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「そ、それで、どうやって脱出するの? 温まったら、すぐに出る?」
「いえ。今、エレイン様を連れてここを脱出するのは不可能です。吹雪がやむのを待ちましょう」
「でも、ネイサンは来れたのに」
「これから日が落ちて夜になります。視界は更に悪くなる。その中、スノーモービルにあなたを乗せて帰り着く自信は、残念ながら俺にもありません」
「そう……」
「外はひどい吹雪で、敵も味方もここには簡単に近づけません。特にテロリストどもは、命をかけてまで近づこうとはしない。俺が来ていることだって、知らないはず。ここで夜明けを待ちましょう」
ちらりと、エレインがネイサンを見る。
その視線を捕らえて、ネイサンはじっとエレインを見つめかえす。ゆっくりと指先をのばし、エレインの頬にかかる髪に触れても、エレインはじっとされるがままだった。
(ああ、これは思っていたより、うまくいきそうだ)
エレインは、二人きりで夜をあかすことをはっきりと意識している。不安と恐れ、だがそれだけではない。目を見ればわかる。
兄同然だと思っていたが、どうやらそうでもなかったらしい。嬉しい誤算だ。
「食べ物を持ってきています。腹ごしらえしましょう」
まずは、体を温めてリラックスだ。エレインはずっと一人で緊張状態にいた。このままでは、脱出の頃には疲れきってしまう。
この山小屋に家具は何もないので、暖炉の前に毛布を敷き、二人並んで座る。スノーモービルに括り付けてきたバッグを開け、紐をひくと瞬時に温まるスープのパックを渡す。エレインは器から立ち上る湯気を顔にあて、とても幸せそうに目を閉じていた。
(なんて、美しい)
こんな状況だというのに、エレインの美しさしか考えられない自分に、ネイサンは苦笑する。
いつでもネイサンの理性と集中を根こそぎ奪っていく女性。唯一無二の存在。エレインが側にいると、自分が制御できず、滅茶苦茶になっていくような気さえする。こんな自分は嫌だ。
やはり、エレインを自分のものにしなければ。そうすれば、少しは落ち着けるだろう。この激しすぎる飢餓感を満足させられたら、押さえつけすぎて大きく膨れ上がりすぎた欲望を満足させられれば。きっと。
「あなたが王宮に来た頃、俺は確かにあなたを妹として見ていました」
エレインの食事が終わると、ネイサンは楽しかった頃の話を始めた。
「俺と女王陛下は、子供の頃、よく一緒に遊び学びました。一人っ子の俺にとって、陛下は妹のような存在でした。その陛下が妹と可愛がるあなたを、俺がそう思うのもごく自然だったのかもしれません。正直、あの頃はとてつもなく忙しく殺伐としていて、あなたの存在は、俺にとっても陛下にとっても救いだった」
「可愛いお人形?」
「そんな風に自分を卑下するのは、陛下に対しても失礼ではないかな。俺も陛下も、血なまぐさくドロドロとした世界にいる。だがあなたは、とても綺麗だ」
あの頃から、エレインは特別な存在だった。清らかで美しい、自分が触れられないエレインを、無意識のうちに妹として扱っていたのかもしれない。妹なら、男として触れることはないのだからと、自分で自分を押さえていたのかも。
だが、そんな自制も、今はもう跡形もない。
「そんなあなたを可愛がり、慕われることが、俺達には救いだった。だから、自分を人形だなんて言わないで欲しい」
「でも、今のネイサンは、私を妹だとは思っていないわ」
「そうですね。今のあなたは、立派な王族の一員だ。俺はあなたをそう扱っているだけのこと」
「立派な王族の一員? 本当に?」
エレインの声が少しだけ冷ややかになり、じっと探るようにネイサンを見てくる。ネイサンのひどい態度は、エレインを王妹として認めていないからだと、エレインは誤解しているからだ。
「あなたを大人だと思っているから、少々厳しいことも言う」
「それだけじゃない。いつも露骨に避けて、嫌味だって」
すべて本当のことなので否定できない。
だが今はまだ本当のことを言いたくない。マラカイとの仲に嫉妬していたなどと話せば、エレインはマラカイを思い出してしまう。今、とてもいい感じに非現実的な空間の中にいるというのに、それをぶち壊したくない。
「では、あなたをまた妹のように扱いますか? 甘やかして、可愛がって?」
ネイサンがエレインの頬に手を伸ばすと、エレインは頬を紅潮させ、潤んだ目でネイサンを見上げてきた。
「……いいの?」
頬を紅潮させ、潤んだ瞳で至近距離から見上げてくるエレインに胸をはやらせながら、ネイサンは腕を伸ばしてエレインの腰に回すと、細い体をぐっと自分のほうへと引き寄せた。肩に腕をまわし、自分の胸の中にエレインを抱きしめる。
「あなたを甘やかすのも、可愛がるのも、とても簡単だ。だが、妹のようには、無理ですね」
肩を抱いていないもう一方の手で、エレインの頬を包み込み、親指でそっと唇をなぞる。
「……どうして?」
「俺にとって、あなたは綺麗すぎて、妹になど出来はしない」
「綺麗って、私が? 本気で? ネイサンの好みは私とは正反対なタイプでしょ。あの、さっきの女性みたいな、セクシーな感じの」
嫉妬のように聞こえるのが嬉しくて、ネイサンは喉の奥で低く笑い声を上げてしまった。
「なによ、何もおかしくないわ」
「あなたが嫉妬しているのが嬉しくて、つい」
「嫉妬なんて!」
エレインは顔を真っ赤にして怒り、ネイサンの胸を拳でたたく。勿論、違うのはわかっているが、こうして嫉妬だと断言すれば、そうなのかもしれないと思ってくれないだろうか。
「わ、私のこと、子供みたいな体型だって馬鹿にしたのにっ」
やはり相当気にしていたらしい。女性に対して言ってはならない言葉だった。
ネイサンはエレインの手を取ると、有無を言わせずに強く引き寄せ、自分の股間に触れさせる。そこは服の上からでもはっきりわかるぐらい、エレインに欲情していた。
「ネイサンっ」
驚いて顔をあげたエレインの後頭部をもう一方の手で捕まえると、ネイサンは言葉をふさぐように唇を強く合わせた。
逃れようとする手をしっかりと抑え込み、文句を言われないように舌を絡めて吸い上げていると、しだいにエレインの抵抗は弱くなっていく。絡めた舌が応えるようになり、たかぶりに押し当てられた手も、ネイサンの手に促されて愛撫のように動き出す。
「あなたは魅力的だ、エレイン」
唇をわずかにはなして囁けば、エレインがうっとりとした様子で目を開ける。
「お子様にも、妹にも、俺は欲情しない」
すっかり力が抜けたエレインの体を、毛布の上に横たえても、エレインは抵抗を見せなかった。ネイサンに身を任せ、されるがままになっている様子に、ネイサンの熱は上がっていく。
「エレイン、あなたが欲しい」
「……嬉しい」
エレインの頭の横に手をつくと、ネイサンは覆いかぶさるようにして唇を合わせる。おずおずとエレインの手がネイサンの肩に触れ、そのまま背中にまわっていくのに、内心でほくそ笑む。
(こんな簡単にいくとは)
それぐらい、今の状態が非現実的なのかもしれない。よっぽど怖かったのだろう。でなければ、こんな簡単にこれまでのネイサンの仕打ちを許し、触らせてくれるわけがない。
「ネイサン、私、あなたに話さなければいけないことが」
長いキスの後、エレインが突然そんなことを口にする。目は潤んでいるが、キスをする前のほうがもっと潤んでいたし、情欲にぼんやりとしていた。キスの間に、理性を取り戻したか。マラカイに対する罪悪感がつのったか。
「話はあとだ」
ネイサンはエレインの来ているフリースの前ジッパーを下げると、中に着ていた薄い肌着の上から乳房を愛撫する。乳首を探り当て親指で摺り上げると、エレインが甘い声をもらし、ネイサンの背中にある手には力がこもった。
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