第4話
「――えっと、つまり手裏剣を使うのも、パラメータを全部同じに振り分けるのも、どっちも器用貧乏っていうか中途半端になっちゃうからあまり良くない……ってこと?」
「言ってしまえばそうなるな。俺が調べた限りだと、上位プレイヤーって呼ばれている連中にソウジンみたいな感じでやっているのはまずいないと思うぞ」
「そうだったんだ……」
買い物と並行してイチロウから教えられた数々の驚愕の事実という名の基礎知識に、ソウジンは少なからずのショックを受けていた。
自身としては良かれと思っていた手裏剣と均等振りがまさか悪手だったなんて考えてもいなかったのだ。
これが強い、あれは弱いといった評価はあまり興味がないにしても、面と向かって現実を突きつけられると流石に堪えるものがある。
しかしながら、他の武器と比較していないからなんとも言えないところはあるが、実際に使ってみた感じとしては、手裏剣が評判ほど弱い武器とは思えなかった。
「まあ、なんだ……そんなに気を落とすことでもないさ。パーティーを組んで攻略する性質上、役割をはっきりさせるためにステータスも武器もそれ用に特化させるのが分かりやすく強いし、運用も簡単ってだけだ。最終的に大事になってくるのは、使用者本人の適正と腕次第だから無理に変える必要もないと思うぞ」
「そっか……なら、このままでやっていこうかな。強いか弱いかとかは別として、手裏剣で戦うのって凄く楽しかったし」
「ああ、それでいいと思う。最初のうちは性能とか周りの評価じゃなくて楽しさ、面白さで選ぶのが一番だ。強さを求めるのはゲームに慣れてからでもいい。……けどまあ、今からその強さが大事になるんだけどよ」
「あはは、確かに」
乾いた笑みを浮かべるイチロウに、ソウジンも声を立てて笑ってみせた。
あまり知りたくなかった事実ではあったが、遅かれ早かれいずれは知らなければならないことではあった。
現在の状況において重要なのは、これからどうやって円卓の入団テストを合格するかということ。
自身の弱い点を知っているのと知らないのでは、対策の立て方に雲泥の差が出てくるので、むしろ教えてくれたイチロウには感謝するべきだろう。
「だから一つだけ確認しときたい」
ここで、一拍おいてから真剣な表情に切り替えたイチロウが問いかけてくる。
「手裏剣と均等振りのまま挑むか、それとも攻略特化の構成に修正をかけるか。ソウジンはどっちでやるつもりだ?」
きっとこの選択は、側から見れば些細なことだろう。
だがソウジンからすれば今後のプレイスタイルを左右する重大な選択になる。
それでもソウジンは、躊躇うことなく答えてみせた。
「今のままでやるよ。さっきも言ったけど、手裏剣で戦うの楽しかったから満足するまではこのままやっていきたいし、いつか魔法も使ってみたいから。あとくだらない理由かもしれないけどさ、折角同じに割り振ったパラメータを変に崩したくないなあ……って。おかしいよね?」
最後に恐る恐る訊ねると、イチロウは快活に笑って答える。
「はははっ、なんだそりゃ。……でも、そういう変なこだわりみたいなのって俺は好きだぜ。よし分かった、この状態のままクリアするために何を買うか考えるか。まずは防具からだけど――」
こうしてイチロウの教えを受けながら、入団テストに向けて改めて購入アイテムを決めていくことにする。
————————————
プレイヤー名:ソウジン
レベル:5
所持金:7G
物理攻撃力(右手):30
物理攻撃力(左手):30
魔法攻撃力:26
物理防御力:39
魔法防御力:26
【能力値】
HP:43(+13)
MP:28(+13)
STR:26(+13)
VIT:26(+13)
INT:26(+13)
RES:26(+13)
DEX:26(+13)
AGI:26(+13)
LUK:13(+13)
【装備】
武器(右):初心者の手裏剣
武器(左):初心者の手裏剣
頭:-
胸:村人の服
腕:狩人の手袋
腰:村人のズボン
脚:狩人のブーツ
アクセサリ1:-
アクセサリ2:-
【常時発動効果】
-
————————————
「……まあ、こんなものか」
新しく購入した防具の装備を終えたソウジンのステータスを見ながら、イチロウがふうと一息吐きながら呟いた。
購入した防具は”狩人の手袋”と”狩人のブーツ”。
本当は武器もワンランク上のものに買い替えたかったが、予算が足りず断念した。
攻撃力を捨ててまでこれらの防具を選んだのは、防御力の向上というよりそれぞれについているAGIとDEXの上昇補正を狙ってのことだった。
AGIを上げたのは、純粋に移動速度を上げることで移動時間を短縮させる為でもあるが、それよりもエネミーとの戦闘から逃げやすくなることにある。
時間制限がかけられている以上、道中に出てくるエネミーと律儀に毎回戦っていたら途中で回復アイテムと所持金が尽きるのは目に見えているし、そもそも低レベルで戦うとなると防御力が低すぎて、仮に全身の防具を一新したとしてもまともに戦うどころか、なんなら一撃耐えるかどうかも怪しかったりする。
なので、なるべく戦闘自体を避けるという方針を取ることで、少しでも生存確率を上げることにした。
しかし、AGIに特化していないソウジンでは、全部のエネミーから逃れるのは極めて難しい。
そこで対策としてイチロウから勧められたのが”煙玉”だった。
煙玉の効果は、投げて命中させたエネミーの視界を奪い、プレイヤーを見失わせるというもの。
仮に走って逃げることができなかったとしても、煙玉と組み合わせることで戦闘から離脱しやすくなるはずだ。
ただし手裏剣と同様、投擲による命中精度はDEXが大きく影響するので、煙玉をエネミーに投げてぶつける為にはある程度のDEXを確保しなければならない。
とはいえ、均等振りによってDEXにもポイントを割り振っていたおかげで、この問題に関してはそこまで気にしなくてよさそうだった。
煙玉を所持制限いっぱいまで買い込み、余ったお金は全てポーションに注ぎ込んだことで所持金は底を突いてしまったが、これで準備は整った。
あとは全力で入団テストに挑むだけだ。
「ありがとう! 色々教えてくれて本当に助かったよ!」
メニュー画面を閉じてからイチロウに礼を告げると、ポンと背中を叩かれる。
「このくらいどうってことねえよ。オリチャー組んでるみたいで楽しかったしな。それじゃ、またどこかで会おうぜ、ソウジン。入団試験頑張れよ」
「うん、また会えたその時には良い報告ができるようにするよ」
最後に「じゃあね」と別れを告げてから店を出ると、街の中は円卓の入団テストの話題で持ちきりになっていた。
中にはソウジンと同じように、なんでこんなに騒然としているのか不思議そうにしているプレイヤーもいたが、割合的には少数と言っていいだろう。
何となく察してはいたが、想像以上にあの2人の知名度は高いようだ。
「やっぱりあの人たちって凄かったんだ。……よし、それじゃあ行こう」
未だにこのテストがどれほど貴重なチャンスなのかあまり実感できていないが、折角やるのだから全力を尽くすだけだ。
改めて気を引き締めると、荒鷲の丘の頂上を目指し、街の外へと駆け出した。
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