150話 【第一ラウンド:議論フェイズ】①

【第一ラウンド:議論フェイズ】(※31)


(まず、GMによる25分議論の開始が宣言される。

 なお議論中は、部屋で二人きりになることで密談も可能、とのこと)


(不穏な雰囲気のBGMが流れ始める)

(少し、緊張した面持ちの面々)

(口火を切ったのは、遠峰万葉であった)


万葉「やれやれ! 厄介な事件に巻き込まれた物だねえ」

狂太郎「……だな」

ああああ「時間がもったいないし。さっさと議論、始めよっか」

狂太郎「そうだな」

ああああ「とりあえず、先ほどの捜査で調べた情報を共有しなあい?」

万葉「妾はかまわんよ」

呉羽「わっちも」

薄雲「ふにゃ。こっちはどーでもいいけど」

グレモリー「………………」

ああああ「そんならまず、言い出しっぺの私から。――万葉っちの部屋から、こんなん出てきた」


(ああああが取り出したのは、一本の《トイレットペーパー》である)


万葉「……おや」

薄雲「これは……」

グレモリー「なんだこれ。普通の《トイレットペーパー》じゃないか」

ああああ「おやおや? グレモリーさん、わかるの? 私、こんなに精巧な作りの紙切れ、見たことがないんだけれどなぁ」

グレモリー「えっ。……あ、そっか……この時代には、まだ……」


(GMの口から、「グレモリーに-1点」という宣言が行われる)

(なお、今回を最後に、点数に関する発表は一切行わない、とのこと)

(誰がどれだけマイナス点を貰ったかは、最終結果まで伏せられるようだ)

(グレモリー、眉間に皺を深くして、唇をとがらせる)


グレモリー「少なくとも万葉は、我々の、……しらない文化圏から来ている可能性がある」

ああああ「そーいうことー」

狂太郎「そうか。たしかにそうなるな」

薄雲「そんじゃ、とりあえず死体の情報、順番に話さにゃい?」

狂太郎「ああ、そうだな。――ぼくが見たところ被害者は、バルニバービ地方の旅人で、サイモンという男らしい」

万葉「サイ、……モン……?」

狂太郎「誰か、その名前に聞き覚えはないか?」

ああああ「なーし」

グレモリー「――ない」

呉羽「ない」

薄雲「ないにゃ」

万葉「……ない、ね」

狂太郎「ホントか? 万葉。なんか引っかかる口ぶりだけど」

万葉「何にも無いったら。――たぶん本当に、妾の勘違いだ」

狂太郎「ふーん」

薄雲「えっと。そんにゃら、私の情報、話しちゃうにゃ。『被害者はもともと、先天的な魔法耐性があったっぽい』にゃ。『かなり強力な火力で焼かなければ、こうはならないだろう』ってさ」

狂太郎「強力な魔法の力が必要だったということか。……呉羽さんは?」

呉羽「被害者さんだけれど、あんまり村人の評判、良ぅなかったみたいでありんす。『けんかっ早い性格で、みんなから煙たがられていた』、とか」

ああああ「ん。ありがと。――他にみんな、被害者の件で話しておきたいことは、ある?」


(全員、押し黙る)


ああああ「なし、と。――うーん。この情報だけだとさすがに、議論のしようがないかなぁ。……ねえみんな。このままだと、村人につるし上げられちゃうかも知れないよ? もっと妥協できそうな情報はないかしら」

呉羽「そこまで危険かしら。――最悪、みんなで協力して戦えば、なんとかなるんでおざんせん? どーせ相手は、無力な村人たちでありんす」

ああああ「……えええっ。そりゃそうかも知れないけど、そうなったら私たち、お尋ね者だよっ!? せめてベストを尽くそうよ!?」

呉羽「あ、そっか」


(そこで狂太郎、手を挙げて仲間の注目を集める)


狂太郎「それなら、ぼくから一つ、情報を。グレモリーの部屋から、《透明化の薬》を手に入れた」

グレモリー「…………ッ! 人の部屋を! 勝手に見たの?」

狂太郎「え? うん。そうだけど」

グレモリー「えっち! ヘンタイ! スケベ!」

狂太郎「ちょ」

グレモリー「こーのーひーとーはー! わーたーしーのー! プライベートを! 覗きました! 訴えます! 法廷で会いましょう!」

狂太郎「しょ、しょうがないだろ。そーいうゲームなんだから……って、あっ」


(GMが、鋭い目つきで狂太郎を見ている)

(グレモリー、にっこりと微笑んで、ドヤ顔)


狂太郎「……あーっ、今の。くそ」

グレモリー「うふふ」

ああああ「はいはい。そこまで! ……ちなみにグレモリーちゃん、”透明化”は、いつ使うつもりだったの?」

グレモリー「深い意味はないわ。単なる、護身用よ」

ああああ「護身用? 透明になる薬が?」

グレモリー「ええ。――何? 危険を避けるには、一番安全な方法じゃない」

ああああ「そうかな。この手の魔法薬って高価なことが多いし、使用に規制がかかってる街も多いって聞くけれど」

グレモリー「……そ。それはそうかも、だけど。別に良いじゃない。争いごとは、苦手なの」

ああああ「ふーん。争いごとが苦手な人が、こんな危険な時代に旅なんてしないと思うけれどなー」

グレモリー「ぐぬぬ」


(それきりグレモリーはむっつり、押し黙ってしまう)


狂太郎「他に情報は?」

呉羽「……だれもおらんなら、わっちが。薄雲の部屋に行ったら、これ。《時計型の勲章》」

ああああ「これって……?」


(そこで、GMより解説が入る。この勲章は、この世界の住人にとってはお馴染みのもので、《時空系》の魔法の使い手であることを示すもの、らしい)


万葉「《時空系魔法》。――薄雲、貴女、そんな高度な術の心得が在るの?」

薄雲「にゃはははは。バレちゃった?」

万葉「其の調子じゃ、隠すような事じゃないンだろ」

薄雲「まーね。でも、事件とはカンケーないし、わざわざ言うまでもなかっただけのこと、にゃ」

呉羽「きっとそれだけじゃー、ありんせん。時空系は、人の過去を覗くことができる術式でありんす。その使い手だとわかると……」

万葉「無駄なトラブルに巻き込まれかねない、か……」

狂太郎「ちなみに薄雲。きみの能力で、犯人を割り出すことはできないのか?」

薄雲「できるよ!」

狂太郎「具体的には、どーいうことができる?」

薄雲「簡単に説明すると……”過去視サイコメトリー”ってやつ、かにゃ? 触ったものの過去を覗き見ることができるにゃ」

狂太郎「マジか。勝ったな、これは」

薄雲「でもこの能力、一日に一回しか使えないにゃ。だから、調べられるところは一箇所だけ。しかも、見える時間帯も、わりかしランダムだったり。……ひょっとすると、捜査を混乱させるだけ、かも。だからいちおー、使う前にみんなと相談しておこうと思って」

グレモリー「……情報は、多いに越したことはない。そうでしょ」

ああああ「そだね」

グレモリー「……それなら、使うべき場所は、決まってる。――死体だ」

薄雲「あ、やっぱり? 他のみんなも、それでいいにゃ?」

万葉「かまわない」

ああああ「私はどっちでもおーけー」

呉羽「うーん。――まだその能力、温存した方がいいんじゃおざんせん?」

薄雲「何か、気になることでも?」

呉羽「だってその能力、一度しか使えないんでありんしょ」

狂太郎「ぼくも呉羽に賛成だな。いったん様子見でいいんじゃないか」

薄雲「ふーみゅ。わかったにゃ。もうちょっと後がいいかにゃ。あっ、ちなみにその《勲章》、無くしたままだと上司に怒られちゃうので、返してほしいにゃん」

呉羽「ん。はい」

薄雲「ありがとにゃ~」


(アイテムの受け渡しを行うと、チャイムが鳴り響く。

 15分経過の合図だ)


狂太郎「あと10分で、一区切りになる、か」

万葉「そうだねえ」

狂太郎「なあ、万葉。――もし良ければ、二人きりで話さないか」

万葉「妾と?」

狂太郎「ああ。きみがいい」

万葉「……まあ、良いだろ」


(そうして二人は、一号室に入る)

(二人きりになって、狂太郎は少女をじっと見据えた。対する万葉は、気まずそうに目を逸らす。どうも彼女、人と目を合わせるのが苦手らしい)


狂太郎「一つ、質問してもいいか」

万葉「なんだい」

狂太郎「単刀直入に言う。きみ、ひょっとしてこの世界の住人じゃあないんじゃないか?」

万葉「……ふむ。なんでそう思う?」

狂太郎「先ほどの証拠品を見たんだ。《トイレットペーパー》。……これって、異世界人がよく持っているアイテムだからね」

万葉「ほうほう。……それを知っている貴男は、いったい何者、かな?」

狂太郎「たぶんだが、――きみの同業だろう」

万葉「……ほう?」

狂太郎「まあ一応、立場的にはライバル、ということになるのかな。いやはや。早めに気づけて良かったよ。ぼくも、だ」


(万葉、しばらく怪訝な顔つきで狂太郎を見上げていたが……やがて納得したらしく)


万葉「そっか。そういうことかね」

狂太郎「きみだってきっと、そうなんだろ? ……違うのか?」

万葉「……ふっ」

狂太郎「?」

万葉「ふふふふふ。そんな、不安そうな顔をするもんじゃ無いよ」

狂太郎「………………」

万葉「あんたの勘は当たってる。――妾は”救世主メシア”だ。この世界を救うために、”金の盾異界管理サービス”から派遣されてきた者だよ。……もっとも妾たちの間じゃ、”異界管理人”とも呼ばれているけれど」


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(※31)

 議論フェイズ中の会話は、殺音が録画してくれたスマホの動画をそのまま掲載することとする。

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