第18話

 消耗してしまっていたアイテムと勧めてもらった装備を購入して、早速新しい手裏剣と防具一式に身を包んだソウジンは軽やかな気分で店を後にした。


 ズーを倒した時から貯まっていたお金を全て使い果たしてしまったので、またも財布の中も軽くなってしまったが、そんなのは些細な問題だった。


————————————

プレイヤー名:ソウジン 

レベル:14

所持金:13G

物理攻撃力(右手):63

物理攻撃力(左手):63

魔法攻撃力:49

物理防御力:109

魔法防御力:89

【能力値】

 HP:93(+18)

 MP:60(+18)

 STR:49(+18)

 VIT:49(+18)

 INT:49(+18)

 RES:49(+18)

 DEX:49(+18)

 AGI:49(+18)

 LUK:18(+18)

【装備】

 武器(右):月影

 武器(左):月影

 頭:ハンターキャップ

 胸:ハンタージャケット

 腕:ハンターグローブ

 腰:ハンターパンツ

 脚:ハンターブーツ

 アクセサリ1:-

 アクセサリ2:-

【常時発動効果】

 ・HP+5 ・AGI+3 ・DEX+3 ・クリティカル率+5%

 ・アイテム性能強化(微) ・スタン耐性(微)

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 農耕の村に辿り着く間にレベルが1上昇していたので、装備を変更するついでにパラメータポイントも割り振ってある。

 ハンターシリーズに防具を一新したことで飛躍的に向上した防御力にちょっとだけ胸を弾ませつつ、センウタの案内で再び村の中を進んでいく。


 次に向かうのは酒場だ。

 まあ、酒場とは名前だけで大半のプレイヤーが目的とするのは食事とのことだ。

 一応、酒を飲むことができるそうだが、実際飲んでいるのはNPCか物好きなプレイヤーだけだという。


「……着いた。ここが酒場」


 村の出口付近で見えた、木製のスイングドアの上に樽ジョッキのマークが取り付けられた建物をセンウタが立ち止まって指を差す。

 見るからにファンタジー世界の酒場というデザインをしており、外からでも中の喧騒がはっきりと聞こえてくる。


 なんとなく入るの躊躇しちゃうな、と内心呟くソウジンをよそにセンウタは、迷う素振りも見せず建物の中へ入っていく。

 遅れて、ソウジンも意を決して彼女の後を追う。


 酒場の中は木製のテーブルとそれを囲う木の椅子のセットが幾つか配置され、店の奥にあるカウンターの向こう側には、店主らしき強面の男性NPCが構えているのが目に入った。

 センウタが空いているカウンター席に座ったので、ソウジンも遅れて隣に座ると店主らしきNPCが声をかけてくる。


「いらっしゃい。兄ちゃん1人かい?」

「あ……2人です。ほら、ここにいるでしょ」

「2人……? ああ、嬢ちゃんがいたのか。すまない、目立たない格好をしているから気がつかなかった」


 目を凝らしてセンウタの存在に気づいた店主は、頭を掻きながら謝罪する。

 センウタの方が先に席に着いていたというのに気づいていない辺り、本当にポンチョのステルス効果は強力みたいだ。


 ついさっきも似たやりとりをしたばかりだなと苦笑していると、センウタは気に留めることなく口を開く。


「……注文、いい?」

「あ、ああ。何にするんだ?」

「公爵ポテトサラダを2つ」

「ほう……嬢ちゃん、なかなかの通だな。だが、そいつはちょいと値を張るが大丈夫か?」

「うん、問題ない」


 ニヤリと目を細める店主に、センウタは小さく頷く。

 ソウジンにはなんのことかさっぱりだが、会話の流れからして裏メニューのようなものを頼んだことは想像がついた。


「分かった。じゃあ、腕によりをかけて作るから少し待ってな」


 そう言い残して店主はカウンターの更に奥――厨房へと向かっていく。

 カウンターにも簡易的な作業スペースはあったが、本格的に調理するとなるとそちらは使わないようだ。


「ポテトサラダかあ。そういえば最近、作ってないなあ」


 最後に作ったのは確か夏休み、叔父の喫茶店でバイトをしていた時か。

 レシピは簡単なので作ろうと思えばいつでも作れるが、手間とかを考えるとなんだかんだでジャガイモが大量に余ったりしない限りは恐らく作ることはないだろう。


「……ソウジンって料理するんだ」


 独り言のつもりで呟いたのだが、意外にもセンウタが目を丸くして反応を示した。


「まあね。両親がどっちも共働きで夜帰ってくるの遅いから、いつも自分で作ってるよ」

「そうなんだ。……凄いね、ソウジン。私は料理できないから」


 よほど自信がないのか、最後の方は声がかなり弱々しくなっていた。

 なぜかは知る由もないが、結構気にしているのかもしれない。


「大丈夫だよ。俺も最初はすごく下手くそだったから。練習してればその内ちゃんと作れるよ」

「そう……かな?」

「うん」


 気休めでしかないかもしれないが、おずおずと訊ねるセンウタに笑って答えてみせると、彼女は数秒の沈黙を挟み、「そっか」と小さく呟いた。


 それから一旦会話が止んだ後、ふと気になってソウジンがセンウタに質問を投げかける。


「そういえば、このゲームって、自分で料理することってできたりする?」

「……できる。スキルツリーで調理スキルを獲得して、スキルのレベルに見合ったレシピを持ってさえいれば。そうすれば、わざわざお店に食べに来なくても大丈夫になる」

「へえ、だったらスキルツリーが解放されたら取ってみようかな。自分で作った方が早いし、安上がりにもなりそうだ、し……」


 言葉にしてふと、ある事実に気づいてしまった。

 普通に考えれば当たり前ではあるが、ゲームだからとうっかり見落としてしまっていたことだ。


「あのさ、店で料理を食べる時って、料金かかる……?」

「もちろん」


 即答され、ビタリと思考が固まる。

 さっきの大量購入で素寒貧になったのことを些細な問題だと捉えていたが、少しも些細ではなかったし、むしろ深刻過ぎる問題だった。


「どうしよう……俺、今13Gしか持ってない。……え、これってもしかして食い逃げになったりしちゃうの?」


 明らかに動揺を隠せずにいるソウジンに対して、センウタは頭を振る。


「大丈夫。ソウジンの分も私が払ってるから、気にしなくていい」

「そうなの……? いや、それはそれであまり良くないんだけど」

「だったら、いつか返してくれればそれでいい。元より代金はこっちで持つつもりだったから。それに……そもそも、さっき頼んだ料理はソウジンがどうやっても払えない金額だし」

「ちなみに……幾ら?」

「1つで12000G」


 予想以上の金額にソウジンの思考は再び固まりかけた。

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