死神さんは負けず嫌い

御厨カイト

死神さんは負けず嫌い


ゴホッゴホッゴホッ



今日もこの部屋では俺の咳き込む声が寂しく響く。


まったく、「咳をしても一人」と言うが、まさにその状況だ。

この部屋には俺のことを心配してくれる人は誰もいない。


「……寂しいな。」


ポツリと呟く。


ずっと病弱な俺には友達なんてものはいないし、彼女もいない。

一人寂しく、布団にくるまっているだけ。


「……そろそろ寒くなってきたから、窓でも閉めるか。」


俺は鉛のように重い体で少し開いていた窓を閉める。

そして、もう一度ベッドに戻ろうとして、振り返った時……


「!?」


目の前には何故か、銀髪の美女が立っていた。

その手には何故かその姿に見合わぬ、大きな鎌を持っている。


「あ、あなたは誰ですか!?い、一体どこから?」


驚きの隠せない声でそう言うと、美女は酷く冷静な声でこう言った。


「私は死神だ。お前の寿命が来たから迎えに来た。」


「し、死神?……あなたは何を言って……」


「何を言ってと言われても、そのままだ。お前は今から死ぬのだよ。」


「お、俺が死ぬ……?そ、そんな馬鹿な。」


「事実だ。なにより死神である私がここにいるのが何よりの証拠だ。」



俺が死ぬ……。


突如、放たれた言葉に俺は戸惑いを隠せない。

正直に言うと目の前にいるこの美女が死神だという事も信じられない。

……姿はまんま死神みたいだけど。


まだ、やりたいこともある。

こんなところで死ぬわけにはいかないのに……。


だけど、もし彼女が本当に死神なのだとしたら俺は……。


「……」


「まだ信じられないという様子だな。まぁ、それも仕方がない。だからと言って、こっちも用を済ませないといけないのでな。」


「……本当に俺は死ぬんですか?」


「あぁ、死ぬ。」


……無情に冷たく放たれた言葉は俺の胸を締め付ける。


「そうだ、この世に未練を残されては困るのでな、最後にやりたいことを言え。」


「やりたいこと……ですか。」


「あぁ、そうだ。この世でする最後の行動だ。」


この世で最後の……。

正直に言うとやりたいことはいっぱいある。

でも、やっぱり俺は、俺にはこれしかない。


「……俺のやりたいことは………」





*********






「これは……一体なんだ。」


「これはゲームというものです。」


「ほぅ、ゲームとな……。」



俺が最後にやりたいことはやっぱりゲームだった。

別にプロという訳でも何でもないが、いつも俺の心を埋めてくれたのはゲームだった。


最後もやはりこいつで俺の人生を〆たいと思う。


俺は持ち慣れたゲームコントローラーを持って、テレビの前に座る。


「これはどのように操作するのだ?」


死神さんは初めてのようで、一先ずすべての操作を教える。

と言っても格闘ゲームの操作はそこまで難しくないから、死神さんはすぐに理解できたよう。


「うむ、理解した。それではさっそく始めようか。」


「はし、それでは対戦よろしくお願いします。」


さぁ、俺の最後の試合が始まった。





数分後






テレビには「K,O!」という文字が大きく映されており、それに加えて勝者を称えるかのような大きなファンファーレが流れている。



終わった……。


俺の最後の試合が幕を閉じた。

今まで負け続けてきたかのような人生だったが、最後には勝てたのだから良いのだろう。


「……最後に対戦していただきありがとうございました。それではこれで……」


俺はコントローラーを置いて、そう言いながら死神さんの方へと振り返る。


すると……



「い、今のは何だ!なぜこの私が負ける!」



死神さんはコントローラーを強く握りしめ、顔を赤くしてそう言う。


「えっ?」


「ぐぬぬ、今まで黄泉の国に送った人数など数々のことで優秀な成績を収めてきた私がこんなゲームなどというもので負けを期するとは……」


「あ、あのー、僕の死については……」


「そんなことよりも、このゲームについてもっと教えろ!このゲームでお前に勝てるまで私は、私は諦めない!」


「え、えぇー。」



なんか、この死神さん、えらく負けず嫌いだったようです。







********





それからというもの、あの死神さんは俺の家に住み着くようになった。


なんか俺に勝てなかったのがとても悔しかったようで、「お前に勝つまではお前を死なさないし、ここからも出ていかない!」と悔しそうな顔でとても息をまいていました。


と言っても、俺もこの格闘ゲームとはシリーズは違えども、十何年もやってきたゲームだから初心者の死神さんに負けるわけがなく、ずっと死なない状況が続いてる。


今日も死神さんはテレビの前でコントローラーを手に練習に励んでいる。

ここに来た時に持っていた大きな鎌はもう使う必要が無いからか押し入れに押し込まれている。


それに死神さん、寝る間も惜しんで練習しているようで、死神さんの周りにはエネドリの缶や瓶があちらこちらに転がっている。


「ちょっと、死神さん!周りのゴミとかちゃんと片付けてくださいよ。」


「うむむ、ちょっと待ってくれ。このコマンドを練習してから……」


「いいから、先に片付けなさい!テレビの電源、消しますよ。」


「はい、片付けます。」


そう言って、死神さんはそそくさと周りに転がっている空き缶とかをビニール袋に纏めていく。


俺はそんな死神さんの様子を見ながら「まったく、もぅー」とぽつりと漏らす。



まったく、俺が死ぬのはまだまだ先になりそうです。












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死神さんは負けず嫌い 御厨カイト @mikuriya777

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