66話 本編のあらすじ

【22:05:02~】


 この手の物語で、結末までの展開を一度に語ってしまうのは少々、興ざめかも知れない。

 だが、こういう考え方もある。

 昨今の物語は、読者にハラハラドキドキを押しつけすぎているのではないか。

 物語の世界くらい、のんびりゆったり楽しめるような内容であるべきではないか。


 というわけで少し、『アサシンズ・ブラッド』本編のあらすじを語らせてもらおう。



【プロローグ】

 ”死者の王グール・キング”と呼ばれる恐るべき怪人との戦いから、数百年の時が過ぎた。

 ここは、とある都市国家の一つ、×××××。

 ×××××にはいま、恐るべき災厄が訪れている。

 夜な夜な墓場から這い出てくる食屍鬼グールの群れに、住民たちが脅かされているのだ。


 ここに、ビック・ディックマンが登場する。

 彼の仕事は”復讐代行”。

 法で裁けぬ悪党を、人知れず始末する生業だ。

 彼の武器は、――その世界では唯一無二、特製のスナイパー・ライフルである。

 しかも彼は、”集中モード”と呼ばれる術を使いこなすことにより、百発百中の精度を誇るという。


 さて、ある日のこと。

 一仕事終えたマッドマンが帰宅したところそこには、――最愛の人の息絶えた姿が。

 部屋の壁には、


――復讐を果たせ。


 と書き殴られたメッセージ。


「何故?」

「どうして?」

「彼女が一体何をした?」


 怒れる彼の、望みは一つ。犯人への報復。ただそれだけ。

 こうして、ディックマンの無慈悲な旅が始まった。



【一章】

 恋人の死体の近くには、一枚の羊皮紙が捨て置かれていた。

 その羊皮紙には八人の名が。


 試しに、そのうちの一人を拷問にかけたところ、連中には何やら、隠しごとがあるらしいとわかる。


「奴らの秘密を解き明かした時、真犯人の名も明らかになるだろう」


 そう確信したディックマンは、名簿の人物を次々と暗殺していく。


 

【二章】

 名簿の八人は結局、いずれも事件とは無関係な人間だった。

 八人は、「ドスケベ小説友の会」での知り合いに過ぎなかったのである。


「無関係な人を巻き込むとは……許せんっ」


 悪への怒りを募らせるディックマン。

 とはいえ、犯人と「ドスケベ小説友の会」の関係は無視できない。

 「ドスケベ小説友の会」本拠地に乗り込んだ彼は、いかにもモテなさそうな容姿の関係者を順番に拷問・殺害し、その秘密名簿を手に入れるのだった。


 

【三章】

 「ドスケベ小説友の会」の秘密名簿を手に入れたディックマンは、あらゆる種類のモテない男を次々と殺害していく。

 醜男を殺せば殺すほどに良心の呵責を憶える彼だったが、やがて、


「醜いやつはどうせ子供も産まないし、もし子供産んでもブサイクで不幸な子供に決まってるし、殺してしまった方が世のため人のためなのではないだろうか」

「そもそも、連中の嫉妬心が、自分たちのような美男美女のカップルを引き裂く遠因になったに違いない」


 などと考えるようになっていく。


 

【幕間】

 夢にうなされるディックマン。

 彼の脳裏に蘇るのは、愛する恋人との蜜月の日々。

 彼女は彼に、こう問いかける。


――ねえ、ダーリン。

――世界ぜんぶと、大切な人、たった一人。

――どちらか一つを選ぶとしたら、あなたはどちらを選ぶ?


 その答えは、……というところで彼は目を覚ますのだった。


 

【四章】

 殺しを続けていくうち、街には”早撃ちディック”の異名が浸透していく。

 さすがに皆、この大量殺人に気付きつつあった。


 街に居場所をなくした、復讐に狂う男、――ビック・ディックマン。

 彼の最後の標的は、若くして憲兵司令官となった男、その名も「泥男マッドマン」という醜男であった。

 多くの同胞が駆逐された哀しき街で、二人は対峙する。

 宿敵、泥男マッドマンが語った話は、驚くべき内容であった。


「私は貴様の恋人を殺していない。彼女は自ら、毒を呷ったのだ」


 彼の語る真相は、こうである。


――食屍鬼グール騒ぎに関する調査を進めたところ、捜査線上にディックマンの恋人の名前が挙がった。

――そこで彼女を問い詰めると、実にあっさりと、犯行を自供したという。

――なんでも、ディックマンの恋人の正体は”死者の王グール・キング”の末裔らしい。

――その名も、”死者の女王グール・クイーン”。

――女王を自称するその女はその後、自らその命を絶ったのだ。


 事情を聞かされたディックマンの答えは、こうだ。


「うるさい。信じられるか。死ね」


 こうして二人の戦いが始まった。



【五章】

 激しい戦いの末、辛くも宿敵を取り逃がすディックマン。

 姿を消した泥男の手がかりは、もはやどこにもない。


 とぼとぼと帰途につく彼だったが、そこでかつての想いがフラッシュバックする。


――ひょっとすると俺は、無意味な殺しをしてきたのか?


 そう、思う。

 だが泥男マッドマンの話には一つ、謎があった。

 彼の語った話が全て事実だというのであれば。

 自宅の壁に書かれていたあの文字は、いったい誰が書いたというのだ……?


 と、その時だった。


 彼の目の前に現れたのはなんと、死んだはずの恋人、――”死者の女王グール・クイーン”。

 驚くディックマンに、彼女はこう囁く。


「死者の女王は、死と生の境界を操ることが出来る。死んだふりなんてお手の物よ」


 そして彼女は、全ての真実を話し始めた。

 泥男マッドマンは利用させてもらっただけ。

 全ては、恋人であるディックマンを試すためにしたこと。


――世界ぜんぶと、大切な人、たった一人。どちらか一つを選ぶとしたら、あなたはどちらを選ぶ?


 かつてした、この問いかけの答えを得るための。


 彼女の目的は、世界を食屍鬼グールで埋め尽くすことであった。

 人類を滅ぼすことで、世界から争いをなくすために。

 

 ただそんな世界で、唯一人間で居続けなければならないものがいる。

 ”死者の女王グール・クイーン”、その人だ。

 だから彼女は、連れ合いを求めた。

 死者の王国で二人きり、一緒にいられる、愛する人を。


「おめでとう。――あなたは十分に、その資格を示したわ!」


 かつて”死者の王グール・キング”と呼ばれ恐れられた怪人の末裔は、ディックマンに手を差し伸べる。


 さて。


――果たしてディックマンは、その手を取るか、どうか。


 この時ゲーム的には、とある数値が参照される。

 ”良心値”と呼ばれるそれは、困っているおばあさんを助けたり、死にかけた子犬の世話をしてやったり、温泉に浸かってリフレッシュすることにより増減する、ディックマンの精神状態を表す値だ。


 この”良心値”が高い場合、ディックマンは、以下のような選択をする。


「ダメだ。お前一人のために世界を滅ぼすなど、許されない」


 そして彼は、愛する恋人を刺し殺すのだ。


 また、”良心値”が低い場合は、――以下のようなセリフをのたまうらしい。


「そんじゃ、久しぶりに口でシてくれよ。そしたら手伝ってもいいぜ」


 

【エンディング】

 どのような選択を行ったにせよ、ディックマンはやがて、泥男マッドマンとの決着に向かう。


 もはや人間社会にとって、”早撃ちディック”は生かしておいてよい存在ではない。

 ディックマンにとっても、泥男マッドマンを始末しておかなければ、後顧の憂いとなるだろう。


 豪雨の中、憲兵隊を引き連れた泥男マッドマンと、ディックマンの最終決戦が始まる。


 ちなみにこの最終決戦、勝っても負けても強制的にエンディングに移行する。

 わざと悲惨に負けて罪をあがなうも良し、徹底的に泥男を打ちのめして国の滅亡を見守るも良し。

 結末はプレイヤー次第、というオチだ。




 ちなみにこの『アサブレ』というゲーム、発売直後はめちゃくちゃレビューが炎上したことで有名だ。

 その内容の多くは、


――主人公が不快すぎる。

――主人公に感情移入できない。

――最終決戦、わざと負けるエンディングを百回見た。

――善人ルートでもディックマンが勝つと幸せになるのが納得いかない。

――泥男主人公で作り直せ。


 というもの。


 先ほどぼくが「無駄にプロットが複雑」と話した理由、おわかりいただけただろうか。

 要するにこの物語、――ディックマンの動き次第では、ホンボシの”死者の女王グール・クイーン”を取り逃がす恐れがあるのだ。


 はてさて。

 これからぼくは、どう動いたものかな。


【~22:35:02】

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