第25話 謎のバイクにご用心
「ごちそうさま」
「ごちそうさまです……」
探索者カスミンの動画観賞後は黙食が続き、食事は粛々と終わった。
――明らかに菊姫さんが苦手そうなタイプだったもんな……。
菊姫が静かでどこか気まずい。斜め上を超えた塩浦の姿には真澄も面を食らってしまった。
「えーと……木刀の写真を撮りますか?」
「また今度かな」
「了解しました……」
再び沈黙が訪れるが打開する手段はなく、ただただ待つしかなかった。
「さっきの子、本名は?」
「……塩浦霞です」
「下の名前が一文字違いなんだ。義理の姉か妹?」
「もしそうなら両親に問い詰めないといけませんね」
菊姫が口をへの字に曲げたのを見て真澄はなぜかほっとする。
「探索者として仲良くなれる手応えはあるの?」
「残念ながら俺じゃなくOkikuに夢中ですね。ダンジョンズエクエスの探索者カードになるため、写真を撮ってほしいみたいです」
「普通、新人に頼る?」
「その返しに掲示板を見せられてしまいました。かなり評判が良くて納得でしたよ。菊姫さんも確認します?」
「やめとく」
満更でもない菊姫は腕を組んで深く瞬きをした。
「とりあえずチームを辞めた理由を聞くこと」
「もしまともな理由だったら?」
「仲良くすればいい」
「でもですね、俺がOkikuじゃないとわかったときにどうなるかが……」
――初心者でも教えてくれそうな態度だったけど、がっかりした反動で逆上はありえる。
真澄の中で塩浦の印象が定まらず、悪い方向に考えが及んだ。
「私が会えば解決だね。写真の協力をしてもらえるなら願ったり叶ったり」
「菊姫さんって身バレというか、Okikuが自分だと広まっても大丈夫なんですか?」
「ちょっと面倒かな」
「だと不安が残りますね。塩浦が広める可能性もあるんで」
「わざわざ?」
「高校生の考えなしを侮らないでください」
「きみと初めて会ったときのことを思い出すと説得力があるね」
真澄は菊姫が優しくて心底良かったと振り返る。
――やっぱり弱みだったり秘密が……。
「あ、そもそも塩浦って学校ではメガネに三つ編み姿でした」
「私と同じで身バレを避けたいのかもね」
頭から抜けていた糸口を当てに後は行動するだけ。真澄にとっても先輩探索者を得るチャンスで、自然と力が入った。
翌日の学校。予鈴が鳴っても塩浦は姿を見せずに七水が教室へやってきた。
「おいーす。お前ら来てるかー」
立っていた生徒も席に着いて教室が静かになった。
「空いてる机は塩浦か。今日は休みだって連絡があったから心配するなよー」
――まさかの休みって……。
予定が崩れた真澄は授業時間を気が抜けたまま過ごし、昼休みに空き教室だった場所で昼食をとる。
「……ダンジョン探索部だっけ」
――部室になるなら使えなくなるかもと思ったけど、まあいいか。
そして、塩浦の言っていたことが頭をよぎる。この学校で探索者になるには色々面倒が付きまとうという話が。個人的に探索者を名乗るのであれば問題はないが、ダンジョンズエクエスのカードになってみたい単純な気持ちがあった。
「菊姫さんの撮った写真がカードになったんだもんなぁ」
弁当を空にした後、スマホでゲームを始める程度にはハマっている。もちろん“古のスケルトン”が入ったデッキを使い、自分も登場できたらと思ってしまう。
一般的な探索者としてはついでに認められるぐらいでいいが、そうなると学校には把握される。結局、塩浦と部活動仲間になるのが手っ取り早かった。
昼休み後の授業も身に入らず窓に視線を移し、高校生らしく青空を眺める。
――今日こそは訓練か。
あくびを繰り返すうちに午後の授業が終わり放課後になった。仮にダンジョン探索部へ入った場合は部室へ通う時間が増えるのだろうかと、真澄はぼんやり考える。
バイクに乗り込み学校を出てスピードに気をつけながら坂道を下る最中、ミラー越しに他のバイクが走って来るのが見えた。
真澄は坂が終わっても速度を出さず走るが、後ろのバイクは追い抜く気配なくついてくる。
――遅いバイクだし先に行ってくれたほうが気楽なのに。
道は片側一車線だが幅は十分。バイクで横に寄っていれば容易に追い抜けるはずだった。
「なんだかなぁ……」
徐々に不気味さを感じ始めて、真澄はもうすぐ現れるコンビニへ入ることにした。
――何か癪に障ったかな。
絡まれたくない一心でバイクに鞭打ち、制限速度ギリギリまで速度を上げる。ミラーを確認すると離れずついてくるのでため息が出た。
コンビニの看板が見えて今度は速度を落とす。言いがかりを避けるために道交法をしっかり守り、ウィンカーを出して駐車場に入った。
バイクをとめて確認するとコンビニには追ってきてなかったが、隣にある薬局の駐車場にその姿があった。
「マジか……ん?」
既視感に目を凝らすと、ヘルメットから見覚えのある三つ編みが出ているのが見える。
「……」
真澄はまさかと思ってヘルメットを脱ぎ、バイクを押して近づくと確信に変わっていく。当の本人はとめたバイクのシートへ手を置いて、どこか満足気な様子だった。
そばまで近寄っても気づかれず声をかける。
「塩浦」
「っ!」
ヘルメットはハーフタイプで慌てて顔を隠すが、その時点で正体はバレバレだ。
「……ちゃおっはー」
「そ、その挨拶は……」
とどめの挨拶に、塩浦は顔を見せてがっくりと肩を落とすのだった。
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