308話 兵子の手がかり

 ドーピングに次ぐドーピング。

 レベルアップに次ぐレベルアップ。

 ゼット・シティにおける修行の日々を終えた仲間たちの最終的なステータスは、以下のような結果に終わった。


『個体名:ヴィーラ

 レベル:35

 こうげき:76

 ぼうぎょ:9

 まりょく:176

 みりょく:232

 すばやさ:221

 うん:15

 

 覚えているスキル

 《キュートなキス》

 《ドレインなキス》

 《体当たり》

 《捨て身》

 《電光石火》

 《魅惑のダンス》

 《解毒のダンス》

 《癒やしのダンス》

 《歓喜のダンス》

 《眠りのダンス》

 《赤い靴》

 《剣の舞》

 《水系魔法Ⅰ》

 《水系魔法Ⅱ》

 《水系魔法Ⅲ》

 《トランスモード》

 《回避Ⅴ》

 《にげる》

 《飢餓耐性(強)》』


『個体名:ワトスン

 レベル:31

 こうげき:201

 ぼうぎょ:109

 まりょく:1

 みりょく:20

 すばやさ:221

 うん:8

 

 覚えているスキル

 《ビームⅠ》

 《ビームⅡ》

 《ビームⅢ》

 《ビームⅣ》

 《ビームⅤ》

 《体当たり》

 《電磁波》

 《スキル鑑定》

 《カルマ鑑定》

 《経歴詐称》

 《防御力Ⅴ》

 《すばやさⅢ》

 《飢餓耐性(強)》

 《雷系魔法Ⅰ》

 《雷系魔法Ⅱ》

 《雷系魔法Ⅲ》』


『個体名:よし子 

 STR:18

 CON:13

 POW:13

 DEX:12

 APP:13

 SIZ:8

 INT:17

 EDU:12

 年収:1000万

 財産:4500万

 

 覚えているスキル

 《言いくるめ》:79

 《応急手当》:89

 《聞き耳》:76

 《製作:料理》:55

 《目星》:67

 《ナビゲート》:80

 《こぶし》:99

 《回避》:89

 《マーシャルアーツ》:99

 《変装》:30

 《医学》:8

 《博物学》:5』


 相性の差を考慮せず、単純なステータスの強さで言うと、


 ヴィーラ>ワトスン>よし子(?)


 といった結果に終わっただろうか。



 最果ての街、――ゼットシティに滞在すること、十数日。

 数々の難事件を解決していく外国人サモナー、仲道狂太郎の噂は、あっという間に周辺の街に響き渡った。


 最近ではもう、無料の宿泊施設に泊まっていると、依頼の希望者が後を絶たなくなっていて、やむを得ずいまは、有料のアパートを借りてそこで暮らさざるを得ないような状態になっている。


 そうしているメリットもあった。――有料の宿泊施設には、専用のパーソナルコンピュータが備え付けられていて、そこにビデオメールを保存しておくことができたのだ。

 メールアドレスを、各街のチーフ・サモナーに送信しておいたところ、定期的に連絡が訪れるようになった。


 ”悪魔島”からゾンビが一掃されたものの、元住人はあの悪夢を忘れられないらしく、復興の目途は一切たっていないこと。

 ”普通の男オーディナリー・マン”の身元は、いくら調べても一切わからなかったこと。


 チーフたちは献身的に、その後の進捗を教えてくれたという。


 そんな中、ビィ・シティのチーフ。――最初にヴィーラが戦った、”ニンゲン”属性使いの男が、ビデオ・チャットにて、このような連絡をくれた。


『どうもスカーレットのやつ、ここ最近ずっと失踪していたらしいんだ』

「失踪?」

『うん。どうも彼、いつも連れている用心棒を置き去りにして、行き先も告げずに出かけてしまったらしい』

「この世界の秩序の守護者がそのような振る舞いをするとは、にわかには信じられんな」


 これは要するに、国が保有する一個師団が丸ごと失踪したに等しい。

 もっと騒ぎが大きくなって然るべき状況のはずだった。


『うん。――だからこそ、関係者たちはみんな、内密に処理しようとしてしまったようだ』

「内密に、って……そんな、個人的に秘密にしておけるようなものなのか?」

『チャンピオンの仕事は、いつも秘密主義的に進められるのが普通だからね。特に現在のチャンピオンは口数も少なくて、謎の多い人だから』

「………………そうか」


 特定個人の人格に、秩序維持を任せるとこうなる、ということか。


「しかし、そうなると少し困ったなあ。仲間も育ってきたことだし、そろそろ彼と会う予定だったんだが。――何か手がかりはないのかい」

『ある。だからこうして、ビデオ・チャットをかけたのさ』


 ビィ・シティのチーフは、胸を張って応える。


『どうもスカーレットは、失踪する直前にマツバラ・ヒョウゴと出会っていたらしい』

「兵子と?」

『うん。ディ・シティのチーフに聞かされていた外見的特徴と一致する。間違いなく彼だよ』

「何」

『その後、スカーレットが失踪した訳だからね。二人は同行していると考えるべきだろう』


 それが事実なら、希望が持てる。

 松原兵子は、”転移者”に殺されてはいなかった。


――だが、もしそうなら、なんで会社に連絡を寄越さない?


 最近、ちょっぴり無精髭が目立ってきた顎を撫で、しばしの黙考。

 そして、


「わかった。他に何か、情報は?」

『ない。――というか、こちらこそ情報がほしいくらいだよ。チャンピオンの行方がわからなくなっていることが公になれば……大騒ぎになってしまうだろうし』

「なるほど……」



 と。

 そんな話をしたその日。

 改めて兵子の足取りを追うべく、ゼット・シティの娯楽室を調査していた時のことである。

 この頃の狂太郎は、兵子の足取りに関していくつか、仮説を思いついていた。

 というのも、


――兵子のやつ、何か、考えがあって身を隠しているのかも知れない。


 このことにようやく思い至ったのは、……狂太郎自身、彼の能力を甘く見ていたことが挙げられる。

 何せ狂太郎、兵子に一度、勝っている。

 その事実が、少々彼を傲慢にしていたのだろう。

 あるいは、


――松原兵子は、ぼくが護らなければ。


 そんな風に思っていたのかも知れない。

 いずれにせよ、兵子の行動を深読みするのであれば……現状、彼へと繋がる手がかりは、たった一つだけだった。


――あいつ、なんで色んな街に、ボードゲームをおいて行ったんだろう。


 ずっと、彼の個人的な趣味の一環だと思い込んでいた。

 あるいは、彼なりの情報収集術なのだろう、と。


 だが、もしもという可能性がある。

 もしも、――彼の行動に、ちゃんとした意味があるのなら。

 一応、調べる価値はあった。


「コヨーテ! ……あー、失敗だー!」


 娯楽室の一画では、いまも兵子が残していったゲームが遊ばれている。

 いま、男たちが遊んでいるのは、『コヨーテ』というカードゲームだ。


「あの。――すいません。そのゲーム、ちょっぴり見せてもらっても構いませんか」


 訊ねると、男たちは眉をくいっと上げて、


「いいよ。……あ、でも、ワンゲーム終わってからでいいかい」

「それには及びません。一瞬見るだけですから」

「一瞬?」


 次の瞬間、狂太郎は《すばやさ》を発動させ、ゲームに必要な36枚のカード全てを精査している。


「ありがとうございました」

「えっ!? いま、何かしたかい?」

「一瞬だけ見ただけです。一瞬ね」


――カードに異常は、なし。


 ただ一点、気づきがあった。

 兵子が持ち込んだゲームは基本的に、この世界の言語を翻訳した説明書が付属されているのだが、その中に一行、『インディアンポーカー・22』という日本語が書き込まれていたのだ。

 その時の、


――見逃していたのか。


 という、自身の間抜けさに対する憤りは忘れられない。

 これまで何度か、ボードゲームに触れる機会はあったのに、調査を怠っていたのだ。


 松原兵子の、仲間へと向けた、暗号。


 とはいえこれは、ちょっとした偶然に助けられたと言って良いだろう。

 のちに、その娯楽室内にあったボードゲームの箱を全て調べたところ、暗号らしきものが含まれていたゲームは、この一枚きりであったためだ。


――あいつめ。見逃すところだったんだぞ。


 嘆息しつつ、狂太郎は説明書を懐に、その場を後にする。


――ゲームをするとき、少し不便になるだろうが。


 とはいえ世界平和のためだ。やむを得まい。


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