270話 レベル上げに関する考察
”レベル上げ”に関しては、”救世主”の間でも様々な意見がある。
で、あるからして一概に、「これが正解だ」というものはない。
安定をとるか。
速度をとるか。
これは、全ての”救世主”が一度は思い悩む課題であると言って良いだろう。
狂太郎はもちろん、後者側の人間である、――が。彼とて一切の”レベル上げ”を行わないというほど、頭の硬い人間ではなかった。
要するに、全ては”効率”である。
もっとも効率の良い攻略法が正しい。それ以外のあらゆることは、正しくない。
世界は常に、”終末因子”の手に脅かされているのだから。
では、どのような”レベル上げ”がもっとも”効率的”か。
これを正確に理解するためには、異世界における”レベル”と”経験値”に関するルールを把握しなくてはならない。
まず、多くの世界における”レベル上げ”のルールは、こうだ。
『敵を倒すと”経験値”を得られる』
『”経験値”がある一定値に達すると、”レベル”が上がる』
『”レベル”が上がると戦闘力が上昇し、新しい技・魔法を覚える』
ここまでは、多くのゲーマーなら何となく理解できることだろう。
さらに付け加えるならば、
『強い敵と戦えば戦うほどに、得られる”経験値”は大きくなる』
⇒故に、地域ごとに村人の戦闘力に格差が生じたりする。厳しい土地の住人は強く逞しいが、その分、スパルタ的な教育が当然とされ、姥捨てや親の子殺しなど、野蛮な風習も多い。
『一度上がったレベルは、滅多に下がらない』
⇒我々の世界では、数日稽古をサボっただけで腕が鈍るのが普通だが、異世界人はいくら自堕落な生活を続けようと、強い奴は強いままである。
『レベルアップで上昇する能力には、ばらつきがある』
⇒”すばやさ”が低い者は、いくらレベルを上げても足が遅いまま。レベル50の歴戦の戦士よりレベル30の中堅冒険者の方が俊敏、というようなことは、異世界においてはありがちなことだったりする。
『異世界人には、自身の能力を正確に把握する術がある』
⇒ステータスの数字化は、異世界においては”あるある”だ。ただしその調べ方に関してはまちまちで、一目見ただけで相手の能力を看破できる世界もあれば、専用の”マジック・アイテム”を使う必要がある世界、役所のようなところにいって精密検査を受ける必要がある世界まで、千差万別である。
など、など(※3)。
そうした”異世界あるある”の一つに、
『各レベル帯に適した効率的なレベル上げ手段が、必ず一つはある』
というものが上げられる。
もちろん異世界人たちも馬鹿ではないため、そうした高効率な”レベル上げ”の大半は秘匿され、権利と利益の独占に使われる。
だが時に”救世主”は、手つかずの”レベル上げ”の手段が見つけることができる。
――まず、あらゆる”レベル上げ”のやり方を試して見ること。
これは、”救世主”にとっての定石であると言って良い。
松原兵子も、きっとそうしているはずだ。
▼
……と、いう話を長々と説いたところ、
『はぁ~~~~。ごめん、息臭くて聞いてなかった。オタクの話ってなんでこんな長いの?(失礼。聞いてませんでした)』
ヴィーラは、変態性癖の中年を心底軽蔑する眼差しで応えた。
――おや? なんだかだんだん、腹が立ち始めてきているぞ。
とはいえ、子供のすることだ。事を荒立てるまでもあるまい(※4)。
「……つまり、かいつまんで言うと、だな。これから我々は、――この、『ソウルサモナーズ』の世界で、効率的にレベルアップを図ろうとしているのだ。それには、下手にレベルを上げすぎるのはよくないんだよ」
『?????』と、首を傾げるヴィーラ。
狂太郎は、彼女の興味が持続しているタイミングを見計らって、早口で言う。
「この世界では、敵を倒すと”経験値”を得られる。そして得られる”経験値”は、一度のバトルで倒した敵とのレベル差が参照されるのだ。言ってる意味、わかるかい」
浮遊する少女が、首を横に振る。
「これはつまり、レベル差が大きい敵と戦って勝利することで、大きな経験点を得られる、ということだ。できれば一度のバトルで、レベル差の大きい敵をまとめて倒してしまうのがいい。それだけできみは、かなり効率的にレベルアップできるはずだからね」
実際、このようなルールを採用しているゲームは多くある。
過剰なレベル上げへの要求は時に、プレイヤーを萎えさせる。
その防止策として、得られる経験値を意図的に調整してしまうのだ。
システム的に「これ以上、ここで立ち止まっているのは非効率的ですよ」という事実を知らせるために。
故に、慣れたRPGプレイヤーは得られる経験値に最新の注意を払ってゲームをプレイする。
気づけば、極めて経験点効率の低い地域で延々とレベル上げをさせられることもあるためだ。
『ちょ、ちょ、ちょっとまって? あんた、低脳ザコチ○ポ野郎のわりにはいろいろ考えてるみたいだけどそれ、――ちょっと矛盾してない? だってそんな、レベル差のある相手を、あたし一人でバッタバッタとやっつけられる訳ないじゃん(私はそもそも、そんなに強くないので、その作戦は不可能です)』
もちろん、狂太郎もその程度のことは考えている。
「……何もぼくは、一回の戦闘できみのレベルを最大値まで上げよう、とは思ってない。かなりうまくやっても、一度にあがるレベルは10、くらいだろうな」
それでも、十分な効率である。
なにせ、世界最強とされる”サモナー・チャンピオン”と呼ばれる者の手持ちが、レベル50とかそこらだったはず。一度の戦闘で10上がるなら、数日後にはチャンピオンになっていてもおかしくない計算になる。
『あんたそれ、ガキがする万能妄想の一種じゃないわよね……ねえ知ってる? 努力って、毎日毎日、来る日も来る日も、シコシコシコシココツコツコツコツやるものなんだよ? 空からトツゼン、あんたのチンポケースになってくれるような女が降ってくるとでも思ってる?(努力は一日にならずという言葉をご存じですか? 空から都合良く理想の女性が降ってくるようなことがあるとでも?)』
狂太郎は、深く嘆息して頷く。
「そうだな。きみのいうとおりだ。だが、努力というのには、”コツ”と”やり方”がある」
そして、手元の攻略WIKIには、その手の情報がたっぷりと掲載されているのだ。
密かに、狂太郎はこう思っている。
――実を言うとね。
きみが言う『都合の良い』ことは、もうすでに起こっているんだよ。
理想の初期メンバー。
”すばやさ”のステータス値の伸びが良いフェアリー種。
つい先ほど調べたところ、『ソウルサモナーズ』の攻略WIKIには、そのような記載があったのだ。
『最速でクリアするなら、フェアリー種一択』と。
「さて。とりあえずここから先は、少し急ぐぞ」
言いながら、狂太郎はヴィーラを《ブック》の中へと戻す。
本の中の少女は『まだ話したいことがあるんだけど』という顔をしていたが、――構ってはいられない。
情報の共有は、もう十分。
あとは、事を為すだけだ。
『ビィ・シティまであと10キロ』と書かれた看板を横目に、――《すばやさ》を起動。
――速度はとりあえず、200倍くらいでいいか。
走り始める。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(※3)
もちろん、こういうルールの世界が全てではない。
異世界によっては、『他者に感謝される』『英雄的行動を取る』『任務を達成する』ことを条件として”経験値”を得られる場合もあるし、そもそもレベルの概念が存在しなかったり、武器や魔法ごとに”熟練度”が設定されているパターン、レベルが上がれば上がるほど敵モンスターも強くなる、というようなルールを採用している世界も存在する。
(※4)
これは狂太郎の勘違いである。
のちのち判明する事実なのだが、――ヴィーラはこう見えて二十五歳らしい。若く見えるのは、そういう種族だからのようだ。
ゆえに本作は、児童ポルノとは一切の関係がない。
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