162話 【最終ラウンド:議論フェイズ】②

(テーブルの上に、各部屋にあった”証拠品”が並べられていく)


万葉「妾は……この、《トイレットペーパー》か」

ああああ「私も《賞金首のポスター》だけみたいね~」

呉羽「《コーヒー》、《においぶくろ》」

薄雲「《時計型の勲章》、《手帳》、《絹のパンツ》、《スキルシート》にゃん」

グレモリー「…………《透明化の薬》、《金の懐中時計》、《ピッキングツール》、《命の指輪》」

狂太郎「《クッキー》、《コンドーム》、《タバコ》、《小銭入れ》。……これで何を推理するんだって話だな」

ああああ「ついでに、被害者の情報をまとめると、――『魔法耐性あり』、『強力な魔法でないと死なない』ってのがあるねー」

万葉「もう一つ。宿の女将から聞き出した情報だね。『レベル上げ犯人がいる』、『レベル上げ犯は《火系魔法Ⅴ》を使う』、『レベル上げ犯の情報は、事前に伝書鳩で届いていた』、『レベル上げ犯の現在レベルは、恐らく45』」


(6人、それぞれの前に並べられた”証拠品”を眺めつつ)


狂太郎「こうしてみると、――やっぱりぜんぜん、情報が出そろっていないことがわかるな」

ああああ「そだねー。私と万葉ちゃんには、たのもしーい騎士ナイト様が付いているのかも?」

万葉「…………ふん」


(薄雲、苛立たしげに、指先で机をとんとん叩く)


薄雲「誰が、どーいうつもりで証拠を隠してるのかは知らんけど、共倒れよりは絶対マシにゃ。情報は全部吐き出さにゃいと」

呉羽「そーいう薄雲は、何かないのかぇ」

薄雲「にゃ? 私?」

呉羽「こういう時は、いったん自分の情報から話し始める流れでありんしょ」

薄雲「……ふーむ。情報、か。――強いて言うなら、万葉ちゃんの情報が、一つ。……さっき、謎の《本》を見つけたにゃ。でもそれ、すーっと跡形もなく消えちゃって。あんな魔法、見たことないにゃ。あれ、なんにゃ?」

万葉「応える必要は、無い」

薄雲「えーっ? でもでもぉ……」

狂太郎「薄雲、――確かにその件は気に掛かるが、いまは”レベル上げ”犯の追求に時間をかけよう」

呉羽「なんよ、それ。ひょっとしておてき、万葉を庇ってる?」

狂太郎「庇っていない。――そういう君こそ、遅延行為だぞ。さっき話した通り、我々の目的は犯人を見つけ出すことだ。それ以外の情報は全てノイズ。そうじゃないか?」

呉羽「なんか、そーすることで、追求を避けてるようにも見えるけど」

狂太郎「それはお互い様だろ? ……どうした、呉羽。ここに来て突然、よくしゃべるじゃないか。これまでろくに発言してこなかったのに」

呉羽「……………それは、……」

薄雲「もー! 喧嘩はダメーッ! それより、議論議論ッ! 急ぐにゃ!」

狂太郎「ふむ。――では、わりと強めの白をもらっているぼくから、これだけははっきり言わせてもらう。ぼくと万葉は、犯人ではありえない」

グレモリー「……なんで?」

狂太郎「単純だ。ぼくと彼女は知っての通り、この世界の住人ではない。……小冊子ハンドアウトにも書かれていたろ? 『異世界人は、この世界の法則に当てはまらない』と。だから、ぼくたちにはそもそも、。……多少頭が回る人ならこの意味、わかるよな?」

グレモリー「…………なるほど。レベルを上げる意味がない、と」

狂太郎「うん」


(一瞬、”ああああ”と呉羽が目配せしあう)

(呉羽が何か、口を開き掛けたが、――それを待たずに、狂太郎は続けた)


狂太郎「では、――今後の方針をまとめさせてもらおう。きみたちはこれからぼくに、自分たちの身が潔白であるという情報を提示してくれ」

呉羽「……おてきに?」

狂太郎「ああ。ぼくの正体が何者であれ、犯人でない確率が最も高いものが場を仕切るべきだ。それとも、ぼく以外にそうしたい人がいるのかい?」

呉羽「………いや。そんなつもりは……」

狂太郎「では、時間がない。さっさと始めてもらおう」

呉羽「そう言われても、――どう証明すればいいんでありんしょ」

狂太郎「それほど難しくはない。例えば、、とか」

呉羽「そう言われても。いまから相撲大会でも、しんす?」

狂太郎「それはそれで楽しそうだが、手を抜けば済む話だろ。もっと客観的に、レベルを確認する方法はないのかい」

呉羽「ここには、《レベルカード》がない。取り寄せている暇もないし、ちょっと無理そう……で、ありんす」


(そこで、薄雲が尻尾をピンと立てて、何か思いついた様子でテーブル上の証拠品を漁る)


薄雲「ちょ、ちょいまち!」

狂太郎「どうした?」

薄雲「……えっと、えっと! ……記憶が確かなら……そうそう! わ、私の証拠品の……《手帳》! これ! この部分ッ!」

狂太郎「ここと言われても、読めん」

薄雲「えっとえっとぉ……『時空系の魔法使いは、月に一度は《レベルカード》を協会に提出し、戦闘レベルの低さを証明しなければならない』。……これこれ! こんな決まりがあるのに、レベル上げなんてするわけ、ないにゃ!」

狂太郎「……そんな情報、これまで出てたか?」

薄雲「出てたかどーかは別として、じっさいここに書いてるにゃ。そーでしょ、呉羽?」


(呉羽、しかめ面でそれに目を走らせて、「確かに」と頷く)


狂太郎「見逃しがあったということか。……これで薄雲は、かなりシロっぽく思えてくるな」

薄雲「やったー!」

狂太郎「もちろんまだ、確定はできないが。――グレモリーと呉羽は?」

万葉「”ああああ”も、な。忘れるんじゃ無いよ」

狂太郎「ああ。そうだそうだ。うっかりしていた」

万葉「貴男。……そういう、低レベルなすっとぼけは……」

狂太郎「黙れよ。ケツの穴に指突っ込んで、奥歯ガタガタ言わされたいかい」

万葉「はっ、はぁっ、は、は……はあ!? お、お前……ッ。お、おしり! おしりのあなって!」

狂太郎「さて! それはともかく! 他に、何かないのか。情報は?」


(少女たちの、――狂太郎を見る目が変わってきている。狂人を見る目だ。だが、誰もそのことを指摘できる娘はいない)


グレモリー「…………ううむ」

呉羽「このまま黙ってると、いつの間にか犯人扱いされそうね。……しゃーなし。こうなりゃ、わちきの情報、いくつか公開しんす」


(そうして呉羽が取り出したのは、……一台の《スマートフォン》だ)


狂太郎「なんだ、これ」

呉羽「よくは、わからん。けど、ここのボタンを押すと、――」

狂太郎「……む。これは」


(映し出されているのは、万葉と、数人の仲間の集合写真だ)


薄雲「あーっ! これー!」

呉羽「その反応。――やっぱりか」

薄雲「この人、今回の被害者にゃ! 間違いないにゃ! 私、みたもん!」


(万葉、スマホを眺めるが、顔色一つ変えない)


呉羽「……刃傷沙汰の大半は、人間関係のもつれでありんす。今一度、被害者と万葉さんの関係、ご一考を」

狂太郎「そう言われてもなあ。”レベル上げ”犯が異世界人ではないことはもう、ほとんど決まったようなものじゃないか」

呉羽「そこが、落とし穴でありんす。さっきも似たようなこと言いかけたけど、――”レベル”の概念がないからといって、大量殺戮に手を染めないとは限らないでおざんしょ」

狂太郎「そりゃまあ、確かにな」

呉羽「殺しには、いろいろな動機がありんす。あるいは犯人は、単なる楽しみで殺しを嗜んでいる、だけかも」


(一行は、万葉に注目する)


狂太郎「きみは、どう思う」

万葉「…………」

狂太郎「どうした? ひょっとしてさっきの発言、怒ってるのかい」

万葉「…………ふん」

狂太郎「もし気に障ったなら、謝るよ。――ちょっぴり役に入りすぎていた。……ほら。これでペナルティ。-1点だ。そっちが少し、有利になったろ。……ぼくの推理は、きみが完全にシロであることを前提に成り立っている。話をしてくれよ」


(その言葉に、万葉の態度がほんの少しだけ軟化する)


万葉「ふむ。――まあ、良いだろ」

狂太郎「……で?」

万葉「『会議は踊る。されど進まず』って感じ」

狂太郎「そうか?」

万葉「気付かないかい? この”証拠品”はそもそも、重複した情報なんだよ。。酔っ払いのお喋りみたいにね。――正直、此の事実だけでも、今している議題は無視してもいい」

狂太郎「まあ、それはそうだが」

万葉「今、考えるべきは、真実の追求。其れだけだ。其処を目指しなよ。妾、この場には、馬鹿しかいない様に見えるね」


(この挑発的な台詞に、少女たちがざわめく)

(「それこそ、話を誤魔化しているように聞こえる」と、議論は紛糾する)


狂太郎「ちょっとまて。なんかおっさん少し、混乱してきた。きみ本当に、――無実、なんだよな?」

万葉「……――ふん」

ああああ「落ち着きなよ、狂太郎くん。あんまりあれこれ考えすぎると、とっちらかって訳わかんなくなるよん」

狂太郎「それも、そうだが……」


(そこで、水色の髪の少女が手を高く上げて、みんなの気を引く)


グレモリー「ねえ。ちょっといい、かな」

狂太郎「ん?」

グレモリー「一応私、みんなに告白したいことがあるんだけれど」

狂太郎「なんだ?」

グレモリー「……このまま犯人を逃す結末は癪だし、……もうぶっちゃけるよ。私、盗賊ギルドに所属しているの」

狂太郎「……え? まあ」

万葉「それは、うん」

ああああ「うすうす感づいてたけど」

狂太郎「それだけかい? 何か新しい情報がないなら、――」


(グレモリー、がたんと席を立つ)


グレモリー「ちょ、ちょちょちょ! 流さないで! 流さないで!」

狂太郎「そう言われても……」

グレモリー「そ、それで! 私じつは、隠れた証拠品を暴き出す技術を持ってる!」

狂太郎「さっき、万葉の部屋で見たやつか」

グレモリー「そう、それ! ――そんでそんで! 私、”ああああ”ちゃんの情報! ……調べさせてもらったわッ!」

狂太郎「……ふむ」

ああああ「え~? なになに~?」

グレモリー「それは……!」


(その時、ごーんごーん、と、時計の鐘の音が鳴り響いた)

(GMにより、「残り十分」という呼びかけが行われる)


(プレイヤーたちの表情に焦りの色が生まれ、――議論が加速していく)

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