163話 【最終ラウンド:議論フェイズ】③

(何気なく窓の外を覗き、――顔色を蒼くする万葉)


万葉「うっげ……」

狂太郎「どうした?」

万葉「なんか、宿の周りにわらわら、村人が集まってきてる。怖っ」

狂太郎「どうも、急いだ方が良さそうだな」

万葉「グレモリー、続けて。……”ああああ”の部屋から、何を見つけたって?」

グレモリー「……う、うん。ええとね。私、……こんなん見つけちゃった」


(そういう彼女が取り出したのは、《借用書の束と、催促の手紙》だ)


グレモリー「さっき、ちょっとだけ内容を読んだけど……ずいぶんあなた、借金に苦しめられてるようじゃない? ……今回の仕事に失敗したら、家族に迷惑がかかってしまうんでしょう? そのくせ、男癖も酒癖も悪くて、いつも飲んだくれてる、っていう」

ああああ「てへへ」

グレモリー「てへへじゃないっ。しかも、この手紙の内容によると、あなた『犯人の正体に心当たりがある』って書いてるわ」

狂太郎「なに? ――そうなのか? ”ああああ”」

ああああ「ああ、それなー。実はそれ、適当に書いただけだよ。だってそうでもしないと、……なんていうの? 妹? 弟? 母親? なんかそういう感じの存在が傷つけられたりしたりして。……そうするとほら、血縁のあれこれで私、嫌な気持ちになる可能性があるからさ」

万葉「……何か、何処となくサイコパスみのある台詞だねぇ」

ああああ「だってぇ。私、”家族”ってもののこと、よくわからな……」


(「ごほんごほん!」と狂太郎、わかりやすく咳払いする)


狂太郎「いずれにせよ! 手紙の内容は、適当に書いただけ、と。そういうことだな」

ああああ「そゆことー」

万葉「うーん」

狂太郎「確かに怪しく見えるが、決定的な証拠ではない」

万葉「”決定的な証拠”なんて、本当に出るのか?」

狂太郎「わからん。だが、みんなそれぞれ隠しごとがある以上、ぼくたちは不完全な情報を元に推理するしかない」

万葉「難儀だねえ……」


(そこで皆、時計を見る。もう残り、五分ほどしかない)


狂太郎「そろそろ、検証できる情報も限られてきたな。どうしたものか……」

薄雲「私にゃあ、”ああああ”、呉羽、グレモリーあたりが怪しく見えているにゃ」

呉羽「薄雲、万葉の疑いも完全に晴れてる訳じゃないでござんしょ」

薄雲「それは、そうだけど……」


(と、そこで不意に、グレモリーがテーブルの上に突っ伏す)


グレモリー「ううう………」

狂太郎「ん?」

グレモリー「うううううう……!」

狂太郎「どうした、グレモリー。腹が痛いのか? ――トイレいく?」

グレモリー「違うっ。ってゆーか、誰なの? 誰なのよっ。もー! 嘘はウンザリなんだけど! 私、殺されたくない! 死にたくないの! はやく結論を出してよ」

狂太郎「……おお。名演だ」

グレモリー「演技じゃないっ。私、なんだかだんだん、ホントに腹が立ってきた! ここのみんな、どいつもこいつも、嘘つきばかりじゃない! なんで素直に自白しようっていう人がいないのよっ?」

狂太郎「そりゃ、まあ。……誰しも、罰から逃れたいと思うもの、だからじゃないのか?」

グレモリー「納得できないっ。自白しようがしまいが、きっとそいつは死ぬのよ? なんで私たちまで巻き込まれなくちゃいけないの?

 罪と罰はいつだって、ワンセットのはずじゃない! 逃れることなんてできないっ。それが、人と神との契約でしょッ? こんなんなら、悪魔の方がよっぽど正直者……」


(と、その瞬間である。GMであるクロケルが、実にわざとらしく手持ちの台本を床に落とす……というか、叩き付けた)

(すると、グレモリーの顔色がさっと蒼く染まって)


グレモリー「あっ……いや。あの、……その。ご、ごめんなさい、先輩……」


(クロケルは答えない。GMの役目に徹している)

(六人の間に、気まずい沈黙が流れた)


狂太郎「……話を変えよう。誰か、他に情報があるものはいないか」

万葉「然ういう貴男は、如何なんだい?」

狂太郎「え? ぼく?」

万葉「誰も突っ込まないから言わせてもらうが、――貴男、ぶっちゃけ一番、謎が多いよ。妾目線でいまはっきりしてるのは、――

 ”ああああ”は賞金稼ぎ。

 薄雲は時空系の魔法使い。

 グレモリーは泥棒。

 ……ここまでだ。

 貴男はもう一人の”救世主”らしいけど、其れがそもそも、妙な話だ。――妾には仲間が何人か居るけど、貴男みたいなのは知らないし」

狂太郎「……きみとは、別の会社の”救世主”なんだよ」

万葉「其れなら、妾に連絡が来るはずだ」

狂太郎「そう言われてもなあ。ただの連絡不行き届きじゃないのか? うちの会社じゃ、よくあることだけど」


(一瞬、万葉が顔を引きつらせて、「え。良くあるの?」という顔をする)


万葉「ええと……ごほん。正直に聞いて良い? あんたひょっとして、”終末因子”なんじゃないのか?」

狂太郎「それが知りたいなら、――お得意の”スキル”を使ってみたらどうだ」

万葉「…………………」

狂太郎「やっぱりきみ、答えを得られてない。そうだね」

万葉「……さて。それは如何だろう」

狂太郎「いや、きっとそうだ。もしぼくが”終末因子”であるならば、最後まで黙っている理由にはならない」


(そこで、”ああああ”が二人の間に割って入る)


ああああ「まーまーまーまー! 証拠もないのに、疑いあいっこしても時間の無駄だよ!」

狂太郎「………………」

万葉「………………」

ああああ「それじゃあ、こういうのはどうかな。――みんなそれぞれ、自分の正体を告白しあいっこしない? それで、嘘吐きを見つけたら、その直感を軸に推理を組み立てればいい。……どう?」

薄雲「んー。まあ、……他に、ないかにゃ」

呉羽「わちきも、構わん」

グレモリー「……これ以上、話すことはないけど」

万葉「良いよ」

狂太郎「わかった。それで行こう」

ああああ「よーし! 決まりね」


(”ああああ”、嬉しそうに笑う)


ああああ「じゃ、言い出しっぺの私から。――私の正体は知っての通り、今度の犯人を追っかけてやってきた、賞金稼ぎだよ。ずっと秘密にしてたのはもちろん、犯人に警戒されないためー。おわりっ」

薄雲「そんじゃ、私も。私は、時空系の魔法使いにゃ。身分を隠していた理由は、私の能力が、人に嫌われがちだからにゃ」

呉羽「……わちきは、ごく普通の流れ者でありんす。この村には、観光に。ちなみに、わちきはそもそも、身分を秘密にしたことなど、ありんせん」

グレモリー「私、盗賊。人のものを盗むのが仕事。それだけ」

万葉「私は異世界人。そして、――この世界の管理人、”救世主”とも呼ばれる存在だ。妙なことに絡まれちまったが、”終末因子”を探してこの村に来た」


(そして、狂太郎に視線が集まる)

(狂太郎は、残り時間を確認しつつ、ここぞ、というタイミングで口を開いた)


狂太郎「それでは。ここで一つ、重大な情報を暴露させてもらおう。以前の議論で、……近々、とある交渉が行われる予定であることは、……すでに話したよな」

万葉「ああ。”光の民”と”闇の民”の今後を決める、秘密会議の事、だろ」

狂太郎「うん」

薄雲「この会議、絶対失敗できない……んにゃよね。だから一刻も早くこんな事件、解決しちゃいたいのにゃ」

狂太郎「わかってる」

万葉「其れで? 貴男、何を暴露したいって?」

狂太郎「ぼくはその、――会議の参加者。

薄雲「え」

狂太郎「実を言うと、――ここまで正体を隠してきたのは、謎の”異世界人”による妨害工作の可能性も示唆されていたからなんだ。だからギリギリまで、正体を隠してきたのさ」

万葉「成る程。今回の犯人の目的は、会議の邪魔じゃ無い。其れが解ったから今、真実を明かす気になった、と」

狂太郎「そういうことだ」

万葉「”救世主”として胡散臭い所が在ったのは、然ういう事……」


(しん、と、辺りが静まりかえる)

(五人はそれぞれ、神妙な表情をしていた)

(だが、一人だけ、口をあんぐりと開けている者がいる)


薄雲「えっ」

狂太郎「………………」

薄雲「え、え、え、え?」


(ネコ耳少女は、自分の左右をきょろきょろと見回して)


薄雲「えええええええええええええええええええええええええ! 嘘つきにゃ嘘つきにゃこいつ嘘つきにゃああああああああああああああああ! やべえええええ鳥肌……じゃない猫肌たったああああああああ!」


(同時に、ごーん、ごーん、と、時計の鐘が鳴り響く)

(会議時間が終了したのだ)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る