転生
気が付くと見慣れない天井がそこにあった。むくりと起き上がり、周りを見渡す。どうやら病院と言うわけではなさそうだ。
そこはとにかく広い寝室らしき場所。そして、俺の隣に寝ている全裸の美女。
「うへぇっ!!!」
思わず変な声をあげる。なんで俺こんな美女と寝てるんだ?てか、俺も全裸じゃん!!!この美女と営んだ記憶無いんだけど!!!どうせなら昨日の夜から転生させろよ、女神!!!
「うぅん」
そんな事を考えていると美女がうなる。起こしてしまっただろうか。
「おはよぉ、勇者様。もう起きるのぉ?」
「あ、ああ、もう起きようと思うよ。」
「私はもう少し眠るねぇ。」
そう言って美女は再び眠りについた。よく見るとこの子、耳が長いな。まるで
「まさか、本物のエルフか!?!」
マジか、興奮してきたな。そうやって一人で盛り上がっていると寝室の扉がノックされる。
「勇者様、お目覚めですか?」
俺は慌てて服を着て扉を開ける。そこには丸メガネでショートカット、メイドと思われる格好をした女の人が立っていた。
「今、起きたよ。」
「あら、今日は全裸で出てこないのですね。」
おいおい、普段の俺何してんだ?
「俺、いつも全裸で出てくるの?」
「はい、その通りでございます。お忘れですか?もしかして頭を打って記憶喪失に?ただえさえ悪い頭が、さらに悪くなってしまったのですか?」
あれ、何か辛辣じゃね?もしかして俺嫌われてるの?転生前と変わらないじゃん。
しょんぼりしていると
「朝食の準備が出来ております。冷めないうちにおいでください。」
そう言って一礼し去ろうとするメイド。
「ちょ、ちょっと待って。」
「はい、何でしょうか?」
「朝食食べる場所何処だっけ?」
「はい?」
「最悪だ…」
屋敷から出た俺は溜息をつく。朝食を食べる広間だけでなく、トイレの場所さえ分からない俺をメイドたちはすごく哀れみの目で見てきた。約一名は仕事の邪魔だと睨みつけてくるメイドもいた。まぁ、その一名は最初にあったメイドなんだけど。
いたたまれなくなった俺は屋敷を飛び出し、今にいたる。
「どうなってんだ?クソっ、いきなり成人状態で転生させやがって。普通生まれたばかりの赤ん坊とかだろ。あの性悪女神、適当だな。」
“誰が性悪女神ですか?”
「ヒエッ」
突然頭の中に声が聞こえる。こいつ、脳内に直接…!
「女神様⁉いきなり、どうしたんですか?」
“いえ、何かお困りのようなので少し手助けをしようと思いまして”
「流石女神様、ありがたや、ありがたや。」
“いいですよ、もっと私を崇めなさい。”
「最悪だ…泣きそう」
あの後、俺のおだてに気分をよくした女神様はこの世界について事細かに説明してくれた。
「まさか…まさか魔王を倒した後の勇者に転生したなんて…」
そう、この世界の俺、つまり勇者は既に魔王を倒し、魔物も全滅させた後の世界だったのだ。
「やる事全く無いじゃねぇか。」
魔王を倒しに行くハラハラドキドキの冒険も、仲間と一緒になって戦い、そこから出来る友情や絆も既に出来上がった状態なのだ。
「そんな経験、俺してないんだが。」
前の勇者はそんな経験をしたかもしれないが、今日来たばかりの俺は何も知らない。
「しかも、俺、皆から見下されてるし…」
どうやら前の勇者は女たらしのクソ野郎だったらしい。勇者に泣かされた女の子は沢山いるので、この世の女の子はほぼ全員が勇者の敵らしい。何だよこの世界、クソゲーじゃん。
「これからどうしよう…」
女神様を再び恨みながら、今後の事を考える。今までの勇者の生活をなぞって行動すると女を抱き、昼まで眠り、また女を抱く。“さよなら”って書かれた手紙が届いて、そろそろ刺されるな、俺。
「でも、やることないしなぁ」
それが問題だ、何もやることが無い。どうしようか考えて
「取り合えず、この世界の過去の出来事を調べてみるか。」
そう思い立った俺は書物室に向かう。
「なるほどねぇ」
この世界の歴史を振り返った俺はそう呟いた。どうやらこの世界は魔王ガッテムに支配されていたらしい。その支配を終わらせるべく俺、勇者カリバーと4人の仲間、僧侶のハープ、魔法使いのシャル、タンク的存在のガルド。パーティーが俺以外女の子なのが前の俺の最低さを際立たせる。そんな俺たちは、幾つかの村を転々としながら魔物と戦い、遂には魔王を倒し、この世界に平和をもたらしたらしい。
さらに言えば、勇者に助言したり、魔王退治に行かせたのはあのシュテルとか言う性悪女神だった。マジかよ、あいつ、この世界がどうなっているのか知ってて俺をここに送り込んだのかよ。
まぁ、倒したと言っても魔王が強すぎて倒せなかったらしい。しょうがないから、魔王の城ごと封印したみたいだ。なんだよ、封印しただけじゃん、討伐してないじゃん、タイトル詐欺じゃん。でも、そうと分かればやることは一つ。
「魔王の封印解きに行きますか。」
そう言って俺は旅の準備をするべく、部屋に向かった。
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