劣勢な戦況を覆すことができずにいる。


 こうなっているのも見ているよりもパリィが上手く発動できていないせいだ。

 想像以上に受付時間が短く、ここだ! と思って防御姿勢をとっても不発に終わってしまうことが殆どだった。


 かといって安易にタイミングを遅らせると、攻撃をモロに喰らうだけとなる。

 未だ適性レベルに到達していないソウジンの耐久力では、無防備な状態での直撃は致命傷になりかねない。

 そのせいで頭では分かっていても過剰に防衛意識が働いてしまい、防御のタイミングを早めてしまっていた。


 原因が分かっているだけに、パリィの発動が失敗する度に歯痒さを感じるが、ここで慌てたり苛立ったりしても仕方がない。

 落ち着いて地道にトライアンドエラーを繰り返すしかない。


 このようにマコにコーチングを受けながら悪戦苦闘することおよそ30分。

 所持数いっぱいに補充しておいたはずのポーションを全て使い尽くしても尚、数の減らないエネミーに疲弊しきっていた時だった。


 背後から爪を立てながら勢いよく飛びかかってきていたランホークに対して、少しだけ反応が遅れてしまう。


 ――しまっ……!!


 咄嗟に手裏剣を翳すも間に合うかどうかは怪しくダメージを覚悟するが、手裏剣の刀身にランホークの爪が触れた瞬間だ。

 手裏剣から青い火花のようなエフェクトが発生すると、ランホークは急に体勢を崩すとそのまま地面に転げ落ちた。


「ええっ!?」


 あまりに不自然な動きにソウジンは戸惑いを隠せなかった。

 形だけの防御だっただけに、ぶつかったら競り負けるのは自分だと確信していたからだ。


 しかし、結果はというとソウジンに軍配が上がっている。

 なぜ、という疑問が脳裏を過ぎるが、ゆっくりと原因を考えている時間はない。


 ランホークの攻撃を凌いだのも束の間、左右からトウテツが強襲を仕掛けていた。


 クイックステップでないと回避できない素早さでの攻撃なのだが、再使用待機がまだ終わっていない。

 防御でどうにかやり過ごさないとならないのだが、これも十分な防御が取れるかどうかは微妙なところだ。


 だとしても身を守らないわけにはいかないので、とにかく手裏剣を構えるだけ構え、ほぼ同時に手裏剣とトウテツが接触する。

 すると、ランホークの時と同様に手裏剣から青い火花エフェクトが発生し、トウテツの攻撃は勢いそのままにソウジンの横側に逸れていく。

 おまけに左右同時に攻めてきていたものだから、両者の突進はものの見事に衝突し、大きくHPを減らしていた。


 今になって同士討ちにダメージ判定があることを知りつつも、ソウジンはまたも攻撃を不自然なやり方で受け流したことに困惑するが、ここでようやくこれがパリィによるものだということに気がつく。

 スキルを獲得した時に感じた感覚と、ランホークとトウテツの攻撃を受け流した時の感覚が一致していたのだ。


「やった……やっとできた!」


 ようやく掴むことのできたタイミングに喜ぶソウジンだったが、マコが大きく叫ぶ。


「――おい、ソウジン後ろ!!」

「……へ?」


 死角から襲いかかってきていた別のトウテツに反応が間に合わず、背中に強烈な衝撃が走ると同時にソウジンのHPは一気に減少してしまう。

 しかも不意の一撃だったせいで、踏ん張りが効かずにそのまま地面に膝をついてしまった。


 あ、終わった……。


 ソウジンが大きな隙を見せてしまったことで、他の動けるエネミーが一斉に追い討ちを仕掛けてくる。


 動くこともままならず頭上を陰で覆われ、デスを直感した刹那――疾風のような斬撃が閃くと、転倒しているエネミーを含めて全て光の粒子となって散っていくのだった。


「……ったく、敵に囲まれてんだから手放しで喜ぶなよ」

「あはは、ごめん」


 顔を上げると、鞘から引き抜いた大太刀を肩で担いだマコがやや呆れた表情で肩を竦めていた。

 が、すぐにころりと満面の笑みを浮かべながら、左手を差し出してくる。


「でもまあ、最後の連続パリィは結構良かったぜ! 最初の練習成果としては上出来だ。あとはこいつを意識しなくてもできるようになれば完璧だな」

「サラッと厳しいこと言うね……」

「まあな。パリィは極めれば極めるだけレベルに依存しない強さに繋がるスキルだから、モチベがあるうちにどんどん鍛えていかねえと。それに、いきなりパリィを使いこなすソウジンの姿を円卓の連中に見せて驚かせてやりたいしな」


 どことなく悪い顔でニヤリと笑うマコにソウジンは苦笑を浮かべつつも、パリィを使いこなせるようになった自分の姿を想像しながら彼の意見に同調する。


「……そうだね。俺も早くレッドたちに追いつきたいし、その為にはレベルだけじゃなくて俺自身も強くならないとだもんね。――よし! それじゃあ、もう一回やってみるから見ててもらっていい?」

「お、やる気だな!? もちろん、いいぜ! ……って言いたいところだけど、その前に一旦休憩な。30分近くぶっ通しで戦って集中力切れた状態でやっても疲れるだけだし、それにソウジン今の戦いでもうポーション残ってないだろ?」

「……あ」

「おいおい……ポーションは俺のをやるよ。じゃあ、道沿いに戻るとしようぜ」


 そして、アイテム補充と休憩を挟んだ後、もう一度ソウジンはパリィの特訓に励むべくエネミーとの乱戦に臨むのだった。

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