第43話 ダンジョンにシリアスはつきもの
『それで、戻ってきた理由はなんだったんだ?』
一度は五階層へ行ったものの、真澄たちはいつもの小部屋まで一直線に戻ってきた。
『まず、ワタクシの個人的な話をしなければなりません』
『騎士時代の?』
『この姿でダンジョンに閉じ込められた経緯ですね』
ファイネが木の板に座ったので、スケルトンの状態になった三人も座って話を聞くことにする。
『ルクスラ王国に宮廷魔術師として仕えていたメティル・アルコフォールという人物がいました。少々変わり者でしたが非常に優秀で頼りにされることは多かったです。しかし、周辺で行方不明者が度々現れ調査を進めると案の定色々見つかりまして。隠された研究施設では死者を用いた禁忌の実験が行われていました』
『……』
――死者の実験か……現実ではシリアスが過ぎるな。
『証拠が揃って捕らえようとしたのですが宮廷魔術師の肩書は侮れません。不意を突こうとしたところで、残念ながら転移魔法が発動してしまったのです。逃げる手段は数多く用意済みだったのでしょう。転移魔法陣が並ぶ部屋にワタクシもろとも移動しました。そこからは転移に次ぐ転移で最後にこのダンジョンに来て、逆に不意を突かれてしまいスケルトンへなることに……』
知らない世界の出来事に聞き入るが、肝心の五階層から戻ってきた理由へのつながりはまだ不明確だった。
『その後、メティルはすぐに姿を消しました。また転移魔法でどこかへ飛んだものと思っていたのですが、五階層の受肉したスケルトンを見て別の考えが浮かんだのです。このダンジョン内にメティルの研究施設があるのではないかと』
ファイネ以外の三人は意味するところがわからず、無反応に難しい顔をする。
『受肉したスケルトンは隠された研究施設で幾度となく見かけました。メティルの研究結果であることは明白で、ここが単純な逃亡先と考えていいのか悩んでしまい戻る判断をしたのです』
『メティルってやつがこのダンジョンにいる可能性も……?』
『その可能性に最も気をつける必要があります。メティルはワタクシが不意を突かれて取り逃がす相手です。マスミさんたちでは手に追えず危険に晒してしまうかもしれません。なので、今後はここに立ち入るのを避けたほうがいいでしょう』
――ちょっとレベルの違う話になってきたな……。
ファイネと同等かそれ以上の力を持ち、加えて危険な思想を持つ相手がいるとなれば別種の脅威に晒される。
『例えば色んな人に手を借りるのはどう思う?』
『できればワタクシの手で決着をと考えています』
『そうかぁ……』
『でも危険な人物がいるのなら放置はダメよね。ただし、誰の手を借りるにせよ師匠の存在は広まっちゃうでしょうけど』
『そこが問題だよな。各所で取り上げられるのはマシなほうで、ダンジョンが立ち入り禁止になって一切表に出てこないとか』
『わたしたち口封じに殺されるわね』
『そ、そんな!』
『冗談だから』
――さすがにそこまでのバイオレンスはないと思いたい。
『まずは本当にメティルってやつがいるかどうかだ。もし外に出て行ったとしたら近くに住む俺が一番に狙われていただろうし……』
真澄は自分で言いながら背筋に冷たいものが走った。
『むむ、ダンジョンにいなくても危険が……?』
『今のところ大丈夫なのか、この先も大丈夫なのかが問題になる』
『安全の確認が先決かな』
一人黙っていた菊姫が口を開く。
『とりあえず一週間。ファイネは真澄と霞の訓練に付き合わなくていいから、本腰を入れて調べてみて』
『わ、わかりました!』
『念のため、私のほうでダンジョン関連の機関に色々ぼかして連絡するよ。いたずらと思うかは向こう次第だけどね』
『ダンジョンとファイネのことはできれば……』
『そこは伏せる。危険な異世界人がいるっていう情報を信じなければ、何を言っても一緒』
『菊姫さんのところに役人っていうんですか? お堅い人が訪ねてきませんかね』
『大丈夫だと思うよ。ちょっとした伝手があってね』
菊姫により今後の方針が決められ、人間の姿に戻った三人は充電池などファイネが使える物を置いてダンジョンを出ることになった。
「これから、ってところでまさかの事態になったなぁ……」
家に戻って居間でくつろぐが、真澄はいつもと違う疲れに参っていた。
「師匠の例がある以上は他に異世界人がいたっておかしくないし、悪人の場合もあるわよね」
「今はファイネ任せか」
どこか現実離れした出来事だったため、戸惑い半分に受け止めるしかなかった。
「一週間、霞と一緒に真澄も私の家で暮らすよ」
「それは……」
「今さらだけど万が一がある。ダンジョンの入り口から少しでも離れておくべき。車は機材を運ぶのに乗ってきたし、荷物をまとめて詰め込むこと」
唯一現実的に捉える菊姫の提案によって、急な泊まりの算段が決まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます