第26話
2日振りに訪れた荒鷲の丘は、相変わらず頬を叩きつけるような荒々しい風がごうごうと吹き付けている。
初めて訪れた時より心と時間、それにステータスにも余裕ができたおかげか、少し新鮮さを感じながら周囲の風景を眺めていると、
「よし、到着して早々だけどさっさと始めるとするか」
張り切った様子でいるマコにポンと肩を叩かれた。
「うん、よろしく頼むね。それで、最初は何をすればいいの?」
「そうだな……とりあえず見学、だな。俺が先にパリィとあと1個別のスキルを使って戦うところを見せるから、道からあんま逸れないところで待機しといてくれ」
「了解。ところで別のスキルって……?」
「言ってみりゃ誰でも使えるお手軽スキルってところか。パリィは使いこなせれば強力だけど、失敗した時のリスクがデカいからなんでもかんでもパリィ頼りになるのは避けたい。だから、これから使う別のスキルを組み合わせることでより確実にパリィを発動させられる状況に持っていくんだよ」
そう言いながらマコはメニュー画面を開いてさっと操作を済ませて、背中の大太刀をインベントリに収納する。
代わりに違う武器をインベントリから喚び出し、左右の手に握りしめられたのは二振りの十字手裏剣だった。
「マコ、それって……!?」
「ん、見ての通り手裏剣だけど。ソウジン相手にパリィを教えるのにいつもの大太刀でやっても意味ないだろ。それにお前の得意武器でやって見せた方が感覚も掴みやすいだろうしな。まあ、見てなって」
にいっと笑みを浮かべ、使用感を確かめるように何度か手裏剣を振るうと、マコは道を外れて草原の中に足を踏み入れる。
程なくして近くにトウテツが出現し、即座にマコを目掛けて飛びかかるが、軽く身を翻して容易く躱してみせた。
直後、周囲にいたトウテツ数匹が急にマコに襲い掛かり、空からは2匹のランホークが急降下で強襲を仕掛けてくる。
しかし、あらゆる方向から迫り来るエネミーの猛攻を涼しい顔で全て避けながら解説を始めるのだった。
「このエリアに出現するエネミーってのは、草原内にいるプレイヤーを優先して狙うように設定されていてな。加えて面倒なことに1匹でも攻撃を始めると、周りにいる奴らも一斉に襲いかかってくるんだよ。こんな風にな。ソウジンも前にここに来たことがあるんなら、一度見たことはあるんじゃねえか? 例えば、円卓の試験で最短距離でボスフロアに行こうとして袋叩きになったやつとか」
「……あ、言われてみれば確かに。あれってそういうことだったんだ」
ソウジンの脳裏に過ぎったのは、AGI特化の短剣使いだ。
あの時、彼は道なりから外れて草原の中を突っ切ろうとしていたが、何匹ものトウテツとランホークに囲まれてあえなく拠点送りになっていた。
「他にも一定の範囲内に入っていると、優先的にエネミーに狙われるようになる場所ってのはいくつかあるんだけど……っと、その話はまた今度でいいか。話を本題に戻すけど、こうもエネミーに囲まれた状態でやってくる全ての攻撃をプレイヤースキルだけで避けきるのは、慣れてるやつでもない限りかなりキツい。そこで役に立ってくるのがパリィみたいな防御、回避系のスキルだ」
マコは前方から飛びかかるトウテツの攻撃が身体に当たる直前に、手裏剣を置くようにかざして爪に軽く触れさせる。
瞬間、刃の上を滑るようにしてトウテツの攻撃が本来の軌道から逸れ始める。
そのまま勢いを落とさずにトウテツを後方に受け流すと、マコを挟んだ先にいた別のトウテツに衝突した。
「わ……もしかしてこれって?」
「そう、今のがパリィ。そんで、これが――【クイックステップ】だ」
そう言ってマコは、目の前にいたトウテツが攻撃を仕掛けたことで開けたスペースに向けて、地面を強く踏み込んだ。
助走なしの跳躍だったのにも関わらず、走るのを上回る移動速度でエネミーの包囲網から抜け出すと、そこから振り向きざまに右手に持っていた手裏剣を投げつけ、近くにいたランホークを一撃で沈めてみせた。
「こいつは一度だけ跳躍力を跳ね上げてくれる移動系のスキルで、
放った手裏剣が手元に返ってきた直後、今度はランホークとトウテツがほぼ同時に襲いかかってきた。
だが、またも攻撃が当たる直前に左右の手裏剣で受け流す構えを取ると、マコの身体を抉ろうとしていたランホークの爪とトウテツの牙はあえなくいなされてしまう。
更に体勢を大きく崩されてしまい、その隙を突いたマコの返しの斬撃をもろに浴びせられて一瞬で光の粒子と化したのだった。
「……凄い、あっという間に不利な状況じゃなくなった」
前提としてレベル差の暴力というのはあるが、窮地を脱する決定打になったのはパリィとクイックステップの2つのスキルだ。
これらのスキルを発動させたことで、純粋なプレイヤースキルだけで対処するよりも容易になったのは間違いない。
ある程度の慣れと練習を要求されるパリィはともかくとして、簡単に発動可能なクイックステップであれば今のソウジンでもすぐに戦闘に取り込むことができるだろう。
(もし俺があの2つのスキルを使って戦うとしたら……)
ソウジンは自分が戦った場合にどう動けばいいのか頭の中でイメージを立てながら、残ったエネミー達を蹴散らすマコの動きと照らし合わせるのだった。
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