65話 復讐者
【19:15:56~】
zzzzzzz。
zzzzzzzzzzz。
ぜっとぜっとぜっとぜっとぜっと、と。
はい、おはようございます。
あんまり眠れなかったなあ。
やっぱベッドが硬いよ、ベッドが。
あーーーーーもーーーーーー『ハンサガ』の世界が懐かしい。
あそこ、自宅のベッドよりもふかふかだったから。
『おい。聞こえるか』
と、そのタイミングでディックマンから連絡か。
日が出たところだし、そろそろだと思ってた。
『一つ、聞きたいことがある』
なんだい。
『昨日、確かに犯人が落としていった何かの名簿を拾ったはずだ。だがいつの間にか、あれの内容が『美味しいパスタの作り方』とかいうレシピとすり替わっていた。……心当たりはないか』
ないね。
『お陰で無関係な料理人の指の爪を、片っ端から剥いで回る羽目になったぞ』
(うわっ、マジかよこいつ。頭おかしい)……へえ、そうなんだ。
そりゃちょっとした災難だったな。気の毒に。
いずれにせよ、ぼくは無関係だ。
そもそも昨日、ぼくが名簿をすり替えるような時間はなかったはずだろ。
『……それは、そうだが……。なにかの魔法を使った、とか』
魔法。そんなこともできるのか。
便利だな魔法。なんでもありだな魔法。
『知らん。俺の仕事は暗殺だ。魔術の類はむしろ、俺の恋人の領分だった』
ふーん(後方腕組み訳知り顔おじさん)。
『……まあ、いい。さっさとそちらの所在を教えろ。俺がいまから、会いに行く』
いや、それはなんか怖いから、どっか拓けたところで話そう。
昨日会った、城が見渡せる丘じゃダメかい。
『かまわん』
よし。決まりだな。そんじゃ、そこで待ってる。
通話終了。
…………。
しかし、――すり替えられてるとわかっていたのに、無関係な人を拷問して回るとは……。
マジでどうかしてる。
ぜんぜん合理的な判断ができてないじゃないか。
先が思いやられるな、まったく。
【~19:30:33】
▼
【19:38:11~】
で、約束の場所に移動、と。
……と、思ってたらなんかね。
現在、盗賊とエンカウントしてる。
この手のゲームをやってて時々思うんだが、――住人の生活圏内に魔物や盗賊がぶらついてるって、どうなんだよ。この世界の治安はどうなってるんだよ。
「おい、お前。金を出せ」
→YES NO
即肯定。
はい、有り金ぜんぶ。
「えっ。こんなにくれるの? なんか悪いな、へへへっ」
関係ないけどおっちゃん、最近怪しい人を見かけなかったかい。
「怪しい人っていうと?」
ここんとこ、
それなのに、平気で夜な夜な出歩いてるやつ、とか。
「そうだなァ。さすがにそういうやつは見かけないなあ」
そうか。
……やはり……フラグを立てないと現れないのかな……。
「なんだって? フラグ?」
いや、なんでもない。こっちの話だ。
それじゃ、
「どうもこうも。やつらおっかねえからな。おれらの稼業も、夜歩きできなくて困ってる。お陰でこんな時間に仕事する羽目になっちまって。こちとら、食わせにゃならん嫁と子供がいるのによォ」
そりゃ気の毒に。
「……。いやいや! 気の毒なのはそっちだろ。有り金全部、盗られちまったんだから」
別にいいんだ、それは。
足りなくなったら、適当なところから盗ってくるだけだから。
「なんだいあんた。ご同業かい」
そんなところだ。
……それよりその、
「そりゃ、あっちこっちからよ。やつら、骨だけになっても元気いっぱいだからな。色んな時代に埋められた死人が起き上がって、ぼんやりそこらをお散歩、ってな状況さ」
どれくらい、被害がでてる?
「わからん。どーもあいつら、食屍鬼っちゅう名に反して、草食でな」
草食?
「おうよ。意外だよな。やつら、普段は樹の実なんか食ったりしてて、――ぎゃふん」
おや?
おっちゃんなんか、額からナイフ生えてますけど?
「あれ。……おかしいな……。身体から力が……抜けて……」
嘘だろ。
おっちゃん。おっちゃん、おっちゃーーーーん!
「よう」
やっぱりお前か、ディックマン。
「助けてやったんだぞ。ありがたく思え」
余計なお世話だ。
それに、わざわざ殺す必要なんてなかっただろ。
「うるさい。だまれ」
うわこいつ、マジで人の話を聞かないな……。
「そんなことより、さっさとお前の話を聞かせろ。吐け。俺の恋人を殺したやつの名を」
…………。
なんか、昨日と比べて、これっぽっちも冷静になってるように見えないのだが。
ホントにしっかり、休息をとってきたのか?
「ふざけるなっ。恋人の仇を討つまで、落ち着けるものか!」
じゃあ、言いつけを守らなかったんだな?
「何か、悪いか。俺はいますぐにでも、お前をそこに転がってる屑と同じようにしてやっても構わないんだぞ」
……すごいな。
愛する人に死なれると、ここまできかん坊になるのか。
一応、助言させてもらうが、お前の恋人、まだ自殺の可能性もあるんだぜ。
「は? ふざけるな。俺の女が、幸せの絶頂にいたはずのあいつが、……毒を呷るわけないだろ」
……ふむ。
それはまあ、……否定しないが。
しかしだからといって、無関係な人を傷つけて良い理由にはならんぞ。
「…………――ッ!」
う、おっと!
「お前ッ。何が善意の第三者だ。俺のナイフを受け止めるなど、訓練を受けていない者ではありえない。大方、憲兵隊の密偵か……どこぞの暗殺ギルドの刺客か」
いや、そんなんじゃないって。
……ああ。
めんどくさいやつだな、きみ。
できればこの手は使いたくなかったが……。
【~19:51:01】
▼
【19:53:07~】
(どっぼーん! と、水を叩く音)
「どっわっぷ! な、なんだここは!?」
温泉だよ。頭を冷やしてもらいたくてね。……逆効果か? むしろ温まるか?
「な、何ッ!?」
ちなみにここ、攻略WIKIにあった回復ポイントな。
場所的には、君ん家の裏山にあるやつ。
「馬鹿な。あそこまで、5,6キロはあるはずなのに……っていうか、わあ! 服がッ」
武装はぜんぶ、解除させてもらった。
ってかお前、キンタマの裏にまで武器を仕込んでるのな。怖いぞ暗殺者。
「やかましい。俺の装備を返せ!」
嫌だね。すぐそこの岩場に一式、捨ててきた。
「貴様……ッ」
これでわかったろ。やろうと思えばぼくは、今の間に百万回だってきみを殺すことができた。
だが、あえてそれをしなかった、……少なくとも、害意はないということだ。
「害意がないからといって、こちらを利用しないとは限らんだろう!」
そりゃまあ、否定しないがねえ。
ぶっちゃけぼくが何かの陰謀に加担しているのなら、きみみたいなやつに利用価値はまったくないよ。
「矛盾してるぞ。だったら俺を手伝う理由もないはずだ」
ところがどっこい。理由ならある。
きみが真相に近づくことで、ぼくにも利益があるからだ。
「なんだと?」
もっと正確に言おう。
きみが真相に近づくことで、――この世界を救うためのフラグが立つ。
「フラグ……?」
そうだ。
逆に言うと、きみがフラグを立てないと、こちらとしては八方塞がりになりかねない。
だからぼくは、きみを手助けしたい。
「…………ふん」
きみだってここのところ、あちこちに
「それくらい知っている、が」
きみには、その騒ぎを静める使命があるのだ。
「………………………」
うん。わかる。
ぜんぜんピンと来てないって顔、してるな。
「と、いうか正直、――どうでもいい。知ったこっちゃない」
なるほど。いまは復讐への渇望でいっぱいいっぱい、と。
だがとりあえず、そういう使命がある、ということは把握しておいてくれ。
……そして。
「?」
きみが、世界を救うという意志を示し続ける限り、ぼくは真犯人を見つける手助けをしようじゃないか。
「……手伝い? 真犯人の名前を教えてもらえないのか?」
きみが真っ直ぐ結末に向かうと、それはそれでバッドエンド直行なんだよ。
それはきみにとっても決して、望ましい結末ではないはずなんだ。
だから全ての真相を教える前に、その……剣呑な性格を、どうにかしたい。
「なんだ、それは。どういう意味だ?」
これがまた、……少々込み入った話でね。
すまんが、ここで全てを語るわけにはいかない。
【~20:05:02】
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