3
「ここには俺たちだけしかいません。吹雪に閉ざされて、ここでおきたことは誰にも知られない。二人だけの秘密にしましょう」
首筋を唇でなぞりながら囁くと、エレインはぴくりと体を震わせる。
「……今この時だけ、ということ?」
やはり、エレインはマラカイのことを思い出しているのかもしれない。それでも、ネイサンを押しのけないのだから、まだ正気に戻ったというほどではないはず。もう一押しだと、ネイサンは肌着をめくりあげ、白い肌に直接唇を押し当てた。
「あなたがそう望むのなら」
勿論、ネイサンは今夜一晩だけなどというつもりはない。この一夜をきっかけに、何としてもエレインを自分のものにするつもりだ。
一度でも関係を持てれば、それをネタに強引に迫ることもできる。マラカイに知られたくないと言うのなら、黙っていることと引き換えにしてもいい。
そのためにも、まずは今夜だ。とにかく抱きたくて、体が沸騰しそうだ。文字通り夢にまで見たこの瞬間に、体中の細胞が歓喜の声を上げる。もっともっと欲しいと、ネイサンをせき立てる。
「……ネイサンはいつもこんな風に気軽に誰かと?」
「エレイン、今この場には二人きりだ。他の誰かの話はしたくない」
「そうね、ここには私たちだけしかいないものね」
エレインのつぶやきには、二人しかいないから、ネイサンの相手をできるのはエレインしかいないからだという、どこか自虐的な意味が込められていたのだが、エレインに触れることに夢中になっていたネイサンは聞き逃した。
ほっそりした首筋から、意外なほど豊かな乳房へ手を這わせながら、くびれたウエストから円やかなヒップへの曲線を見つめる。
「綺麗だ」
恥ずかしげに頬を染めていたエレインが、ふと笑いを漏らす。
「ネイサンにそう思ってもらえてよかった」
「まだあんな戯言を真に受けてますか」
エレインの体に、子供っぽいところなどどこにもない。女らしい曲線に沿って手を這わせると、しっとりと滑らかな肌は手の平に吸い付いてくるかのようで。ほのかな香水とエレインの体臭が交わった甘い香りが、ネイサンから思考力を奪っていく。
「子供というか、ネイサンに女性として見てもらっていることが意外で」
これまでのネイサンのひどい態度のことを言っているのだろう。嫌味を言ったり、避けていたことを。
会話すればするだけ、色々と矛盾点が出てくる。これ以上は何も考えさせまいと、ネイサンはエレインに強く強引な愛撫をする。欲望と快感で、何も考えられなくするために。
(これ以上ないってぐらい、感じさせてやる)
マラカイ以上にエレインを悦ばせてやる。ネイサンにはその自信があった。
愛がなくても快感を得ることは出来る。ネイサンはエレインと絶対に忘れられないようなセックスをし、愛ではなく、肉欲で愛する人をつなぎ止めるつもりでいた。
エレインがマラカイを愛していてもいい。人の心はそう簡単に変えられない。愛してもらおうと努力したところで、その努力が正しく報われることなど稀だ。
こんな暗い欲望に支配された自分が、エレインに愛されるはずがない。エレインなら何でもいい。欲しくてたまらない。エレインのすべてが手に入るまで、きっとこうして貪りつくのだろう。
「ネイサン。お願い。そんなに急がないで」
性急で荒々しい愛撫をするネイサンの肩を、エレインが爪を立ててつかむ。
エレインの官能を高めることだけを考えているネイサンの愛撫に、エレインはもう息を乱していた。
「大丈夫。満足するまで何度でも」
エレインの尻の下に手を入れると腰を高く持ち上げ、ネイサンは躊躇することなく、エレインの秘部に顔を埋める。悲鳴のような、エレインの抗議とも歓迎ともいえないような声を無視し、ネイサンは感じやすい所に執拗な愛撫を繰り返す。濃密なエレインの香りと、快感に震える高い声、後から後からあふれ出てくる蜜の味に、ネイサン自身も燃え上がっていった。
ひときわ高い声を上げ、エレインは上り詰める。ネイサンは、ひくひくと不規則に震える秘部の奥を舌でなだめ、真っ白な内股をなでながら、エレインの体から力が抜けていくのを待った。
「……ネイサン…私……」
顔を上げると、エレインは目を閉ざして長く深い息を付こうとしていた。頬だけではなく、全身がうっすらと薔薇色に染まり、長い睫毛には涙の雫が光っている。ネイサンは衝動的に身を起こし、その涙を唇で吸い取っていた。
ゆっくりと瞼をあけたエレインと目が合う。すぎる快感に潤んだ瞳、満ち足りたエレインの表情は、とても綺麗だった。この美しいエレインを自分以外にも知る男がいると思うと、ネイサンは無性に腹立たしくなった。
「ああ、あなたを閉じ込めてしまいたい」
痛いくらいに張りつめているそこを、エレインの熱く濡れた秘部にすりつける。
「わ、私も、ネイサンとずっとこうして」
ネイサンを見つめるエレインの目は、快感に熱く溶け、ただネイサンだけを求めていた。
すりつけているそこも、ネイサンを求めてひくついているのがわかる。ネイサンは一気に挿入しようとしたが、それをエレインがとどめた。
「ネイサン、待って、お願い、急がないで」
ネイサンの胸を押し、エレインはずりずりと腰を後退させている。
「あなたの準備はもうできている、エレイン」
「あの、それなら、今度は私がっ」
「は?」
驚くネイサンの下からエレインは起き上がると、毛布の上にぺたりと座り込み、今度はネイサンへとにじり寄ってくる。ネイサンの肩に置かれた手には、ネイサンを座らせようと力が入り、この事態に驚いて唖然となったネイサンはエレインの望むまま、エレインの前に座って足を投げ出した。
さすがにエレインの顔は強ばっていたが、ためらいは一切なく、ネイサンの膝に手を置くとそのまま顔を埋めてきた。
夢の中や想像の中で、エレインに奉仕してもらったことはある。だが、まさかそれが現実の事になるとは、全く思ってもみなかった。
ぎゅっと目を閉じて口を動かすエレインを見下ろしながら、彼女の柔らかな髪をなで、ネイサンは得も言われぬ快感を覚えていた。エレインの口技はとてもたどたどしく、時折歯もたてられたが、今までで最も興奮し、爆発しそうになる自分を抑えるのに必死だった。
「エレイン…エレイン…」
柔らかな髪をまさぐりながら、ネイサンはうわごとのようにエレインの名を呼んだ。エレインが視線だけ上げてそんなネイサンを見つめ、満足そうな表情を浮かべる。男の欲望を支配して喜ぶ女の顔に、ネイサンはひどく凶暴な気分になった。
「あなたは、いつもこんなことをしているのか」
マラカイのことを思い出させるようなことは言いたくなかったし、他の男との情事について聞くのもマナー違反だとわかっていたが、聞かずにはいられなかった。
マラカイという恋人がいることはわかっていても、ネイサンの中でエレインは清らかで美しい、汚れない存在だった。自分から男に奉仕するような、しかも恋人でもない男に躊躇なくできるほど慣れているなんて、想像もしていなかったし、したくもなかった。
「他にどれぐらいいる? こうしてあなたを抱いた男は、どれぐらいいる?」
「ネイサンだけよ」
ネイサンの耳に唇を触れさせて囁いたエレインに、ネイサンはかっと血がたぎるのを感じた。
少し乱暴にエレインを押し倒すと、膝頭をつかんで、足を大きく開かせる。
「ネイサン、優しく……」
「冗談だろう?」
華奢な腰を抱え上げ、ネイサンは一気にエレインの中へと押し入った。
「!」
声にならない悲鳴を上げ、エレインがぐっと肩をつかんでくる。痛みをこらえるためなのだろう、きつく爪を立てられた肩は、痣になって残りそうなほど痛かった。だが、その時のネイサンには、そんな痛みなど感じている余裕はなかった。
エレインは初めてだった。繊細な破瓜の感触と、痛いほど狭く堅いエレインの中が、それを証明していた。エレインは汚れのない、純真無垢な存在だったのだ。
ネイサンは息をすることさえ忘れて、呆然とエレインを見下ろしていた。痛みをこらえて、ぎゅっと閉ざされたエレインの眦から、真珠のような涙がこぼれ落ちる。それを見て、ネイサンはようやく我に返った。そして、エレインから体を離そうとする。
「駄目!」
だが、ネイサンが離れるより早く、エレインがしっかりとネイサンの体にしがみついてきた。
「駄目よ。ちゃんと最後まで、最後までして」
「……エレ、イン」
「やめないでっ」
エレインは怒ったような泣いているような顔で、ネイサンを見上げていた。そして、動こうとしないネイサンに焦れたように、両足をネイサンの腰に回し、両腕でネイサンの体を抱き寄せる。
ネイサンはあえぐような呼吸を繰り返す。頭の中はこれ以上なく混乱していた。だが、エレインの柔らかな肌に抱きしめられ、エレインを欲しがる体は勝手に動きだす。
狭くきついエレインの中を、強く深く突き上げる。頭の中で、砕け散りばらばらになった理性のかけらが、エレインから今すぐ離れろと怒声を上げていた。だが、本能が、エレインを愛し欲し征服したいという男の本能が、エレインを抱くことをやめなかった。
ネイサンの腰に足をからめ、ネイサンの行為を認めていたエレインに促されるように、ネイサンはエレインの中で自分の欲望をとげた。それは今までで最高の快感であり、めくるめくような体験だった。
だが、全てが終わり、エレインから身を引いた後、ネイサンは己を抹殺したいほどの絶望と罪悪感に襲われた。
ネイサンの暗い欲望は、エレインの血に染まっていた。
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