第52話 六階層の連戦

(レブナントについては聞いてたが……)


 真澄がボリュームを最大限に落とした声で呟く。


 レブナントは黒い色をしたスケルトンで、目を赤く光らせるだけでなく骨に入った亀裂まで赤く光る。暗闇の中では気味の悪さが際立っていた。


(数は……見える範囲でも十どころじゃないわね)


(それに間隔が狭い)


(飛びかかって来たりで厄介よ)


(ファイネでも逃げ切るのは難しい場所か。多少の力は借りることになりそうだ)


 後ろを向いた真澄にファイネが意図を汲み取って頷いた。


(とにかく小細工なしに射出機構を使い倒しましょう。名郷は魔力をまとわせて一刀一殺。わたしは牽制を第一に考えるけど、ひめちゃんが魔法でとどめをさしてくれてもいいわね)


(魔力を抑えて回数を稼いでみようかな)


(細かな調整もできるんだから驚きよ)


 作戦の確認と目の前に広がる状況に慣れるため、三人は静かに言葉を交わす。


(ひめちゃん、照明具を二ついい?)


(ちょっと待って)


 菊姫は暗闇の中、音を出さないよう慎重に鞄を探った。


(これね)


(ありがとう。二つ目の照明具を投げたら名郷が決めてね)


(任せろ)


 強気な返答に塩浦は照明具の一つをぼんやり明るくスイッチを入れて奥へ投げた。


「カタカタカタ……」


「カタカタ……?」


「カタカタタ……」


 大量のレブナントがスケルトンと同じ骨の震えで反応する。照らされた通路は五階層と変わらず石組みの通路。目の眩しさを軽減させたところで、塩浦が明るさを最大にした二つ目の照明具を投げ入れた。


「カタカタ……!」


「カタカタタ……!」


(よし……!)


 真澄が階段を飛び出して背を見せるレブナントにソゾロ零式の射出機構を作動させた。黒い骨を粉々にする派手な衝撃音が通路に響くと一斉に赤い目が振り向いた。


「カタカタ……!」


「カタカタカタカタカタ!」


 大量の骨を震わす音が反響する。数が一体減っただけでは何も変わらない。しかし、単純化すればその繰り返しが状況の打破につながった。


――後ろのファイネに安心するのは最低限に……。


 頼りにするが任せすぎては手伝いを申し出た意味がなくなる。抜いた剣を鞘に戻して次に備えた。


「カタカタカタカタカタ!」


 倒したレブナントに近い二体がいきなり飛びかかる。高さは二メートルに届くほど。素手ながら圧は今までの魔物より遥かに強かった。


「わたしが……!」


 声をかけた塩浦が一歩前に出る。いつもの前傾姿勢とは違って上方向に、跳び上がる形で剣を射出した。


「くっ、やっぱり……」


 手応えで一撃に仕留められないのを自覚して無理か、と続く言葉を飲み込む。そのまま横に転んで剣の射線を開けた。


「ふっ!」


 そこへ真澄が二発目を作動させてレブナントの数を減らす。


「カタカタ!」


「カタカタカタカタ!」


「カタカタカタ!」


 次々に襲い掛かかって来るため休む暇はない。ただし、それぞれの距離に差があり統率は皆無だった。


――休めなくても短い時間はある……。


 その間に剣を収めようとするが二人の速度に差はある。転がる動作を加えてなお余裕がある塩浦は先に準備を済ませ、立て続けに走ってくるレブナントを正面から吹き飛ばした。


 そして、後ろの別個体が避けるよう壁に飛んだことろへ菊姫の魔法が放たれる。魔力の消費を抑えた勢いを殺す程度の威力だが時間稼ぎには十分。真澄が次のレブナントに合わせて剣を射出させた。


 順調なサイクルで対応するが一撃で倒せるのは真澄のみ。起き上がって再度襲い来る個体がいるので徐々に間隔は短くなっていた。


 塩浦と菊姫が器用に傷を見分けつつ撃退して真澄は新たなレブナントを担当するが、腕の振りに顔を歪ませる。


「ぐっ!」


――連続で射出機構を使うとさすがに痛みが……!


 剣を鞘に戻す速度が遅くなったタイミングで四体のレブナントが重なる。


「二体までなら!」


 ソゾロ零式を自分のものにする塩浦は真澄が疲れを見せると初めから予測していた。慣れた動作で剣を走らせ一体を弾き飛ばし、身体の回転と共に剣を収めて一瞬のうちに二度の射出機構を作動させる。


 数が二体減って三体目を菊姫が静かに撃ち落とすも真澄は間に合わず、骨を小刻みにうずうずさせていたファイネが飛び出した。


「カタカタカタカタカタ!」


 軽く振るった剣が残りの一体に当たると黒い骨が形を保ったまま奥に散らばって飛んでいく。無数の骨は狙ったように他のレブナントへ当たって勢いをそぎ、再び間隔がばらけた。


「ふぅ……」


 真澄は自分の腕を揉んで助かったとファイネに視線を送る。


――威力はあるけどやっぱりタフな武器だな……。


 レブナントは激しい音につられて通路の奥から次々に現れる。気を取り直して三人は息を合わせ対処し、間が詰まるとファイネの一撃で時間が作られるのだった。






「あぁ、疲れた……」


 騒がしかった通路に静けさが戻り、地面には大量の黒い骨が散らばっていた。


「休むのは後! 時間が経つとまた湧いちゃうわよ!」


「そうだな……」


 真澄はまだ元気に振る舞える塩浦を眩しく見上げた。すぐに菊姫の指示でダンジョンを進み七階層へ続く階段にたどり着く。その間、レブナントに会うことはなかった。


「六階層にいたのが全部あそこにいたのか?」


「レブナントは基本的にしつこいのよね。逃げても追ってくるし音に敏感で他に魔物がいないところだと連戦になりがちなの」


 静かに階段を下りた先は石組みの通路と岩の洞窟が混ざった風景で、魔物の姿は見当たらない。


「聞いてた通りだな。リビングアーマーは定点を巡回するタイプだったか?」


「魔法が厄介で戦うのは避けたいんだけど……」


「カタカタカタカタカタ!」


 ファイネが指を差した通路の先は途中で崖になっていて暗闇が広がる。横に細い足場があり進める道はあるものの、指は崖の下を示した。


「この下みたいだな」


「縄梯子?」


「そうですね、設置しましょう」


 菊姫が鞄から金属製の縄梯子を取り出す。石組みと岩の隙間を利用して固定するのと合わせ、安全面を考慮し岩の小さな突起に紐を括り付けた。


「カタカタカタカタカタ!」


「一人で行くって?」


 ファイネが見せた手の平に真澄は素直に頷く。


「まあ正直、この下に道があっても縄梯子だとな……」


「帰りもあるんだしここは師匠に任せましょう。わたしたちはとりあえず休憩ね。ソゾロ零式の充電もしとかなくちゃ」


「じゃ、最後は頼んだ」


「カタカタカタカタカタ!」


 真澄たち三人は縄梯子を掴むファイネを見送り、連戦の疲れを癒すことにした。

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