148話 仲道狂太郎:ハンドアウト

●マーダーミステリー『救世主の末路』

 【仲道狂太郎の記憶】

 ぼくの名前は、仲道狂太郎。

 結論から言わせてもらおう。――ぼくは、この世界の人間ではない。いわゆる”異世界転移者”などと呼ばれているやつだ。

 その目的は、……この世界に終焉をもたらすこと。

 敵対者の中にはぼくのことを”終末因子”なんて呼んで蛇蝎だかつの如く嫌っている者もいるが、全くもって遺憾な話だと思うね。

 ぼくは、”造物主”によって増えすぎた世界を整理してやっているだけなんだけどな。


 まあ、いいさ。

 ぼくたちの正義が分からない者に、理解を請うつもりはまったくない。

 ぼくはあくまで、やるべきことをやるだけさ。


 さて、ぼくがこの、しみったれた宿、――『ライト・サイド』に立ち寄った理由は、単純である。


 この小さな宿の中で、”闇の民”の代表者と”光の民”の代表者が、和平のために密かな交渉が行う、という情報を察知したためだ。

 世界は今、にっくき異世界の管理者、――”救世主”どものお陰で平和を取り戻そうとしている。もちろんぼくは、そんな真似を許すつもりはない。必ず交渉の邪魔をする……できれば、代表者を殺すなりなんなりして、両者の関係の悪化をはかりたい。


 ……と。

 そんな状況下で、このような事件に巻き込まれてしまった。

 これははっきりと記憶していることだが、ぼくはこの事件とはまったく関係が無い。そもそもぼくには、《火系魔法》とやらの心得がないのだ。たぶんこれは有力なアリバイとなると思う。


 それにしても、まったく! 誰の仕業か知らないが、迷惑なものだ。こちらとしては、くだらん事件に巻き込まれている暇などないというのに。

 ちなみに、今のぼくには戦闘能力がほとんどない。万一、村人どもに捕まってしまったら、為す術なくくびり殺されてしまうだろう。こんな文明レベルの低い世界のクズどもに殺されるなんて、まっぴらごめんだ。どうしたってそれだけは避けるようにしたい。そのためには、なんとしてでも真犯人を見つけ出さなければ……。


 なお、ぼくは二つの”異界取得物”を持つ。

 《異世界専用スマホ》と、《クッキー型爆弾》だ。

 この二つのアイテムはいつもポケットに隠し持っているものだから、誰かに奪われる心配はないはず。

 どうにかこれらを駆使して、この状況を逃れなければならない。


 一つは、別の場所にいる仲間からの助言をもらえるというアイテム。

 一つは、何の変哲も無いクッキーに見えて、一口ぱくりと食べたものの頭部を綺麗に吹き飛ばす力を持つ。これなら、毒に耐性のある”闇の民”が相手でも確実に始末することができるはずだ。



【あなたが現在所持しているアイテム】

《異世界専用スマホ》

 遠隔地にいる仲間と連絡を取ることが出来るアイテム。

 これを使えば、仲間から何らかの助言を受けることができるだろう。

 ※使用タイミング:各ラウンド終了後の休憩時間。


《クッキー型爆弾》

 何の変哲も無いお菓子に見せかけた爆弾。

 手で割ったりした程度では反応せず、口の中に入れた場合のみ爆発する。

 ※使用タイミング:最終投票後。



【あなたが室内に残している証拠品】

《普通のクッキー》

 何の変哲も無いお菓子。爆弾のカモフラージュのために持ってきた。

 爆弾かそうでないかは、自分にだけ見分けがつく。


《周辺地図》

 この村の地図。自分たちが今いる宿『ライト・サイド』の場所に印をつけている。


《タバコ》

 ごく一般的な紙巻きタバコ。この時代の住人にとっては見慣れないものだ。


《コンドーム》

 ”異世界転移者”のたしなみである。滅ぼすための異世界に、自分の遺伝子をばらまくなんてゴメンだ。パッケージには、ぼくの世界の言語で「ごくうす」と書かれている。


《ウェットティッシュ》

 これさえあれば、いつでも清潔でいられる。


《手帳》

 痩せた猫の絵が描かれている。


《小銭入れ》

 帰りのジュース代、――120円が入っている。


《ハードカバーの本》

 日本語で、『これからの「正義」の話をしよう』(著:マイケル・サンデル)と題されている。



【他の旅人の印象】

一号室:遠峰万葉

 ヒト族の女。

 なかなかいいところのお嬢様らしく、上等な服を着ている。

 どうも、自分の出自を隠している節があるので、彼女が”光の民”の代表者ではないかとぼくはみている。どうせ殺すのだから、その前に少しファックしたとしてもバチは当たらないだろう。


二号室:”ああああ”

 ヒト族の女。一攫千金を狙う冒険者らしい。

 魔法の心得もあるらしく、《火系魔法》をみんなに披露しているのを見たことがある。少々、身なりが貧乏で、いつも酒臭い。時々、故郷に残してきた母と妹の話をする。

 こういう勝ち気な女を無理矢理屈服させ、そしてファックするのがぼくの望みだ。


三号室:呉羽

 たまたま宿に居合わせた”闇の民”の娘。戦士タイプだ。

 スケベな身体をしているので、できれば一晩、ファックしまくりたい。


四号室:薄雲

 ”光の民”と”闇の民”のハーフだと言う少女。実際、両者が混ざり合ったような見た目をしている。歳は十台半ばか、もっと若いだろうか。ぼくはロリコンではないが、一回ぐらいファックしてもいいかもしれない。


五号室:グレモリー

 一見、ヒト族に見える女。

 だが、《変化魔法》の心得があるらしいので、その正体まではわからない。

 あるいは男の可能性もあるが……それはともかくとして、ファックする。


六号室:仲道狂太郎

 正義のため、人知れず戦う終焉の使徒。ぼくのことである。



【個人目標と配点】

①事件の真相を究明し、最終投票にて真犯人を当てる。(5点)

②誰にもあなたの正体(異世界転移者)がバレない。(1点)

③誰にもあなたの正体(終末因子)がバレない。(1点)

④”光の民”あるいは”闇の民”の代表者を抹殺する。(3点)

⑤エンディングにて、自キャラを死亡させない。(キャラ死亡時、①~④の得点は0となる)


【特別ルール】※全プレイヤー共用

⑥メタフィクショナルな発言をする。(発言ごとに-1点。0点以下にはならない)

⑦もっとも優れた演技をした者に、観客投票による得点。(3点)

⑧自分以外の全登場人物が抱えている”秘密”を暴く。(20点を、全問正解者で分配する。小数点切り捨て)



【GMからのヒント】

・あなたは異世界人である。この時代の人々は異世界人に慣れていないため、なるべく自分の正体については積極的に語らない方が無難だ。

・なお、あなた個人が持つ《すばやさⅩ》を使うことは自由だ。とはいえそれは、本シナリオが想定していない行動である。結果としてあなたの推理を無闇に混乱させる恐れがあるが、その点に関して運営は一切感知しないこととする。

・なお、”ああああ”と遠峰万葉の勝敗には、あなたの動きも大きく関わっていることを明言させてもらう。具体的には、――二人の最終得点に、きみともう一人、ランダムに決定した者の得点を0.5倍したものを加算することとする。



【事件発生までのあなたの行動】

●20:00

 夕食後、”ああああ”の提案により夜に酒盛りの提案がある。

 話の中で、密会を行う二人を割り出せるかも、と思い、承諾。


●~23:00

 これから滅びゆく世界のことを想いながら、部屋で休む。

 ぼくの趣味は、丘の上から人類の滅亡する光景を見物しながら大地に穴を掘り、その穴の中に何度も何度も射精することだ。


●23:00~

 酒盛りが始まる。

 酒盛りに参加したのは、呉羽、”ああああ”、遠峰万葉そして自分。

 薄雲は「眠いから」といって部屋に戻り、グレモリーは理由も告げずに部屋に戻った。


●0:00~

 馬鹿話で盛り上がる。なかなか楽しいやつらだ。殺してしまうのは惜しいな。

 途中、グレモリーが数十分だけ話題に参加する。あまり自分のことを話したがらないやつだ。


●~2:00

 そろそろ酒も肴も話題も尽きて、話すべきことがなくなる。

 そのタイミングを見計らって、昨今の時世に関してカマをかける。

 だがどうも反応はよろしくない。この中にはいないのか? そんなはずは……。


●~4:00

 全員ぐでぐでに酔っ払って、話にとりとめがなくなっていく。

 どこかのタイミングで、誰かが席を立った音が聞こえたが、それが誰かまではわからない。


●5:30ごろ

 宿の若女将の悲鳴が聞こえて窓の外を見ると、火だるまになって苦しむ何者かの姿が……。


●6:00

 話し合いの末、犯人は我々の中にしかいないことが判明する。

 どうにかしてこの状況、切り抜けなければ。


 捜査が始まる。



【付録:この世界では常識とされている用語の解説】※この情報は、全プレイヤー共有です。

 光の民:ヒト族を代表とする種族。

 闇の民:光の民を除くほとんどの種族。魔族とも呼ばれる。

 異世界人:異世界からの使者。この世界の法則が通用しない、不思議な存在。

 救世主:世界を救わんと活躍する、神の使徒。

 終末因子:世界を滅ぼすもの。発見次第、抹殺が推奨されている。

 レベル:この世界の住人全ての共通する、戦闘能力の指標。

 勇者:かつて”魔王”退治に向かったもの。その行方は誰も知らない。

 魔王:”闇の民”を統べるもの。”救世主”によって滅ぼされた。

 魔法:呪文の詠唱などにより発動する、不思議な事象。

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