第21話
クエストが始まってから20分程度が経過した。
この間、何をしていたかというとヨゾラと会話をしながら星を見ていただけだ。
会話といってもあっちこっちと指差しながらはしゃぐヨゾラに対して、相槌を打っていただけなのだが。
一応、身体が透けている理由やなぜフィールドにいるかなど気になることは聞いてみたが、全て「分からない」の一点張りだった。
気づいた時にはこの丘にいるようになったらしく、おまけに記憶も失くしているので、それ以上は何も聞けずに今に至っている。
それはそうと、このクエストのどこで運が絡むのだろうか。
現状、それらしき要素は未だに見つかっていない。
いい加減ちゃんと確認しようと、ヨゾラを挟んだ先で座っているセンウタに視線を移して訊ねてみる。
「ねえ、センウタ」
「……何?」
センウタがこちらに顔を向ける。
フードは外されており、墨色の瞳が何にも遮られることなくソウジンの姿を捉えていた。
「まだちゃんと聞いてなかったから今聞くけど、レッドが言っていた運要素ってどこら辺で出てくるの?」
「……あともう少ししたら。そしたら、流れ星が降ってくるはずだから。まずそこが1つ。もう1つは……流れ星が見えた後に見る夢の内容」
センウタの口から出てきた意外な単語にソウジンは首を傾げる。
「夢……って、眠ってる時に見るあの夢のこと?」
「そう、その夢。これから私たちは強制的に睡眠状態になって、ムービーみたいなのを見せられる。それで特定のムービーを見ることが例のクエストの発生フラグになってる」
「なるほど、確かに運だね。……あ、クエストがソロ限定になってる理由ってもしかして、夢が関係してたりする?」
「うん、特定のムービーはソウジンが見なきゃいけない。見せられるムービーは個人ごとで違うから、クエストも1人1人個別で受けるようになってる」
これでようやくレッドが言っていた運要素が何なのかが、ざっくりではあるが理解できた。
「……だからさっき大金を出してまでポテトサラダを食べて、LUKをたくさん上げたのか」
「そう、夢の内容に関してはパラメーター関係なしの運任せになっちゃうけど、流れ星の種類はLUKが影響するらしいから。とはいっても効果は微々たるものだけど」
「え、そうなの? それだったら高いお金払ってまで食べる必要はなかったんじゃ……」
「クエストを受ける前提条件として、この子に会うためにLUKが100以上必要になる。村で食事を摂ったのはそっちの方が意味合いが大きい。だから、ソウジンがある程度LUKに振ってくれてたのはありがたかった」
図らずも均等振りが功を奏したようだ。
ヨゾラに出現条件があることも、その内容も初耳だったのだが、先に聞かされてもそうなんだと流すだけで済ませそうだったので、特に気にすることでもなかった。
こうして、聞きたいことを聞いて疑問が晴れた頃、はっと目を見開ながらヨゾラが勢いよく立ち上がった。
「――流れ星だ!!」
言い終えるよりも先に夜空を駆け抜けたのは、細長い尾をたなびかせた真珠のような光だ。
それも1つではなく、幾筋にもなって地上に降り注いでいた。
「流星群……」
刹那に輝く光の雨を目の当たりにしてソウジンは小さく呟く。
仮初めの世界ではあるが、実際に流星を見るのはこれが初めてだ。
だけど、現実でみるそれよりも美しいと思ってしまったのは、この世界がまだ人の手によって開拓されきっていないかもしれない。
「すごいすごい! 今日は流れ星がたくさんだよ! 皆んなで見たからお星さまも頑張ってくれたのかな!?」
「うん、きっとそう。皆んなだから見れたんだと思う」
興奮を抑えきれずにぴょんぴょんと飛び跳ねるヨゾラに、センウタが優しく微笑を浮かべる。
――瞬間、全身が硬直してしまいそうなほどの緊張に襲われた。
思えば、センウタがこれまで笑顔を見せたことは一度たりとも無かった。
無愛想だからというよりは、単純に感情が顔に出ないタイプだからなのだろうが、まさかこのタイミングで見ることになるとは考えていなかった。
だからこそ余計にソウジンに加わる衝撃は凄まじく、破裂しそうな勢いで心臓を跳ねさせまくっていた。
「……ソウジン、どうかした?」
「なんもないよ、気にしないで」
今、センウタに俺の顔を見られたくないな。
恥ずかしさですぐに顔を逸らし、頭上を見上げると、今度は視界がぼやけ始めた。
次第に身体の力は抜け、周囲の音も遠くなっていく。
だが意識ははっきりとしている。
恐らく、これがセンウタが先ほど言っていた強制睡眠だろう。
意識が無くなったら、ムービーが始まるとのことらしい。
ここでなんの映像が流れるかによって、今後の展開が変わっていくというが、こればかりは実際に見てみないと分からないか。
「あれお兄ちゃん、お姉ちゃん――!?」
数秒後、ついに起きていられなくなり地面に倒れると、急速に視界が真っ黒になっていくのだった。
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