第31話 軍服萌え
そう時間はかからず、三人が待つ部室へ菊姫がやってきた。
「お待たせ……」
「おう、この間振りだなひめっち」
気恥ずかしくする菊姫に対して七水は軽く応じる。
――学校で会うと変な感じがするなぁ……。
(あれがOkikuなのよね?)
(……)
(喫茶店の店員さんでしょ?)
(……)
思考が働かない真澄は、目を輝かせて耳元で呟く塩浦を無視するしかなかった。
「まあ座れよ」
促されて菊姫が広げられたパイプ椅子に座る。
「ひめっちは昔から写真を撮るのが好きだったよなー」
「そうだね」
「でも写真家になってたのは知らなかったよ」
「つい最近ゲームに採用されただけだし……」
「ダンジョンズエクエスだろ? 調べたけどかなりでかいゲームじゃねーか」
菊姫と七水の距離感が親友のそれで、新鮮味を感じる真澄だった。
「でだ、こいつらが探索者の部活動をしたいって話なんだよ。私が顧問をできりゃ済む話なんだが、ダンジョンのことを知らな過ぎてな」
「私もそこまで知識は……」
「関わりがあれば問題ない。顧問をする時間はあるのか? あの店は適当でいいけど写真家としての時間が必要なら無理に頼めねーしな」
「写真のほうはダンジョンをメインにするつもりだから」
「おっけーてことか」
「いいよ、引き受ける」
「それでこそひめっち!」
「こそってなんなのかな」
目の前であっさり決まってしまい、真澄と塩浦は置いて行かれたように呆けた顔を見せた。
「書類やらを用意するから談笑でもしといてくれ」
七水が席を立って教室を出て行くと、塩浦が一転して満面の笑みになる。
「Okiku! ようやく会えたわね!」
「……お店で会ってるよ」
「ほんとにびっくりしちゃった!」
「名前を呼ぶときはOkikuじゃなくて菊姫でね」
「わかったわ! ひめちゃんでいかしら?」
「……」
――塩浦も素だと距離の詰め方が独特だよな。
「菊姫さんの前でお淑やかはいいのか?」
「当たり前じゃないの」
――先生がダメなのに線引きがわからん。
「早速写真を、と言いたいところだけどまずは格好を決めなくちゃ」
「カスミンは学生服だったな」
「受けは良くても先を考えると問題があるのよ。高校を卒業した後も着てたら詐欺でしょ?」
「コスプレで通用しそうだが」
「名郷って女子高生が好きなの?」
「変な趣味を押しつけるな」
同年代を好きなことに問題はないが、菊姫の冷めた視線に首を振るしかなかった。
「とはいえ制服っぽさはいいと思うの」
「学校以外の仕事で使われてる制服とかか?」
「……軍服って萌えよね」
「萌え……萌えね……」
「うん、軍服にしましょう! 色も黒は映えるしいいわね!」
「あ、実はチームを作るのもいいのではという話になりまして」
真澄は事情を菊姫に向けて説明する。
「そうだ! ひめちゃんもチームに入るのはどうかしら!」
「チームってフォトグラファーも入れるのか?」
「探索者だけよ」
「だったら……」
「ひめちゃんも探索者になりましょう!」
予想外の提案に菊姫は首を傾げる。
「私が戦うのは無理かな」
「菊姫さんって運動神経悪いんですか?」
「人並みだよ。柄じゃないだけ」
――武器を振り回す姿も似合いそうなのに。
「ならサポート役にジェムリアを使うのはどう?」
「あー、魔法を使うやつだな」
「Dランクの魔物でいいから倒す様子を動画にできれば、Okikuパワーでカード化間違いなしよ!」
「イラストレーターとかフォトグラファーがそんなに大事なのか?」
「大事に決まってるでしょ。ダンジョンズエクエスは前提としてカードゲームなの。プレイヤーが興味を引くように自分をプロデュースしなきゃ、カードに使ってもらえないんだから」
「なるほどな」
「ただし、申請に手こずってたり見込みのある探索者にはアドバイスをくれるみたいよ」
「カスミンだと逆オファーが来そうなもんだけど」
「Bランクレアのカードだったって申請すれば通る可能性はあるかもね。でも、わたしは霞の名前で新たにレアリティを重ねていきたいの」
――レアリティで別の効果を狙うって話だったか。
「プロデュース……」
そこで菊姫が静かに呟く。フォトグラファーでカードに採用されたものの、まだまだ駆け出したばかり。自分のプロデュースは必要だと常々思っていたが、上手くいっていない部分だった。
「……サポート役で済むならやってみようかな」
「それでこそひめちゃん!」
「こそってなんなのかな」
――菊姫さんがやる気に……。
「塩浦はジェムリアを持ってるのか」
「いくつかはね」
「ちなみに値段は……」
「ピンキリだけど安くても五万円はするわよ。実用を考えると十万円の覚悟は必要かしら」
「うーん……」
ぜひとも力になりたい真澄だが、現金にはめっぽう弱かった。
「Dランクの魔物を倒せそうなジェムリアは持ってるから、それを使って動画を撮ってみましょう!」
頼りがいのある塩浦に、真澄と菊姫の二人は謎に頷き合った。
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