第17話
4つ目の拠点である”農耕の村”はこれまでの街とは打って変わって、見渡す限りに農園が広がるのどかな村だった。
とっくに陽は落ちているからか畑には人影は見当たらないが、鍬やシャベルといった農具が入った小屋が建てられているあたり、日中はNPCが農作業に従事しているのかもしれない。
「目的地はまだ先だけど、とりあえず一旦休憩。ショップと酒場に行こう」
「分かった。……けど、なんで酒場?」
「ご飯を食べる。そうすれば一定時間、何かしらのステータスに補正がかかるようになるから」
「へえ、そんなのもあるんだ。……いや、説明書で読んだかも」
曖昧ではあるが、説明書にもそんな記載があったような記憶はある。
ただ、早くゲームを開始したいが為に、自分の想像以上に流し読みになっていたようだ。
ログアウトしたらちゃんと目を通してみようと思いつつ、センウタに先導される形で村の中を進んでいく。
「先に行くのはショップ。そろそろソウジンの装備をどうにかしなきゃだから」
「そうだね。さっき痛い目見せられちゃったし」
苦笑を浮かべて、ウルフの群れとの戦闘を思い出す。
あの時、今より安定した火力と耐久があれば、もう少し落ち着いて戦えていたかもしれない。
今更、もしこうだったらなんて考えてもあまり意味がないのは分かってはいるが、今後のことを考えると精神的にだいぶ楽になるはずなのは確かだ。
近くにワープ地点らしき石碑が立てられた広場を横目に、程なくしてショップに辿り着く。
これまでに見てきたショップの店内はコンビニくらいの広さがあったが、ここに関してはそれらの半分程度しかない。
拠点が変わるとこういうところも変わるんだ、なんて思いつつ入店して店番であろう若い男性NPCに声をかける。
「すいません、アイテムを購入したいんですが……」
「この時間にお客さんか。あいよ、好きに見ていきな」
「ありがとうございます」
目の前に出現した購入画面に視線を移し、一通りの品揃えを確認してみる。
当然ではあるが、始まりの街よりも売られているアイテムは充実しているようだ。
多分、萌芽の街でも薫風の街でも同様だったのだろうが、その時は入団テスト中だった為に何が売っているか落ち着いて見る時間は無かった。
ポーションと煙玉、それとスケープゴートドールを購入するのは確定として、今回の目的は装備の一新だ。
(……どれを買うのがいいんだろう?)
装備と一括りに言っても、同じカテゴリ内で種類が幾つかに分かれている。
攻撃力、防御力を優先したもの、他パラメーターに補正をかけるもの、属性付与といったスキルが付与されたもの――といったように、プレイヤースキルのビルドに合わせて購入する必要がある。
しかし、今のソウジンにどれを購入すればいいのかを見極められる目は養われていない。
答えが見つからず頭を悩ませていると、隣に立っていたセンウタがソウジンの購入画面を覗き込んで口を開く。
「……どれを買えばいいのかで悩んでる?」
「え……あ、うん。なんで分かったの?」
「顔がそう言ってたから。……違った?」
「……はい、その通りです」
考えていることを見事に言い当てられ、つい敬語で答えてしまう。
センウタは怪訝そうな表情で首を傾げるが、すぐに画面に視線を戻した。
「――ソウジンの場合、攻撃力とか防御力の数値を優先するよりも、何かしらの特殊効果が付いているやつを選ぶのが良いと思う。例えばこれとか……これらとか」
センウタが身を乗り出すようにして指差したのは、”
まずは風車のアイテム名のところをタップして説明画面に切り替える。
————————————
『月影』
刃を湾曲させることで切れ味を高めた三方手裏剣。特殊な加工により深く刃が入り込みやすくなっている。
・攻撃力+14
・クリティカル率5%上昇
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「……クリティカル、か。確かに俺の戦い方と合ってるかも」
ソウジンが火力を出すために行っている方法は、【スイッチブレイカー】で投擲と斬撃を切り替えた際に発生する恩恵を活かしたものだ。
上昇率は5%と少し心許ないが、それでも投擲から斬撃に移行時にはよりクリティカル発生率の安定を狙えるし、逆であればワンチャンスでより多くのダメージを与えられるようになる。
手数でダメージ量を稼ぐソウジンにとっては、現状一番相性が良い武器と言って問題ないだろう。
それとハンターシリーズについてだが、言ってしまえばソウジンが現在装備している狩人シリーズの上位互換だった。
付与されている効果は、腕と脚は変わらずとして、頭装備はスタン耐性、胴は最大HPの上昇、腰は使用アイテム性能強化である。
フルプレートアーマーのような他の防具と比べると防御力は劣っているが、軽装である方が動きやすいし、それに下手に違う系統の防具に一新するよりは安牌でもあった。
「……どう?」
「うん、これにするよ。折角、センウタが選んでくれたからね。ありがとう」
「……どういたしまして」
センウタが気恥ずかしそうに顔を背ける傍ら、店番のNPCが訝しげにソウジンを見つめていた。
「兄ちゃん、えらく独り言が多いな」
「……独り言? ――あ、なるほど。もう一人いますよ」
ポンチョによるステルス効果はNPCにも適用されているようだ。
ほら、とフードを外したセンウタに視線を向けさせれば、「うひゃあああっ!」とNPCは素っ頓狂な叫び声を上げるのだった。
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