不安

そんなこんなで旅をしてから2週間が経っていた。そこで俺は気付く。

あれ?モンスター弱くね?雑魚過ぎるんだけど。そろそろ強くなっても良くない?もう魔王城の道のりの半分以上過ぎたんですけど。もしかして、いやまさかね、そんな事ないよね。と不安に思いながら次のダンジョンに入っていく。すると

「久しぶりだな、勇者よ。俺達を覚えているか?」

2匹の魔物が立ちふさがった。

「いや、覚えてないので自己紹介お願いします。」

「なめてんのか、てめぇ!!良かろう、この名前を聞き、再び恐怖を思い出すがいい!!我が名は阿牛!!」

「和が名は吽馬!!貴様ら全員まとめて捻りつぶしてくれる!!」

中ボスらしき存在の出現に俺は興奮する。

「おっしゃぁっ!!来たぜ、中ボス!!!」

「なんであんたそんなに喜んでるの?キモッ」

既にシャルの罵倒には慣れ始めていた俺は無視して続ける

「遂に俺の実力が試される時が来たからだよ!よしっ、やるぞ!!お前らっ!!」

「回復はまかせろ~」

「ったく、分かったよ。さっさと終わらせるぞ。」

「ふふっ、懐かしいな。この感じっ!!」

俺の掛け声で皆一斉に武器を構える。おぉ!!!戦いっぽい!!!

また感激して俺意気揚々と技を繰り出す。

「喰らえっ!!ジェットスラッシュ!!」

 ドッゴッーン

えっ?何この威力?阿牛と吽馬、跡形もなく消し飛んじゃったよ。噓じゃん。

「お~」

「えぇ…」

「つ…強くなったんだな、カリバー。」

頼む3人とも、そんなに引くな。俺も俺自身に引いてんだから。どうやら俺の不安は的中してしまったようだ。

「俺、何かやっちゃいました?」

とりあえず決め台詞を言っておく。


 魔王の進軍を待っている間に鍛えすぎた俺は、どの魔物よりも強くなってしまったようだ。どんななろう系だよ。

「はぁ…」

次についた村の宿でしょげる俺。これじゃあ、手に汗握るバトルも、戦いの中で成長していくことも出来ない。

「まあ、あれだ、強くなることは悪いことじゃないぞ?」

フォローありがとう、ガルド。

「カリバーが強いと私たち楽できるし~、良いんじゃな~い?」

それもそうだな、ハープ。

「・・・・・・・・ドンマイ」

お前の優しい言葉が一番刺さるよ、シャル。

「はぁ…」

俺は本日2度目の溜息をついた。


「かかってこいやぁぁああぁ!!」

次の日から俺は吹っ切れた。魔王の封印も解くと言う大罪を犯したのに、ろくに冒険できないことを知ってしまったらやけにもなる。そんな俺に憐みの目を向ける仲間たち。その目をやめなさい。その憐みの視線は冒頭で味わったよ。

 俺の怒涛の勢いで一気に魔王城への道を駆け抜ける。途中で何匹かダンジョンのボスらしき奴にも出会ったが、速攻ぶっ飛ばした。

ちくしょう、そんなにあっさりやられないでくれ、もっと頑張れよ!心の中でそう思いながら俺はひたすらダンジョンを走り抜けていく。


 走り抜くこと30分、前に出た村から3つくらい離れた村に着いていた。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

流石に疲れた。今日はここで休もう。

「おつかれ~」

「・・・・・・・・」

「大丈夫じゃ…ないよな…」

今まで俺に黙って付いてきてくれた仲間が声を掛けてくれる。ありがてぇ、仲間っていいな。

「一人で熱くなってごめん。これからは少しペースを落として進もう。」

そう提案する俺に皆は

「さ~んせ~い」

「少しは頭が冷えたみたいだな、アホ。」

「その方がいいな」

と賛同してくれた。


 それからは楽しいピクニックみたいな冒険になった。てか、ほぼ楽しいピクニックだった。魔物は俺が殴れば死ぬし、たまに盗賊とか来るけど負ける訳なかった。ここまでくると俺は剣を抜かずに拳で戦っていた。どこまで拳で通用するか皆で賭けをして、3人とも「魔王までは行ける」に賭けていた。町や村に到着したら、その町でクエストを受けて金を稼ぎ、金を稼いだら買い物をする。そんな事を続けながら早1週間、俺たちは魔王城に着いた。


「クハハハハハ、良くぞたどり着いたな、勇者どもよ。だが、貴様らの命もここまでよ。」

何がクハハハハハだ。あんな雑魚モンスターばっかりよこしやがって。てか、こっちを見て頬を赤らめるんじゃねぇ。

「魔王よ、何故復活したのかは知らぬが、次は2度と復活出来ぬようにここで貴様を討つ!!」

そう勇ましく言い放つガルド。かっこいいっス、ガルドさん。魔王復活させたの俺だけど。

「フンッ、前のワシとは思わぬがいいぞ、貴様ら。更に強くなったワシの力、思い知るがいいっ!!」

そう言い放つと魔王は

「メテオゴルバッ!!!」

と特大の火の球を放ってくる。その向かってくる火の球に

「火の球斬り」

適当に技名を言って剣を振る。

スパーン

火の球は綺麗に真っ二つになる。

「えぇ…」

魔王ドン引き。そりゃそうなるような。でも、その反応はもう見たんだよ。俺はドン引きしてる魔王に近づき

「そんじゃあな、ガッテム。色々とありがとう。」

そう言って俺は

「魔滅斬っ!!!」

魔王を切りつけた。

「ぐああっ!!!」

本当に一発でやられてしまった。嘘だろ、魔王。もっとやれるだろ!!!第二形態とかあるんだろう?あると言ってくれ!!!

そんな俺の期待もむなしく、魔王は呻いて床に倒れた。そして、俺を見つめて

「初めて下の名前、言ってくれたね…」

と言って絶命した。感動するアニメみたいなセリフ言って死ぬのやめろ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る