第32話 探索者が家に来た

「いやぁ、まさかすぎる展開になりましたね」


 色々あって学校から帰ってきた真澄と菊姫は、恒例になった居間で会話を交わす。塩浦も来ようとしたがさすがに帰る時間を考えると無理があり、距離が遠いという田舎特有の難しさがあった。


「とらちゃんが真澄の担任だとは思わなかった」


「とらって七水先生の愛称ですか?」


「あの人、下の名前は平がなでとらって書くんだよ」


 二人は急な出来事に体力を持っていかれ、すっかりだらけきっていた。


「菊姫さんはずっとここら辺に住んでて七水先生と知り合いに?」


「小学生のころまでだね。おじいちゃんの家があって四六時中入り浸ってたんだけど、中学へ上がるときに引っ越したんだよ。それで高校を卒業後にふらふらしてた頃かな。おじいちゃんが亡くなって。住んでいた家をどうするかの話になったから、私が住むようになった」


 真澄は初めて聞く背景に興味を惹かれ、眠気に閉じかけた目を見開く。


「プライベートな話、もっと聞かせてもらっていいですか?」


「また今度ね。ファイネが待ってるよ」


「確かにそうでした」


 いつもより遅くなっているので、作業服に急いで着替えてダンジョンへ向こうことにした。


――まずは自分が実力をつけるところからだ。


 一番遅れていると実感する真澄は菊姫と塩浦に負けないため、気合を入れて訓練に臨むのだった。






「名郷ってどこら辺に住んでるの?」


 翌日の放課後。真澄と塩浦は部室に一度集合し、改めてお互いの話をする。


――せっかく部活仲間になったんだ。


 真澄は歩み寄る姿勢を見せて祖父の家に住んでいることを説明。忘れていた連絡先の交換も済ませた。


「今日は名郷の家に行くからね!」


「学校が休みの明後日でいいだろ。時間的にすぐ帰るんだし」


「すぐに行けば大丈夫。あなたの家の近くってダンジョンが三つも集まってるところでしょ? 近くに宿がなくて探索者が避ける穴場! 待ってられないわよ!」


――その前に庭のダンジョンへ行かないとなぁ。


 塩浦をファイネへ紹介するのも合わせてだが、おそらく魔物のスケルトンは簡単に相手ができる探索者。必ず助けになるはずだった。


「よく考えればこの時間も惜しいわね。早く行きましょう!」


「帰る時だけは気をつけてくれよ」


 夜間、灯りの少なさを注意しつつ部室を後にする。靴に履き替え校舎の裏へ回って駐輪場に行くと、塩浦のバイクへ括り付けられた荷物が目に付いた。


「ソゾロシリーズだっけ。あれもここに?」


「もちろん! ジェムリアも持ってきたけどひめちゃんは来るの?」


「連絡しておくよ」


 スマホで塩浦が家に来る旨を伝え、バイクに乗り込んで学校を出る。


――やっぱり移動時間がネックか。


 学校の近辺にダンジョンは存在しないが、調べてみると真澄の家に行くよりはマシな距離にいくつか見つかった。ファイネに頼らず地力をつける意味でも挑戦するのはありだと考える。


――しかし、後ろのバイクが知り合いだと普通に安心だ。


 赤信号に捕まった際には横に並んで謎のお見合いをする。


「自分じゃ意識したことなかったけど学校の制服にバイクは目立ってそうだな」


 フルフェイスでは声がこもって伝わらないのか、塩浦が怪訝な表情で首を傾げた。


「ただの独り言だ」


「何を言ってるのよ!」


 聞こえなくても平気なため、そのまま青信号になって走り出す。途中、軽く煽られつつも無事に帰宅した。


「立派な家ね」


「じいちゃんの家だけど出かけっぱなしだから、一人で持て余してるよ」


「そうなの? 良い話を聞けたわね」


「遠慮せず居座れるってことか?」


 真澄は塩浦を一度家に上げて居間へ通した。


「まずは連れて行きたいダンジョンがあるんだが」


「どんとこいよ」


「じゃ、ちょっと着替えてくる」


 帰る時間があるので持て成すのはまたの機会にし、自分の部屋で準備をする。


――菊姫さんよりは簡単に受け入れるだろうな。


 庭のダンジョンは黙っておくこともできるが、一番に目指すのはファイネが抱える問題の打開だった。


「お待た……」


 そして、急いで戻った居間では持ってきた荷物を広げて塩浦が着替えをしていた。


「……」


 真澄は何事もなかったように戸を閉めて回れ右。声をかけられるまで黙って待つしかなかった。






「それで、どこに行くのよ」


 オーバーオール姿になった塩浦はいつもの調子で聞くが、若干の照れがあるのか腕を組んでそっぽを向いた風に構えていた。


「とりあえず庭に行こう」


 真澄もさきほどの話題に触れるのは控えたいので早速、玄関に向かう。


「ブーツも持ってきたんだな」


「鉄板入りよ」


 塩浦が履いたブーツは見るからに頑丈そうに見えた。


「両方に風のジェムリアも仕込んであるの」


「移動が速くなるのか?」


「端的に言えばね」


「そもそも、ジェムリアの仕組みがよくわかってないんだが」


「魔力を蓄えて魔法を発動できるのよ」


「蓄えるっていうのは……」


「ダンジョンで過ごせば自然に吸収してくれるわね。このブーツだと十分かかって一度発動できるの。魔力を蓄えるのにも限度があって、その最大量と消費魔力、加えて威力の差異で使いやすさと価値が変化するのよ」


「なるほど……」


 思っていたより複雑な仕組みで、真澄は考えるのをやめて実際に使う自分に任せることにした。

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