第23話
ヨゾラの瞳が大きく見開いた。
それから今にも泣き出してしまいそうな沈痛な面持ちを見せるが、返ってきたのは否認だった。
「……ううん、知らない。それも探索者さんたちの言葉?」
首を横に振って答える様子からすると、嘘をついているようには見えない。
本当に何も知らない――いや、覚えていないのだろう。
「そっか。変なこと聞いてごめんね」
ソウジンはそう目を細めてから、センウタにちらりと目をやると、彼女は手応えのある顔つきで頷いてみせる。
この様子からだと、ソウジンが見た映像はビンゴと捉えてもよさそうだ。
細かいことを聞くのは後にするとして、ひとまずは視線の先をヨゾラの方へ戻す。
「どうしようか、まだ星を見る?」
「うーん……今日はここまでにしようかな。なんだか、今度はわたしが眠くなってきちゃった」
言い終えるとヨゾラはふわぁと大きなあくびを1つ漏らす。
さっきまでの元気な様子から一転、身体は少し揺れて傾きかけ、瞼は閉じかけていた。
「ねえ……ソウジンお兄ちゃん、センウタお姉ちゃん。また一緒に星を見たいって言ったら来てくれる?」
「勿論。今度は寝落ちしないようにするね」
「うん、また会いに来る」
「ありがとう……2人と……」
充電が途切れたようにヨゾラは静かに地面に横たわると、寝息を立てると共にスーッと全身が透けていくように消え始める。
数秒かけてヨゾラの姿が完全に見えなくなったところで、クエストクリアを示すウィンドウが出現するのだった。
[クエスト『夜空に願いを』をクリアしました]
[アイテム『夢見の花』を入手しました]
[アイテム『朧の断片・始』を入手しました]
表示されているテキストを確認して、初めてクエストをやり遂げたことへの感動と少しの戸惑いを覚える。
2つ目のクリア報酬で獲得したアイテムがソウジンにすら察してしまうほどに、あからさまに重要そうな名称をしていたからだ。
「ねえ、センウタ。この下のアイテムって……」
「それが例のクエストを受けるためのキーアイテム。これがないとそもそもクエストを受ける場所まで行けないから、どうしても必要だった」
「やっぱりそうなんだ。……そういえば、眠ってから見せられる映像って運って言ってたよね。もし、これが手に入らなかったらどうしてたの?」
「手に入るまで毎日通うことになってた。ヨゾラに会えるのは、1日に1回だけだから。1回目でキーアイテムを手に入ったのは本当に運が良かった」
センウタの回答を聞いてソウジンは、本当に運任せだったのだと再認識して「ああ……」と苦々しい笑みを浮かべた。
場合によっては何日もここへ通わなければならないことになっていたのだと考えると、流石に精神的に参りそうだ。
「確かに。それにヨゾラに会うためにはLUKが100以上必要になるんでしょ。そうなると、センウタにまた一緒に来て貰わなきゃいけなかったからそういう意味でも助かったね。ほら、俺に時間を取らせるのも悪いし……」
「――別に……」
「……え?」
「なんでもない、気にしないで」
センウタはふいと顔を逸らして立ち上がると、メニューを開いて画面を操作する。
「目的も達成したし、一度活動拠点に戻ろう。アイテムを手に入れたことをレッドとロビンにも報告しなきゃだから」
「あ……うん、了解」
何を言おうとしたのか訊ねたかったが、それより先に彼女はファストトラベルでこの場を後にしてしまったので、ソウジンも活動拠点に帰還することにした。
「凄えな! 一発でキーアイテムをゲットしたとかソウジン持ってんなあ!」
「だねー。これは第1ダンジョンクリアもサクッといけそうですな」
拠点に戻り、クエストの結果報告を終えると、レッドとロビンはにいっと口元を吊り上げてグッと親指を立てた。
しかし、ソウジンの表情はどこか晴れないでいる。
「……そっか、ダンジョンか」
「ん、どうかしたか?」
「うん、ちょっとね。戦闘での課題が見つかったっていうか……」
農耕の村で装備を新調したことで、一対多数の戦いになったとしてもステータス面での不安要素は減らすことはできたが、戦術的な面での問題は何一つ解決していない。
まだスキルツリーが解放していないことも原因の1つではあるものの、それ以前にソウジン自身のプレイヤースキルが足りていないというのが一番大きかった。
ソウジンは現状で感じている課題点を掻い摘んで伝えると、しばしの沈黙が流れてからようやくレッドが口を開く。
「なるほどな……複数の敵から囲まれて戦わなきゃならねえのは近接武器の宿命みたいなもんだけど、言われてみれば手裏剣も当てはまるんだよな。とりあえず接近されないようにするっていうのは答えにならねえか。それじゃあ折角の遠近両用のメリットが薄れてしまうもんな」
「だよね。生き残るだけだったらそれでいいかもだけど、それだと与えるダメージ量が減っちゃうからあまり良くないよね?」
「んー……まあ、時間をかけることは一概に悪いとは言わねえけど、普段から生存主体の戦略で戦うのはあんまり勧められないな。いざ真正面から戦うしかないってなった時にどうしようもなくなっちまうから」
「……そうだね。実際、それで困ってる訳だし」
レッドの言うことはもっともだ。
農耕の村までの道中で襲いかかってきたウルフの群れとの戦いのように、これからも自分より数の多い敵と近距離で戦うことを避けられないタイミングは必ずやって来る。
手裏剣という武器を運用していく上で、対複数を相手にする際の戦闘技術の向上は間違いなく必須事項だった。
とはいえ、そう簡単に解決策が見つかるわけでもない。
どうしたものかと頭を悩ませているうちに、レッドがある提案を切り出した。
「……かなりのプレイヤースキルを要求することになるけど、1ついい手段がある」
「へえ、それってどういったものなの?」
「――【パリィ】だ」
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