164話 推理の時間

「嘘つき! 狂太郎は嘘つきにゃ! 悪魔! 変態! パンツ泥棒!」


 薄雲が叫ぶが、すぐさまそれをGMが静止する。


「議論はそこまでッ。ペナルティを与えますぞ」

「ぐぬ……っ」


 しん、と、水を打ったように室内が静まりかえった。

 クロケルは、手際よく話題を変えて、


「それでは、――これよりプレイヤー1から順番に、推理を披露して貰う。なお、これからのプレイでは、ハンドアウトに書かれていた”メタフィクショナルな発言による減点”は存在しないこととして扱ってよろしい。……要するに、プレイヤー自身の言葉で、自由に発言して良い、ということだ」


 その言葉に一同、ほっと安堵する。

 発言前に、自身の言葉をいちいち精査するというのは、ストレスが溜まるものだ。これである程度は、思い切った発表ができる。


「では、さっそく、――推理を披露していただこう。まず、遠峰万葉。必要ならば、少し考える時間を与えるが、……いかがか?」

「いや、必要無いよ」

「よし。ではどうぞ」


 そうして語り始めた万葉の推理は、以下のようなものであった。




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「さて、と。

 わたしが”救世主”である事は既に、皆に語ったよね。

 此れまでの余興を見てきた人なら皆知ってるだろうけど、”救世主”にはそれぞれ一つ、特別な能力を与えられてる。


 妾の”スキル”はズバリ、……”読心術”だ。

 自分の質問に、「イエス」か「ノー」かの答えを得ることが出来るってわけ。


 妾、これまでの時間で、皆にそれぞれ、質問したよね。

 「犯人はお前か?」ってさ。

 其の結果を、此の場を借りて発表しよう。


 この宿にいる全員の答えは、「ノー」だった。


 此れはつまり、妾たちの中に犯人は居ないって事。

 となると、考えられるパターンは、限られてくる。


 まず最初に考えたのは、――最初に薄雲が提案してくれた、……サイ・モンの自殺、って線。

 だけど色々考えて、其れについては”無い”って結論を出した。

 妾の記憶、――小冊子ハンドアウトの情報を読んだ限りだと、奴がそういう真似をするとは思えない。

 設定上、自ら死を選ぶタイプのキャラじゃなかったんだよ。被害者は。


 と、なると結局、――犯人は誰か?

 ……皆、然ういう顔、してるね。


 では、結論を言おう。


――犯人は、……ここの村人の誰かだ。


 さらに言うなら、妾は此の村の連中、全員が共犯だと思ってる。

 奴ら、妾たちを殺して、口止めしようとしてるんだよ。


 妾らみんな、この村に来て日が浅い。死んだサイ・モンもそのはずだ。

 ……だってのに、ここの連中、いくらなんでも怒りすぎだ。私怨が混じってるとしか思えない。


 其れが、妾のスキルで調べた、唯一無二の真実。

 以上」


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 話を聞き終えて。

 薄雲が、しかめっ面で唇を尖らせている。


「にゃ、にゃ、にゃ……」


 そして、叫んだ。


「”読心術”ってッ! にゃんじゃそりゃああああああああああああああああああああああああッ! そんなのズルじゃん! 勝てるわけないじゃんッ!」


 だが、彼女を除く5人は、落ち着き払って話を聞いている。


「落ち着きなんし、薄雲。――彼女の話が、全て真実とは限らない。そうでありんしょ」

「そ、そりゃそうだけど……!」


 そこで、クロケルが朗々とした声で、話を遮る。


「では、次の推理を。――”ああああ”さん?」

「ん。おっけーだよ~」


 そうして、彼女もまた席を立ち、自身の推理を発表する。


 狂太郎はというと、歳の離れた妹の授業参観に出ているような気分で、それを見守っていた。




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「えっとね。

 結論から言うと私、……もう犯人、わかっちゃってるんだなー。

 でもここは、あーえーてー。その人の名前、言わないことにするッ!


 ただ、一つだけ。

 敵に塩を送る気持ちで、言わせてもらっていいかな?


 万葉ちゃんの言っていた推理だけど、――犯人は間違いなく、この村の人じゃあないよ。ちゃあんと、この6人の中にいるっ。


 だってそーじゃん?

 ここの村の人が犯人だって言うなら、これまで集めてきた証拠品はなんだったんだ、って話になるしさ。


 それともう一つ、言いたいことがある。

 万葉ちゃんさっき、”唯一無二の真実”って言ったけど、――それは違うよ?


 

 唯一無二なのは、事実だけだ。


 とりあえず、私が言いたいことは、それくらいかなー」


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 結果、万葉に比べるとやや短めの推理となる。


 その場にいた者、全員が、何か言いたげな顔つきをしていたが、――結局誰も、続く言葉を持たない。

 ただ公平に言って、……どちらも、嘘を言っているようには思えなかった。


「では、次。プレイヤー3。呉羽さん、どうぞ」


 GMに促され、赤ら顔の大女が、のっそり立ち上がる。




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「こういう場があまり得意ではないから……簡潔に。

 わっちには今……その……”ああああ”さんがちょっぴり怪しく見える、かな?

 でもきっと、犯人じゃない、と思う。


 万葉さんがおっせえす通り、この中に人殺しはいない。

 犯人はやっぱり、この村の人々じゃないかしら。……と、思う」


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 要するに、――万葉を支持する、と。

 彼女らしい、実に単純な意思表明となる。

 GMは、「ふむ」と短く頷いて、続くプレイヤー4、薄雲の発表を促した。




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「えっと、えっと。

 私、実はずっと……あやしーと思ってた人がいて。

 でも……ぶっちゃけもー、頭ぐるぐるで、わけわかんなくなってる!


 しょーじき、最初の犯人候補は、万葉ちゃんにゃの。

 だって万葉ちゃん、――回復系のアイテム、一つも持ってなかったから。

 ……旅人が怪我の保険もかけてないなんて、絶対おかしー! って、そう思ってたにゃ。

 あー、でもでも結局、”救世主”ならそーいうの、必要がない場合もある、よね?

 ってにゃると、私視点でわかる、みんなの正体は……、


 万葉ちゃん=救世主

 グレモリーちゃん=ただのドロボー

 ”ああああ”ちゃん=賞金稼ぎ


 ……こんくらい。

 となると、よくわかんにゃいのは、呉羽、狂太郎の二人になるかにゃ?


 んでんで、……色々考えて、イチバンあやしいのはやっぱり……狂太郎ッ!

 お前が犯人だッ!


 だってこの人、嘘つきだし!


 あーでも、それだと……、”レベル上げ”犯の情報と噛み合わないのか……。

 ……ひょっとして、そこまで遡って、ずーっと騙されてたってこと?


 ううむ。


 ………………。

 …………。

 ……。


 うううううううううううううむ!


 もしそーなら、ちゃぶ台がひっくり返るにゃ! わけわからん!


 いま、私が主張できるのは、――薄雲は犯人じゃないってこと!

 そんだけ! さらば!」


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 そしてプレイヤー5。グレモリーの番だ。




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「……すでに告白したとおり、私は盗賊ギルドの一員。

 《透明化の薬》、《ピッキングツール》あたりがその証明になると思う。

 ついでにいうと、《金の懐中時計》は実際、盗品だったわ。いつ盗んだものかも覚えてないけれど。

 ちなみに、今回の捜査では出てこなかったけれど、《命の指輪》や《魔法の鍵》、《幸運のコイン》なんて証拠品も、全部盗品。特に《金の懐中時計》は、よくよく調べれば隠された仕掛けがあって、それを開くと私とは無関係の人の写真が出てきたりするよ。


 ……ここまで話したんだから、私の正体に疑いはない、と思う。


 ただ正直、……この場で私が言えるのは、それくらい。

 盗賊だから、っていうのは変かもしれないけれど、むしろそれが、身の潔白になると思う。

 例の”レベル上げ”犯は、殺しを楽しんでた。私たち盗賊は、そういう生き方をしない。

 私たちの行動の基準はあくまで、”お金”。

 生き物を殺すだけ殺すような真似はしないの」


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「ふむ……」


 彼女のセリフは、――自己保身のための言葉であるが故に、説得力があった。

 仮に、事情をよく知らない人が話を聞いていても、


――彼女は、殺しとは関係がない。


 そう思えるほどに。


「では、――最後の一人。……いいね?」

「ああ」


 そうして、残された最後のプレイヤーに注目が集まる。

 仲道狂太郎のターンが、回ってきたのだ。


――どうもみんな、それぞれ思惑がある、ようだが。


 いずれにせよここで、全ての真実を明らかにするつもりだ。

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