この異世界に名前を付けよう

たられば

第1話 名付け屋さん

視界が薄れてゆく

「ああ、死ぬんだ」

私は自分の身体が冷たくなっていく感覚に陥った、手足も思うように動かない、だが自然と恐怖はない。

「やっと、楽になれる」

そう言って意識は消えた。

ーー

ーーー

ーーーー

「大丈夫ですか?」

すぐ横で声がする気がする、意識がまだハッキリとしない。

「お姉さん、お姉さん!」

「えっ、私?」

呼び掛けが自分に対するものだと気づきハッとした。声の主はまだ15歳くらいだろうか、左手に大きな杖を持った少年だった。

「どうかされたんですか?うなされてたみたいでしたけど」

「いや、えと」

声がつまる、ここどこだ、ていうか何してたっけ、あれ、てか私だれ。おかしい、何も思い出せない。てか体だるい。

「ここ、どこ」

何も思い出せない自分に動揺していたせいで少年の答えにすらならない返答をしてしまった。

「ここですか?ここは教会ですよ、ってもしかして酔っ払いさんですか?」

「え?」

確かに言われてみると自分の口からアルコールの匂いがする。

「はあ、名前は何て言うんですか?お家まで送りますよ?」

何だこの少年はいっちょまえに他人のただの酔っ払いかもしれない自分を助ける気なのか。

「酔っ払いさん?お名前は?」

何か高圧的だなこの少年は、明らかに年下だろうに、年上の人が怖くないのか。

「ごめん、覚えてない」

「は?」

まあ、ここは正直に言っておこう、何かこの少年をもの凄く困らせたい衝動がとまらない。

「まあいいです、見ますから」

そう言って少年は1冊の本を服から出した。

「なにそれ」

「本当に全部忘れちゃったんですか、これは人類全ての人の名前が刻まれている世界に二つとない本なんですよ」

「へー」

いや、その本結構薄くないか、て言うか何でそんなのをこの少年が持ってるんだ、お姉さんをからかってるいるのだろうか。

「えっと、あれ」

少年は何度も何度もページをめくって必死に私の名前を探しているようだ。

「君さ、お姉さんを酔っ払いだからってからかってるでしょ」

少年は余計に必死になっていた、次第にページをめくるスピードも遅くなっていった。

「酔っ払いさん、もしかして、いやそれなら」

少年は少し独り言を言って考え事をしている、何だろう、警察ごっこ?ぽくないけど。

「まあいいです、無いものは付ければいいんです」

え、この子が私の名前つけるのか、いくらなんでも名前だけはちゃんとつけられたい、と言うか絶対親に付けられたはずのキュートな名前が私にはもうあるはずなんだけどな、思い出せないけど。

「少年君さ、あんまりお姉さんをからかっちゃダメだよ」

「はあ、酔っ払いさんはもう黙っていて下さい」

少年はそう言って片手のひらを自分に向けてきた。

「ーーー、ーーーーーーー、ー、ーーー」

「何語?それ」

少年が何かを唱えたあと目の前が眩しく光る。

「なにここ」

目を開けるとまた見知らぬ地だった、綺麗な緑に少し冷たい風が木々を揺らして泣いているようだった。

「ーーーさん」

またすぐ横で声が聞こえる、何だろう、懐かしい気がする。

「エネさん!」

「わあ!」

私は寝ていたベットから飛び起きた、どうやらさっきの少年だ、私の名前だろうか、名前を呼ぶのはさっきの少年だった。

「とりあえず名前は付けときましたから」

何だこの少年は、まだ訳の分からないごっこをやっているのか、いい加減疲れるんだけどな。

「あのさ、悪いんだけど二日酔い?みたいだし疲れてるから遊びは私以外とやってーー」

「こっちも酔っ払いさ、いやエネさんの相手は疲れるんで困ってるんですけど」

何だ、生意気だな、少年わからせるぞ、私年上だし男の子だからって全く怖くないのだが。

「はいはい、じゃあ僕がごっこじゃないってわからせてくれたら付き合ってあげるよ」

「はあ」

少年はため息を着くと再び手のひらを私に向けてきた。

「少し痛いですよ」

私に黒いオーラ?が身体全体にまとわりついてきた、何だろう、どんよりして重たい。

「ーー、ーーー、ー、ーー」

「いたっ!」

瞬間痛みが走る、しかも身体の至る所から中から臓器を掴まれているような気持ちだ。

「信じてくれました?」

「いや、静電気でも起きたかな」

「はあ」

少年は威力を強めたのかより黒いオーラ量をましてより黒くなったオーラを全身に浴びた私はとてつもない激痛と悪寒、恐怖が駆け巡った。

「痛い痛い!」

「信じます?」

「は、ショタが」

少年の顔が少し曇って手のひらを上に向ける。

「これ分かります?さっきのとは比にならないくらい黒いですよね、どうです?」

笑顔が話してくる少年は1ミリも笑っているようには見えなかった、と言うよりさっきよりどす黒い色をしたオーラが怖い、てか今のままでもやばい、てか死ぬ。

「ご、ごめん!ギブアップ!」

そう言うとスっと黒いオーラが身体からとれると同時に痛みも引いた。

「なにそれ、魔法使い?ずるじゃん」

「わからせろって言うからですよ、それとこれは魔法じゃないです」

「さっきのは名前を無理矢理とろうとした反動を利用したんです」

また何を言ってるんだこの少年は、でもさっきの出来事がこの子の言ってることを信じざるおえない。

「何それ、私も使える?」

「まさか、これは名付け屋にしか使えませんよ」

「名付け屋?」

「人類に名前を渡す人のことです」

なんだ、名前を渡す?理解が追いつかない。

「まあ、その内思い出すんじゃないですか」

あっさり理解が追いつかないまま会話が切られた。

「そんなことよりエネさん、名前もつけたんですしまずはここを出ましょう」

「てか君、君のは名前はなんて言うの?」

「僕は名付け屋です、名前は無いです」

そう言って私の手を外へ引くては少し寂しそうだった。

「まぶし」

外の光が中に差しんできた、風も外の空気と一緒に私たちの体に当たる、暖かいような、外の雰囲気が分かる。

「手、離さないでくださいね」

デレたのかとも思ったが、嫌な予感がする、

外から流れてくる空気の雰囲気が変わる、きっとこれは間違いない、フラグってやつだ。









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この異世界に名前を付けよう たられば @Noah5511

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