281話 勧誘

『それで俺、あの野郎に言ってやったのよ(笑) 「おまえ、製造工程でネジが一本、抜け落ちちまってるんじゃないか」って(笑)』

「あのぉ、すいませーん。正義の味方に興味はありませんか」

『間に合ってまーす(笑)』


『このまえ俺、シティの方の知り合いに会いに行ったんだけどさ。そこでめっちゃくちゃカワイイ掃除機を見つけちまって。……あーっ、彼女とバッテリー交換、できねえかなあ?』

「ええと………ちょっといま世界が危機に瀕しているんですけど。一緒に世界を救いませんか?」

『すいません、さよなら』


『ピーッ、ガガガ! ぴがぴが! ぴー、ぴー、ぴー!(一同爆笑)』

「すいませーん。ぼくと契約して、……世界を救いませんか」

『ぴがががが! ぴが!(一同退散)』


『レーザービームと金魚の共通点を知ってるか? その答えは……「どちらも口笛を吹けない」ってこと! ……このジョーク、知り合いに聞かされたんだが、どこにユーモアがあるか、きみにわかるか?』

「やあ、こんにちは。ところで、この、優秀な救世主であるぼくと一緒に……」

『ごめんなさい、いま友だちと話してるんで……』


『競馬の必勝法を教えてやろう。一流の見習い騎手の、2番人気に賭けることだ。決して1番に賭けてはいけないよ。なぜなら……』

「きみ、良い身体してるね。”救世主”のチームに入らないかい?」

『空気読んでもらえます?』


 声をかけては、逃げられ。

 声をかけてはまた、逃げられる。

 勧誘は、全てハズレに終わった。


 やがて、十数度目の試みが失敗に終わって。


「やれやれ。さすがに心が折れてきたぞ」


 眉間を抑えて、狂太郎は考え込む。

 どうも連中、ずいぶんと勘が良い。

 狂太郎と契約したら、きっとこき使われることを察しているらしいのだ。


『ほーらね? あたしたちモンスターは、サモナーのキンタマを見抜くことができるわけ(私たちには、サモナーの器量がわかるのです)』


 そういえば彼女、最初からこちらが新人”サモナー”であることに気づいていたな。


「それって、見た目の感じなのか?」

『そーともいえるし、そうではないとも言える……って感じ?』

「なんだそれ。わけがわからん」


――自分みたいな強面キャラって、少なくとも弱そうには見えないはずなんだが。


 渋い顔で、次の一手を模索する。

 どうもこの感じ。数をこなせばいいわけではない気がした。

 もちろん、この調子で何百台のモンスターに声かけを行えば、そのうち誰か、話くらい聞いてくれるだろうが……。


――それだと、実際に契約するまで、何千回と同じことを繰り返す必要がある。


 それはさすがに、許容できないレベルの非効率さだ。それをするくらいなら、ヴィーラ一匹でごり押したほうがよっぽど手っ取り早い。


「やむを得ん。少し作戦を変えよう。危険だが、あの雷岩に近づいてでも、モンスターの勧誘を行う」


 すると本の中から、『えっ』と驚いた声がして。


『それはさすがに、危険じゃね? ふにゃちん野郎の身体じゃ、すぐに死んじゃうと思うけど(それは危ないので、止めた方が賢明ですよ)』

「もし感電してぶっ倒れるようなことになったら、きみが街まで運んでくれ、な?」

『ばかばかっ、ちんこ!(非常に愚かな選択です)』


 とはいえ、狂太郎が大胆な行動に出られたのは、”救世主”として与えられた《異界適応術Ⅰ》があるためだ。これさえあれば、少なくとも微弱な電磁波の類は無視することができる。


――そこまでする覚悟があるやつだ、と。……そう思ってくれればいいのだが。



 しかし結果的には、狂太郎の想いとは裏腹のことが起こった。


「――なんかむしろ、辺りのモンスターみんな、離れて行ってる気がするんだが」


 独り言のつもりで言うと、


『ほーんとあんた、どうかしてるわ! ジョーシキってものがないのね!』

「そーお?」

『そうよ! ちょっと考えてごらんなさい。今やってることって、処女の股ぐらにイキナリ手ぇ突っ込むよーなものよ?(そうです。少し考えて下さい。自分たちの居場所に、土足で踏み込まれる気味の悪さを)』


 狂太郎は少し、咳払いをして、


「だが、それくらいで怖じ気づくようなやつじゃあ、ぼくの仲間は務まらない。……昨日話した通り、ぼくはチャンピオンと話す必要があるからね」

『ちゃんぴおん、ねえ』


 嘲るような声。まるで信用されていない様子だ。


「こうなったらいっそ、きみと似たようなやつを探すしかないか」

『えっ? それって、……親切な美少女……ってコト!?』

「いや、ちがう。もっとこう……――ぼっちでひねくれ者で、友だち欲しがってそうなやつ」

『ふぁっく!(くたばれ)』


 続く、聞くに堪えない罵声を無視して。


――あえて、話しかけやすいやつとは真逆の相手を探してみよう。


 改めて、周囲を見回してみた。

 その辺りは、自然にできた野原とは思えないほど、綺麗に整地されている。

 恐らく、車輪によって移動するモンスターが多いためだろう。実に殺風景な景色、とも言えた。

 だがその分、遠くまで見渡すことができて。


――こうしてよく注意して観ると……結構、いるな。


 山のように群れている”カガク”系モンスターの群れ。

 それらとは一線を画すように、ぽつりぽつりと佇んでいる、数匹のモンスター。


 入学したその日に、「興味はあるけど、自分から話しかけるのはなぁ」といった雰囲気で新歓サークルを回る、新入生そのもののムーブだ。


――こちらが目立っている分、よりわかりやすいな。


 「二人組を作って」と言われた結果、誰にも話しかけられずにいる、陰キャの波動を感じる。

 こうなってくると話は早い。

 狂太郎は、素早く攻略WIKIを開いて、彼らの中から、もっともゲーム攻略に適した個体を選んだ。


「――”カガク”系のモンスターはやはり、実在する機械とか、SFのガジェットが元ネタになっているようだな」


 その時、狂太郎が候補に入れた種族は、下記の三種類。


 種族名:ロボット

 『トランス○ォーマー』のようなデザインの何か(※6)。攻撃力と運の値が高いのが特徴。

 一見、”ニンゲン”属性のモンスターにも見えることから、”ニンゲン”と見せかけて”カガク”、”カガク”と見せかけて”ニンゲン”という搦め手ができるらしい。

 カガク系では数少ない、手足を使った攻撃を繰り出すことが可能。


 種族名:ジドウシャ

 『カー○』のようなデザインの何か。攻撃力、防御力が高い。

 特にジドウシャが繰り出す《体当たり》は一撃必殺。その分、覚られる技は単純なものが多く、後半の強敵には見劣りすることも。

 また、仲良くなれば背中に乗せてもらうことができるため、移動のためだけに手持ちに入れている”サモナー”もいるほど。


 種族名:ドローン

 我々の世界に存在するドローンとと、そう大差のない形状のモンスター。素早さと攻撃力が高く、防御力が低い。

 複数の回転翼を備え、宙空を自在に移動できるのが特徴。

 レベルを上げれば、ドローンに捕まって空を飛ぶこともできるようになる、とか。


「……ふむ」


 この三種なら、――なんでもいい、が。

 狂太郎は、改めて目標を定めて、”彼ら”に歩み寄る。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


(※6)

 どうもこのゲームのキャラクター・デザイナー、あんまりパクりとか気にしないタイプの人だったらしい。

 狂太郎が帰還した後、その姿を写真で見せてもらったが、――「”百式”と”ドラえもんの映画にでてきたアイツ”くらいの違いしかない」といえば、ロボットアニメのマニアには通じるかもしれない。

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