194話 アザミの日記(完)
基督皇歴1613年 花月 12の日(続き)
んでんで。
突如として現れたナゾの新キャラにより、悪の”ろぼっと”を粉砕したキョータローさんは、まるで子供向けの英雄物語に登場する、威風堂々たる王さまのように笑って、彼の仲間にこう言いました。
「助かったよ、二人とも」
「よし、――よし。それじゃ、こいつらの回収はナインとシックスに任せよう」
「ぼくは、少しだけアザミと話してから帰る」
「わかってる。この借りは、必ず」
「ああ、そうだな。焼き肉な。食い放題。ワンカルビ。おーけい」
と。
すると間もなくして、”ろぼっと”と、その中に居るリリーちゃん、そして駆けつけた二人の姿は消失し、――私とキョータローさん、そして開けっぱなしになった便所が残されるばかりとなりました。
私はしばし、なんと話せば良いか、ぼんやりと迷って。
いつしか、とても哀しい気持ちになっています。
「やっぱり泣き虫だな。きみは」
昨日まで、居候のおじさんでしかなかったはずの彼が、――とても、遠い存在のように思えてしまって。
それだけ、彼と”ろぼっと”との対決は、常軌を逸した戦いであったのです。
私が言葉を選んでいると、――彼はいつもの早口で、こう言いました。
「きみに、渡したいものがある」
そしてポケットの中から、なにやらごそごそと、紙切れのようなものを取り出します。
正直言うと、私の心臓はその時、早鐘のように高鳴りました。まるで、50歳かそこらの小娘のように。
ですが、彼が取り出したのは残念ながら、――私が思っていたようなロマンチックなものではなく。
今後の方針に関する”
「《万能翻訳機》の写し(※4)だから多少、文字とか文脈がおかしいかもしれないが。――内容は伝わるはずだ」
私、手紙を月明かりに照らして見て。
その内容は、以下のようなものです。
▼
【今後の展開について 大まかな解説のこと】
最初の目標:アザミのプロミテーゼに関すること。
2番の目標:村の発展を最大限に高める。
3番の目標:グールのための教育機関を設立する。
4番の目標:作業を完全に自動化します。
5番の目標:ローズとの最終イベント
最後の目標:結婚イベント
○
市内の義肢店でイベントがあります。
ドラの息子が登場します。彼のせいで、店でお金で使っているので困っているので、グールで脅しましょう。きっと回心し、小便をまき散らして降伏します。良い。
義肢を作るのに約1ヶ月かかりますが、このイベントを完了しないと長いこと、アザミの動きポイントが少ないので早めに行きましょう。
○開発の増加
畑を耕し、家畜を飼育し、村を豊かにします。それに重大な意味があります。
さらに、誰もがそれを見つける前に、できるだけ早く村の近くの金鉱の所有権を確保してください。
この世界での金の採掘は嘘と同じくらいの安全性が存在します。目立たせたくない場合は、グールに秘密の隠れ場所をどこかに設置するように命じてください。
見張りに持っておく武器は、先ほどお話しした「銃」を開発するのもいいですね。「銃」は一撃でほとんどの敵を殺す効果があります。良い。
○学校について
今後、村の人口(グールを含めた)は、徐々に増えると思います。
それが起こったとき、低レベルのグールを教育するための機関を作ることは効率的です。
教師の役割は、村の最初のメンバー(トム、アビーなど特に○)に任せるべきです。
○作業の自動化
↑でグールのレベルが自然に上がると、あなたは幸せに暮らします。
グールが幸せに暮らすのを見たり、街に出て色んな人との友情を深めたりするのもいいですね。
○ローズについて
あなたは賢明なことに、あなたの宿敵の命を、二度も救うという決断をしました。
必要に応じて、あなたはローズと和解することもできます。
彼女は冒険家の仕事から撤退し、いまでは足を洗っています。(あなたが今後、不思議と法律に煩わされることがないのは、その関係です)
あなたがいくつかの出会いを通して成長したならば、あなたはきっと彼女と彼女の本当の友達になることができるでしょう。
○結婚
この時点で、自動的にお金が貯まり、自然に名声が上がるので、快適な生活が待っていると思います。
そうなったとき、あなたはすぐに結婚することを考えるべきです。
とりあえず、結婚候補者の名前はここに記載されています。
・隣村に住む、ヘルク(アザミのボーイフレンド。みんな知ってるね)
・スレイブボーイ、××××
・ノーブルマン、○○○○
・魔法の剣士、■■■■
・フェアリー的存在、△△△△
とりあえずウィキペディアでチェックしましたが、結婚候補者はみんな女の子に人気のあるキャラクターデザインで、いい人なので安心です。誰を選ぶかはあなた次第です。がんばってね。
○最後に
これからあなたは、誰かと出会い、きっと裏切られ、何度も何度も、心に怪我をします。
それでも、誰かと友だちになる気持ちを忘れないでください。
休みの日、遊びに出かけてくれる誰かを、きっと見つけて下さい。
あなたが死んだら、泣いてくれる人を見つけて下さい。
決して、閉ざされた村を作らないで下さい。
それだけが、ぼくの最後の望みです。
▼
……………………。
……………………。
……………………。
私、しばらくの間ずっと、固まっていました。
ぶっちゃけこの……極めて読みにくい文章の解読に時間が掛かった、ということもありますが。
手紙の内容をよく精査すれば、――きっとキョータローさんの本意を知ることができるだろう、と思ったためです。
でも、ダメでした。
わかっていたんです。
彼の心の中に、――私の居場所は、どこにもないって。
だって、そうですよね。キョータローさんと私は文字通り、住む世界が違うんですもの。
今さらになって、ようやく気づいたんです。
たった一年で私、……彼に、それこそ一生かけても返せないくらいの恩ができてしまっていることに。
そしてどうやら、――彼に恩返しするタイミングはいま、この時をおいて、他にない。
「そんじゃ、そろそろ……」
なんて、さっさと話を切り上げようとする彼を少しだけ留めて、――仲間たちに、《ばけねこのつえ》を持ってこさせます。
これが、……不器用な私にできる、せめてもの心づくし。
プレゼント用の包装もできなかったのが、心残りですが。
キョータローさん、それを受け取ると目を丸くして、こう言いました。
「……ん? これ、大切なものじゃないのか?」
私は、首を横に振ります。
キョータローさん、少し迷っていたようですが、結局、「ありがとう。大事に使うよ」とのこと。
そうしてようやく、――私、ちょっとだけ、素直になることができたのでした。
彼の、唇とほっぺた。
その境界の、あやふやなところにキスをして。
それで私たち、――お別れしたのです。
さようなら、私の”
▼
基督皇歴1613年 葉月 2の日
あれから、半月。
私、久々に筆を取っています。
というのも、
「”エッヂ&マジック”のアフターケアサービスです」
とかどうとかで、背中に翼を生やした男の子がやってきたためです。
彼、どうやらキョータローさんの知り合いらしくって。
だから私、その子に日記帳を預けます。
キョータローさんに、渡してもらうために。
いろいろ考えたんですけど、こうするのが一番、私の全部を知って貰えるかな、って。
だからこの日記、――あなたへ向けた、長い長いお手紙でも、あったりして。
ってことで、キョータローさん。
私は今、私の望むまま、元気に暮らしています。
もし機会があったら、お会いしましょう。
あなたとはまだまだ、話したいことが、たくさんあるんですから。
WORLD1944 『とある少女の恋文』
(了)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(※4)
より正確にいうなら、日本語⇒異世界語⇒日本語の順番で再翻訳にかけたのが、本編の内容である。
清書すべきか迷ったが、このままの方が原作の読み味が楽しめると思って、あえてそのままの内容を掲載させてもらった。
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