161話 【最終ラウンド:議論フェイズ】①

【最終ラウンド:議論フェイズ】


万葉「………………」

ああああ「………………」

呉羽「………………」

薄雲「………………」

グレモリー「………………」

狂太郎「………………」


(六人、緊張の面持ちで押し黙っている)

(今回は、万葉が口火を切らないでいたせいだ)

(やむを得ず、狂太郎が進行役を務める)


狂太郎「……………ええと。これから、どうする?」

万葉「まず妾から一言、言っておきたいことがある」

狂太郎「なんだ。藪から棒に」

万葉「此の……、仲道狂太郎って男は、とんでもない嘘吐きだ!」

狂太郎「は?」

万葉「此奴は……”救世主”でも、何でもない! 犯人か如何かっていうと……違うと思うけど! だけど、何かの謎の……悪者の、何か! そうだろ!」

狂太郎「え? いや、……そう言われても……」

万葉「ぐるるるるる……」

狂太郎「わりときみ、ぷんすか怒るんだな。もっとクール系のキャラだと思ってた」

万葉「五月蠅いッ! 貴男なんか嫌いだッ! 妾の信頼を返せッ! 『ちょっと良い人かも……』なんて思ってたのにッ」

狂太郎「この状況下で、正直者を貫く方がどうかしていると思うが」

万葉「ふんッ」


(万葉、唇を尖らせて、そっぽを向く)


狂太郎「参ったな。これじゃ議論にならん。――他に情報がある人は?」


(そこで”ああああ”が、元気よく手を挙げる)


ああああ「はあい! それじゃ、私から!」

狂太郎「なんだ?」

ああああ「私さっき、念のため被害者の死体をもう一度調べてみたんだ。なんかヒントがないかなーって思ってさ」

狂太郎「それで?」

ああああ「えっと。――どうも、コロシに使われた《火系魔法Ⅴ》って術、『出現する魔方陣の形さえ覚えておけば、誰にでも使うことが出来る』そうだよ」


(グレモリーが目を見開く)


グレモリー「……………えっ。そうなの?」

ああああ「うん。だからその魔法、ちょっとした細工を施せば、地雷式のトラップにすることも出来るみたい。被害者は、まんまとそれに引っかかったってこと」

グレモリー「……へー」

ああああ「ようするに、――『犯行は誰にでも可能だった』ってことだね」

グレモリー「……さらにいうと、『被害者はだれでもよかった』」

ああああ「ご名答。こわいねー」

グレモリー「……でも魔方陣って、わりと複雑な紋様なのが普通、でしょ。そんなのあちこちで描いてたら、目立つことこの上ないわ」

ああああ「夜、人目を盗めば、不可能じゃないんじゃね? 私たちだって、そこまでお互い、監視し合っていた訳じゃないんだし」

グレモリー「……ふむ……」

ああああ「知っての通り、『ここの村人の平均レベルは高い』でしょ? ”レベル上げ”が目的なら、誰が罠にかかってもそれなりにおいしいはずだわ」

グレモリー「それが事実なら、犯人はとんでもない奴ね。……もし、子供が罠を踏んだら……」


(その言葉に顔色が蒼くしているのは、薄雲だ)


薄雲「この村が平和だったのは、見せかけだったってこと?」

ああああ「っぽいねー。私たちの知らない間にこの村、――犯人の狩場にされていたみたい(笑)」

薄雲「ぜんぜん(笑)じゃないにゃッ」

ああああ「まーね。サイ・モンが死んだところとか、普通に人目のあるところだし。誰が殺られても、おかしくなかった」


(しん、とその場が静まりかえる)


狂太郎「……ところで。一応、レベル上げ犯人と今回の犯人が同一人物かの検証も進めたい。リリス、――宿の女将曰く、『間違いない』ようだが、念のために」

ああああ「あっ。そのことも私、証明してあげてもいいよ♪」

狂太郎「ほう」

ああああ「でもそれには、私の正体をカミングアウトする必要があるんだけど」

狂太郎「良いのか? それ、リスクがあるんじゃ」

ああああ「全然おっけー。それで信頼を勝ち取れるなら、安いもん」

狂太郎「……ふむ」

ああああ「私の正体は、いわゆる”賞金稼ぎバウンティ・ハンター”ってやつ。イングランド全域で暴れ回ってる”レベル上げ”犯を追って、この村に来たんだ」

狂太郎「そうだったのか」


(そこで、薄雲が席を立つ)


薄雲「でもそれ、”ああああ”ちゃんが言ってるだけにゃ。嘘の可能性もあるにゃ」

狂太郎「いや。――万葉が以前、《賞金首のポスター》を見つけてきた。それが証明になる。……それに………」

薄雲「………それに、なに?」

狂太郎「これは…………正直、提出するかどうか迷った情報なのだが。――ここに、彼女の部屋から見つけてきた《レベルカード》がある」

薄雲「にゃ? これは……」


(グレモリー、それを覗き見て)


グレモリー「レベル、44。若女将が見つけてきたものより一つだけレベルが低くて、しかもちょっと古い。……っていうかこれ、『”ああああ”が犯人だ』って証拠品じゃないの?」

狂太郎「いや、その逆だと思う。犯人は、使い終わった《レベルカード》をその場に捨てるようにしていたらしいからね」

グレモリー「そうかしら。たまたまこれだけ、持ち歩いていたのかもしれない。……人間ってほら。気まぐれだし」

狂太郎「その可能性ももちろんある。だが、あまり”もしも”の可能性を考えてしまうと、むしろ真実から遠のいてしまうと思う。ぼくたちはシャーロック・ホームズじゃない。数多ある可能性の中から、信じたいものを信じるようにするしかない」

グレモリー「……ふん。『嘘吐き』のくせに、語るじゃない」

狂太郎「私怨は脇に置いておいて、もっと建設的な話をしないか? ――ぼくはね、あんまり、女に生意気な口を利かれるのが、得意じゃないんだ」

グレモリー「ほらでた。追い詰められて、外道がひょっこり顔を出す。……万葉の言うとおりだわ」


(肩をすくめ、不敵に笑う狂太郎。すっかり悪役が板に付いてきているようだ)


狂太郎「話を戻そう。……なあ、”ああああ”。サイモン殺しと”レベル上げ”犯が同一犯だっていう根拠は?」

ああああ「ん? ――ああ。それはね。殺しのやり口が一緒なんだよ。この”レベル上げ”犯は道すがら、あっちこっちにトラップ式の魔法を仕掛けて、通りかかった人や動物、魔物を片っ端から殺すことでレベル上げしてるみたいだから」

狂太郎「見境、無しか」

ああああ「うん。でも、その行動に法則性が見られなくって……それでまだ、誰にも捕まってないみたい」


(そこでしばし、六人が押し黙る。お互いの顔色をうかがっているのだ)

(とはいえ、”顔色”が決定的な論拠となることはない。――そう察したのだろう。今一度、議論の進行役となっている狂太郎が口を開く)


狂太郎「一応、ここまでの議論で、ぼくなりの提案を言いたい。もし異論があれば、指摘して欲しい」

薄雲「ん。どーぞ」

狂太郎「まず、根本的な話をしよう。どうも今朝の殺人は、『誰にでも起こすことができた』。これはまあ、意外なことじゃない。そもそもここは、なんでもありの力……”魔法”のある世界だ。可能性なら、なんだって考えられる。大切なのは、――さっきも言ったとおり、、それを導き出すことだ」

薄雲「と、いうと?」

狂太郎「いま考えるべきは、……現在、我々が知っている最も確度の高い情報、『レベル上げ犯=サイモン殺しの犯人』。これを軸にして、推理を進めることだ」

薄雲「具体的に、どーすりゃいいにゃ」

狂太郎「単純だよ。各々、情報を整理して、各部屋にあった証拠品を並べていく。その上で、それぞれの正体を見極めていって、最も”レベル上げ犯”に近い者を割り出す。――どうだい?」

薄雲「ふーむ。にゃるほど」

ああああ「私は、おっけーだよ」

呉羽「わっちも」

万葉「それくらいなら、まあ、付き合おう」

グレモリー「……それなら、私も」


(そうして各々、手持ちの証拠品をテーブルに並べて行く)

(その最中、狂太郎がふと、思い出したように口を開いた)


狂太郎「ところで、――万葉。一つ、いいか」

万葉「……ん」

狂太郎「以前話してた、きみの持ってる”スキル”の件、なんだが」

万葉「……なによ」

狂太郎「いま、この場所で、みんなに全部話してみてはどうだ」

万葉「え。厭だけど」

狂太郎「ええと、万葉さん? ――怒る演技はほどほどにして……そろそろ、謎解きを手伝ってくれないか」

万葉「演技って何の話? 妾、本気で怒ってるけど」

狂太郎「マジかよ」

万葉「それに、――……推理小説の探偵役だってそうだろ? 謎解きは議論のあとで、だ」


(狂太郎、険悪な顔つきで眉をひそめる)

(そんな二人の仲を取りなすように、”ああああ”がからからと笑って、)


ああああ「ねえ、万葉ちゃん。探偵の先輩である私からひとつ、ヒント言って良ーい?」

万葉「……どーぞ」

ああああ「それ、わりと敗北フラグだぜ。私も一時期、そーいうノリだったからわかるんだ。……仲間は、信じなきゃ」


(すると万葉は、”ああああ”の笑い方を特別陰気にしたように、真似る)


万葉「妾は、……妾のやりたいようにやる。其れだけ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る