第44話 山田鍛冶屋
「ここだったのかぁ……」
日暮れ時。それぞれがバイクと車に乗りやってきたのは川沿いで、そこにポツンと一軒の家が建っていた。
――通りがかって見たことはあるけど異質な建物なんだよな。
水車が備え付けられた石垣があって横には和風の平屋が続く。石垣の上は洋風レンガ調の二階建てになっており、和洋折衷の趣がある家だった。
「ひめちゃん、すごい家に住んでるのね……」
「おじいさんが住んでたんでしたっけ」
「そうだね」
バイクを降りて真澄と塩浦が家を見上げる横で、菊姫が平屋の大きな扉を開けて車を入れていく。
――車庫にしては大きいが……。
真澄が覗くと壁際にハンマーや金属の工具が並び、奥には大きな炉が設置されていた。その光景に鍛冶場という言葉が思い浮かぶ。
「これ! 山田って……!」
塩浦は大きな扉の横に山田鍛冶屋と焼印されたのを見て驚き、平屋の中を確認する。
「菊姫さんの苗字って山田だったんだな」
「そういうことじゃなくて、劔火愁の本名が山田なの!」
「……偶然?」
「山田と鍛冶屋よ? そもそも、銘が入ってない劔火愁作の未完成品を持ってたんだから。コレクターで流すにはできすぎよ」
――確かに言われてみればな。
二人が驚きに固まるところへ車をとめた菊姫がやってきた。
「ひめちゃん! 劔火愁と関係があるのね!?」
「うん、おじいちゃんだね」
「そんなあっさり……」
「とりあえず中入ったら? 鍛冶場のほうから上に行けるし持ってきた荷物を運ぼう」
驚きで逆に大人しくなった真澄と、対照的に興奮冷めやらぬ塩浦が車の荷物を持って階段を上がる。つながっていた玄関は一般的な洋風の作りだった。
「ここがまあ二階部分になるのかな。リビングにキッチン、洗面所と風呂場があるね。三階部分が私の部屋と別に二部屋ある。一部屋は片づけたんだけどもう一部屋が物置きみたいになってて」
「わたしがひめちゃんと一緒に寝るのね」
「寝ないよ」
遠慮から物置き部屋を真澄と塩浦が押し付け合うことになり、結局は真澄が物置き部屋に荷物を運びこんだ。
「さあ、ひめちゃん! 聞かせてもらうわよ!」
ようやく一息ついて、リビングで塩浦が前のめりになる。
「劔火愁の孫って以外に話すことある?」
「そう言われると何を聞けばいいのかしら……名郷はどう?」
「俺? 教えてくれても良かったのにとか?」
「秘密が多い女を目指してた」
「なるほど……?」
「じゃあ、ダンジョンズエクエスに利用するのは反対なの?」
「面倒がなければいいのかな」
「うーん、運営に身バレはしちゃうわよね」
「それぐらいは許容しようか」
「ひめちゃんがそこまで譲歩するなら、わたしも何か身を削る必要が……」
――俺も役立てるといいんだが……。
「ダンジョンに連れて行ってもらうだけで十分だよ。写真がカードになると報酬をもらえるんだから。私がきみたちに金銭を支払う立場なのを覚えておいてほしいね」
「わたしは実家の宣伝ができれば十分なのよね」
「俺は一端の探索者になれたらなって感じなのか」
最後はいつも通り互いに不満がないことを伝え合う。良い関係を続けるには言葉にするのも大事なのだろうと考える真澄だった。
「キッチン周りは綺麗にしてありますね」
菊姫の家に来ても料理は真澄の担当になり、キッチンを前に道具の場所を確認する。
「普段から使ってるんですか?」
「人並みにね。お店で作るときもあるし」
「スピールト愛でしたっけ。外部顧問との兼ね合いは大丈夫でした?」
「顧問の正式な通知はまだだけど問題ないよ」
「あそこって夜も営業してたりします?」
「お酒をメインにね。店長の他に、とらちゃんの妹が従業員で働いてる」
「七水先生の妹……」
――どんなパンチのある見た目をしてるのか。
「そらさんはこれ以上ないぐらい優しいよ。あとおっぱいが大きい」
「……」
「気になる?」
「ちょっと料理に集中しますね」
「そういえばスマホに画像があったね」
言葉につられて菊姫が手にするスマホを見ると、裸で地面に這いつくばる真澄が映っていた。
「……スマホを落とす可能性って考えたことあります?」
「背中のショットで顔が隠れてるし安心だよ」
「もっと安心できる方法があるんですけどね……」
菊姫のからかいもそこそこに料理を進め、三人で食卓を囲む頃には日が沈みきっていた。
「明日の予定はどうするのかしら」
「他のダンジョンに行くとか? 近くにあるのは知ってるが立ち寄ったこともないし」
真澄もある程度は戦える自信がついて、挑戦したい気持ちがいくらかあった。
「わたしは賛成! ひめちゃんは?」
「難易度による」
「調べた限りではCランク相当がひとつとBランク相当がふたつだったわね」
「そういうのって探索者が実際に潜って評価してるのか?」
「発見されたダンジョンへ我先に、って探索者がいるの。攻略サイトの運営に頼まれる場合もあるみたいだけど。間違いもあるから参考程度に受け止めるのが正解よ」
「評価を信じればBランクだった塩浦だとどこも挑めるレベルなんだな」
「行くならまずはCランク相当のダンジョンかな」
ファイネが庭のダンジョンを調査する一週間。待っている間に余計な考えが浮かぶのも手伝い、真澄たちは別のダンジョンへ潜る計画を話し合った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます