第50話 二度目の五階層
『これで行けそうか?』
『はい! おそらく大丈夫かと!』
一度人間の姿に戻った真澄は家から金属製の縄梯子を見つけて持ってきた。
『よくそんな物が家にあったわね……』
『必需品だ』
自分が返した言葉に、木製カレンダーを作った時に菊姫へ言ったセリフを今さらながらに思い出す。
――金属ブロックがあったのは家が鍛冶屋だったのも関係してたんだな。
『欲を言えば今日中に方を付けたいんだが、どう思う?』
『なんともね。五階層のゾンビもどきもそうだけど、六階層にはレブナントで七階層にはリビングアーマーが出るんだから。Bランクの中でも上位に入る魔物だし一筋縄では行かないわよ』
ファイネに聞いた情報を塩浦が正しく理解する。
『目的の場所は七階層を下りた近くです』
『五階層六階層を上手く切り抜けられるかが勝負ね』
『塩浦にかかってるな』
『現状、名郷とわたしの実力なんて同程度よ。さぼらず頑張りなさい』
認められたような言動に真澄が黙ると、骨の脛を蹴られて気合を入れられるのだった。
「カタカタカタカタカタ!」
『うわ、こんなところにまで……』
階段を下りて二階層に入るところで、魔物のスケルトンが三体集まり骨を震わせていた。
『ご苦労をおかけします……』
『魔物を倒さず逃げるとこうなるんだな』
『有名どころのダンジョンでやらかすと怒られるから覚えておいてよ』
『まず魔法で倒す?』
『そうですね、お願いします』
菊姫が左手を伸ばして簡単に魔法を発動させる。正面のスケルトンが後ろへ吹き飛び、余波でのけ反った残りの二体を真澄と塩浦がそれぞれ手間取らずに倒した。
『お見事な連携ですね!』
『この一週間、別のダンジョンに三人で潜って自信はついた』
見守るファイネが不在の状況に学びは多く精神的な部分の成長が見られた。
『名郷に加えてひめちゃんもだけど、こんな短期間でダンジョンに慣れる人ってそうそういないわよ』
『私はサポートで割り切ってる。頼るのはほどほどに』
『菊姫さんには部活動の顧問にもなってもらったので頼りつくします』
『今どきの高校生は遠慮を知らなくて困る』
『部活動とはなんなのでしょうか?』
『学校、って伝わるのかな』
真澄が話すダンジョン外でのことをファイネが興味を持って聞く。魔物が出るたびに中断されるが、気がつけば三階層を過ぎて四階層に到達していた。
『前来たときは人間の姿に戻ってたのに』
『名郷がわたしと並ぶようになったからでしょうね。魔物が団子状態になってるのも逆に早くなった原因なのかしら』
四階層もスケルトンの状態で勢いは続いたものの、吊り橋で足踏みをして五階層へ入るころには人間の姿に戻ってしまった。
「ふぅ、塩浦が吊り橋を渡るのに手間取ったおかげで元通りか」
「自分を棚に上げてよく言えるわよね」
「カタカタカタカタカタ!」
五階層は道中と雰囲気が違い、階段近辺に魔物が集まる様子はなかった。
「ゾンビもどきはテリトリーを守るとファイネが言ってたな」
「個体差が大きいともね。一番気をつけるのは足の速さよ」
「タイミングが狂いやすいのか」
「わたしが右に寄って先を行くから名郷は左に寄っておいて」
「加勢できたらって感じだな。菊姫さんの魔法はどうする?」
「わたしの合図で大丈夫かしら」
「ジェムリアに魔力は溜まってるし対応するけど、余裕は欲しいかな」
確認を済ませて石組みの通路をファイネが最後尾で進む。洞窟にはあった風景の変化も、きっちり石同士が組まれているとまったく感じられなかった。
――この雰囲気は緊張が高まるな……。
変化が訪れない通路は不安な気持ちを増加させる。さらに新たな階層ということで手に力が入った。
「見えたわよ」
その声に背筋を伸ばして足を止める。照明具がゾンビもどきを微かに照らすがスケルトンと違ってわかりやすい骨の音はなく、聞き耳を立ててようやく小さいうめき声が聞こえた。
塩浦が鞘を握って距離を詰める後ろを真澄が追う。ゾンビもどきはジッとしていたが、照明具が全体像を照らしたところで向きを変えて動き出した。
よたよたと遅い歩きを見て塩浦は剣を抜く。そして、自ら近づいて剣を横っ腹に叩き込んだ。
「硬っ……!」
ゾンビもどきは攻撃に怯まず右腕を振るう。歩く速度からは考えられないほどに素早く、塩浦が慌てて後ろへ倒れる、と同時に足元で風が巻き起こり一瞬で距離が開いた。
「つい魔法を使っちゃった……」
「移動は遅いけど攻守に優れた個体なのか? 一体目じゃ判断は難しいな」
「名郷の調子は?」
「良いと思う」
「じゃあ頼んだわよ」
真澄が入れ替わりで前に出て、剣をあらかじめ抜き両手で構えた。相手が近づくのを待って深呼吸後に先制攻撃を加える。
「ふっ!」
狙いは直前の塩浦に学んで右腕だ。振り下ろした剣は鋭い摩擦音と共に狙い通り腕を斬り落とした。
「っと!」
その直後に振るわれた左腕を受け流し、バランスを崩したゾンビもどきの首も切断する。真澄は調子に左右されるが人間の姿でも武器へ魔力をまとえるようになっていた。
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