151話 【第一ラウンド:議論フェイズ】②

(場面が切り替わって、食堂。

 残された”ああああ”、呉羽、薄雲、グレモリーが、議論を続けている)


薄雲「なーんにゃ、狂太郎と万葉のやつぅ。二人きりでおしゃべりとか。あーやーしーいーにゃー」

ああああ「……まあまあ。私ら、流れ者じゃん。脛に傷があるのはフツーだよ。内緒話くらい、するさ」

薄雲「ふみゅ」

グレモリー「それより、――二人がいない間に進められる議題とか、ないの」

ああああ「あるにはあるけど、二度手間になるよ?」

グレモリー「ここでこうして、黙っているよりマシでしょ」

ああああ「そだね。そんじゃ、あんま事件とカンケーなささそうな、ハズレ情報から。……グレモリーちゃんの部屋から、これ、見つかったよ。《金の懐中時計》」

グレモリー「…………」

ああああ「ちなみにこれ、盗んだものだよね?」

グレモリー「ん? どうしてそう思うの?」

ああああ「いやはや。なんとなーく、だけど。こういうのってさ、パーティとかに持って行くやつでしょ。私らみたいなその日暮らしの連中が持ち歩くには、高価すぎるシロモノかなって」

グレモリー「……ほ、放っておいて。……だいたいそれ、事件とは何の関係もないじゃない」

ああああ「ま、そうなんだけどね。たぶんこれ、燻製ニシンレッド・ヘリングってやつだと思う」

グレモリー「なにそれ。レッド……?」

ああああ「ミスディレクションってこと。誤った手がかり、とも言うかな」

グレモリー「だったら、最初からそう言えば良いのに。知識のひけらかしだわ」

ああああ「ひひひ。探偵役というのは、そういう生き物なのさ」

グレモリー「探偵役、ねえ……」


(そこで、薄雲が苛立たしげに口を挟む)


薄雲「二人とも、ヨケーな話をしてる暇があったら、推理を進めるにゃ」

グレモリー「……そう、ね。確かに」

薄雲「とりあえず、私が気になってるのは、……犯人が、どうやってサイモンさんをぶち殺したか? これ!」

グレモリー「……そんなの、――単に魔法を使っただけじゃないの?」

薄雲「ところが、そこまで話は簡単じゃないにゃ」

グレモリー「……どういうこと?」

薄雲「その件に関してちょいと、私の仮説を言っていいにゃ?」

グレモリー「……どーぞ」


(ネコ耳の少女は「ふっふっふ」と腕を組み、――とっておきの推理を披露するみたいに、胸を張る)


薄雲「あるいはこの事件、自殺ってオチじゃないかにゃ?」

ああああ「……。へえ?」

薄雲「だって、そーにゃ? 魔法はきほん、呪文を唱えて発動させるものにゃん。でも被害者が燃えていた時、この中の誰かが呪文を唱えていた雰囲気はなかったにゃ」

ああああ「わかんないよ。小声でぼそぼそっと、言ったのかも」

薄雲「えーっ。そうかにゃあ。……呉羽はどう思う?」

呉羽「どうでありんしょ。少なくともわっちには、何も聞こえのうござんした」

薄雲「でしょー?」

グレモリー「なるほど。……自作自演なら、その辺の問題が一度に解決する。……でも、本当にそうなの? 呪文を唱えないと、魔法が使えないって」

呉羽「一般的には、ほんざんす。ただ、術式次第、というか……」

薄雲「巻物スクロールを利用するとか、魔方陣を地面に書くとか……そういうやり方で魔法を使う人も、いるにはいるにゃ」

グレモリー「……それじゃ、どうとでもなるじゃないの」

薄雲「それはそーなんだけど! あくまで可能性の話として!」

グレモリー「……可能性の話をし始めると、キリがないでしょ。余計な推理で、議論を混乱させないで」

薄雲「ぎゃふんっ。――そこまで言わなくてもぉ」

ああああ「まあまあ、二人とも。その件に関してはまた、証拠が揃った時に考えましょ」

薄雲「むーっ」

グレモリー「それとも、――まだ何か、あなたが拘るような理由があるの?」

薄雲「にゃいことは、にゃい!」

グレモリー「……つまり、あるってことね」

薄雲「実は、ちょっとした噂を聞きつけたんにゃ。この、旅人向けの宿屋『ライト・サイド』にて、私たち”闇の民”と”光の民”の和平交渉が行われるって」

ああああ「へえええ。こんなしょぼい宿で?」

薄雲「だから、良いんじゃないかにゃ? ここでなら、まさかそんな一大事が行われるなんて、誰も思わにゃいし」

ああああ「そっか。じゃ、薄雲ちゃんはこう言いたい訳ね? サイモンは、テロリストの一味だった、と」

薄雲「ありえにゃい話では、にゃいぜ」

ああああ「………………………………………」



(四人の議論が煮詰まった辺りで、狂太郎と万葉が食堂に戻ってくる)


ああああ「おかえり~」

狂太郎「いやあ! お疲れ様」

ああああ「ん? どしたん? なんだかちょっぴり、スッキリしたカオツキだけど。一発、抜いてもらった?」

狂太郎「……開口一番、ドン引きするレベルの下ネタはよしなさい。普通にいくつか、情報交換をしただけだ」

ああああ「具体的には?」

狂太郎「今はまだ、話せない」

ああああ「ん。おーけー。そんじゃ、こっちで話したこと、簡単に共有するね」


(かくかくしかじかと、”ああああ”が事情を解説する)


狂太郎「なるほど。わかった。……自殺の可能性、か」

ああああ「そゆこと。――なんか意見ある?」

狂太郎「ある。サイモンがテロリストということは、ありえない」

ああああ「なんで?」

狂太郎「彼はどうやら、平和を望む側の人間だったようだからね」

ああああ「えっ。そうなの?」

狂太郎「うん。――なあ、万葉。この件、共有してもいいだろ? その方があとあと、無駄に疑われなくて済む」


(万葉、少し地面に目を落とし、迷っていたが……結局、無言で首肯する)


狂太郎「実はな、――『サイモンと万葉は、もともと知り合いだった』んだよ」

薄雲「へ? 知り合い」

狂太郎「ああ。「サイちゃん」「カズちゃん」と言い合う仲だったとか」

薄雲「それって……つまり、二人は、恋人同士だったってこと?」


(すると、万葉はすかさず反論する)


万葉「然うじゃあ無い。……付き合い事態は、短かった。サイモンの本名も、さっき知ったくらいだし」

ああああ「距離感がやたら近いひと、だったんだね」

万葉「ああ。仲間をやたら、あだ名で呼ぶタイプでね。明るい奴だった」

ああああ「なるほど。それはそれは、ごしゅーしょうさまです」

万葉「……ふん」


(だが、薄雲だけはどこか、疑い深い眼差しを向けている)


薄雲「つまり万葉ちゃんは。――被害者が『良い奴だった』と思ってる。だから会議の邪魔はしなかった、と。そうにゃね?」

万葉「然うとも」

薄雲「でも、万葉ちゃんがそうだと思い込んでるだけ、かも」

万葉「……特に、否定はしない。さっきも言った通り、奴と妾は、それほど長い付き合いじゃないんだ。とある地方を旅した時に、ちょっとした道案内と……用心棒を頼んだ。その程度の仲だ」

薄雲「ふーん」


(そこで狂太郎、ぱんと両の手を打って、二人の議論を止める)


狂太郎「そこまで。言葉の真偽を探り合っても、疑心暗鬼に陥るだけだ」

薄雲「それはまー、たしかに」

狂太郎「それより、本当にみんな、他に情報はないのかい。あんまりケチケチするのは、どうかと思うぜ。情報の提供を惜しむ者は、犯人の疑いを免れないと思って欲しい」

薄雲「そんにゃら、……わかったにゃ。たぶんみんなを混乱させるだけになりそうだけど。……これ。狂太郎の部屋から。《クッキー》が出てきたの。なにこれ?」

狂太郎「ああ、それな。ただのおやつだよ」

薄雲「でも、わざわざこんなものが出てくること、ある?」

狂太郎「あるだろ。鞄を漁ったんなら。普通に」

薄雲「うーん。……これ、ハズレだったかな?」

狂太郎「そうだな。今回の殺人とは何の関係もない。ちなみにこれ、毒なんかも入ってないぜ」


(言いながら、クッキーを一枚、口の中に放り込む狂太郎)


狂太郎「うまい」

万葉「……ふむ。其れなら妾も、役に立つかどうか微妙な証拠品がある。呉羽ちゃんの部屋から。《コーヒー入りのカップ》だ。まだ温かい」

狂太郎「それこそ、毒が入ってる、とか?」

万葉「其れは無い。もうすでにほとんど飲んであるからね。仮に毒が入っていたとしても、今回とは別件だ。サイモンは毒殺じゃ無い」

狂太郎「それもそうか」

万葉「どうも証拠品には、役に立つ物、そうでない物が在る様だ。……まあ、当たり前の事を言うようだけど」

狂太郎「ちなみに呉羽ちゃん、これは?」

呉羽「ヌシさまと変わらん。コーヒーだいすき。そんだけ」

狂太郎「――なるほどな。……とりあえずこれで全員分、一つは証拠品が出たってことになるか」

万葉「呉羽と狂太郎がハズレっぽい事を考えると、次の捜査は、二人の情報を探った方が良さそうだね」

狂太郎「構わないよ。ぼくに隠しごとはないからね。好きにしてくれ」

万葉「どうだか」

狂太郎「おいおい! ぼくたち、わかり合った仲だと思っていたんだがなァ」

万葉「それでも。敵だし」

狂太郎「やれやれ……」


(その時、時計の鐘が鳴り響いた。

 どうやら、時刻は八時を回ったところらしい。

 第一ラウンドの議論時間は、これにて終了。

 プレイヤーはそれぞれ、ほっとため息を吐く)


(同時に、GMの案内により、それぞれみんな、休憩時間を取ることになる。

 なお、休憩中はゲームに関する話題は禁止。

 判明次第、即座に-1点になる、とのこと)

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