第24話 炊き込みご飯と謎の美少女カスミン

「カタカタカタカタカタ!」


 ニスを塗る最後の工程が終わって完成を迎え、ファイネが手を叩いて喜びを示す。その後ろで人間の姿に戻った真澄と菊姫が肘をぶつけ合った。


「いわゆる万年カレンダーですね」


「上出来かな」


 洞窟には少々場違いな、ブロックの並べ替えで数字の場所を変更できる木製カレンダーがライトで照らされる。その日のブロックには赤い枠をはめられるようになっていた。


「時計は持ってきたのだけど平気?」


 日付の枠外にはポケットが作られて小さな時計が置かれている。


「ファイネがここを離れる時に持ち運んでもらえば大丈夫でしょう」


 作業で時間はいい頃合い。今日も訓練はお預けで調べものを優先することにした。


――ファイネは訓練どころじゃないだろうしな。


 身振り手振りでファイネに別れを告げ、真澄と菊姫の二人はダンジョンを出て家に戻る。


「菊姫さんにはお世話になりすぎな気がしてきました」


「お礼にご飯を作らせてあげようか?」


「ぜひお任せください。あ、炊き込みご飯とかどうです?」


「今どきの高校生はすぐに炊き込みご飯が頭に浮かぶんだね」


「実は弁当用に作ってみようと思ったんですけど、調べてみたら傷みやすいと出てきまして。諦めはしたんですが一度考えると食べたくなりますよね」


「お弁当も作ってるんだ。さすが今どきの高校生」


「別に今どきの高校生代表というわけでは……」


 真澄は菊姫に居間でくつろいでもらい、手早く料理に取り掛かるのだった。






「やるね」


 居間のテーブルに並んだ料理を見て菊姫が素直な感想を述べる。テーブルには炊き込みご飯の他にみそ汁と肉じゃが、卵焼きにきんぴらごぼうが用意されていた。


「みそ汁はインスタントにしちゃいましたが。きんぴらごぼうも作り置きです」


「今どきの高校生は……」


「それはもういいんで、食べましょう」


「そうだね。お世話した分を返してもらおう」


 いただきますと普段は口に出さなくなった挨拶を二人でする。料理を振る舞うのは二度目ながら、一口目の感想は緊張した。


「うん、美味しい」


 菊姫は待たれているのを知りつつ、料理をゆっくり一周する。


「いつでもお嫁さんに行けるね」


「褒め言葉として受け取っておきます」


 安心した真澄も料理を食べて出来に頷いた。


「お弁当も凝ったの作ってるの?」


「ネットを参考になんとか作ってる感じです」


「毎日大変だ」


「最近は作り置きで時間の短縮に成功しました」


 何気ない会話は意外と出て来ず、沈黙が時折挟まった。


――テレビぐらいつけておくべきだったか。


「ダンジョンで言ってたクラスメイトの話、トラブルを起こしそうな子なの?」


「見てくれは真面目ですけど、中身が伴ってるかは疑問ですね」


「チームだっけ? 探索者には普通のこと?」


「実は俺もまったく知らなくて」


 真澄はちょっと調べてみますと、行儀の悪さを横に置いてスマホで検索した。


「チームは……探索者の間でよく作られてるみたいです。ダンジョンズエクエスに関係が深いと書いてありますね」


「ふーん?」


「チームが同じカードで相乗効果を設定してくれたり……あ、これ」


 気になった情報をスマホで菊姫に見せる。


「焼き肉を食べてるカード?」


「スポンサーらしいです。カードの中に企業名が入ってますよ」


「宣伝だったりPRになるわけだ」


「一般的に行われてるんですね。所属チームの名前はなんて言ってたかな……」


――そうかい……なんだっけ……。


 記憶を頼りに探索者とダンジョンズエクエスを合わせた複数ワードで検索を試みる。


「……蒼海桜華、これかもしれません」


「聞いたことないね」


「えっと、動画の配信をメインにする企業が立ち上げたチームだそうです」


「探索者を雇う企業? 動画があるか調べてみたら」


 真澄は一緒に見られるよう、テレビをつけて動画配信サイトを映した。


「蒼海桜華で……いっぱい出てきましたね」


 サムネイルを確認していくが塩浦の姿は中々出てこなかった。


「辞めたのなら削除されてるかもよ」


「なるほど……」


 検索サイトで蒼海桜華を調べ直し、情報がまとめられたページとにらめっこする。


「脱退メンバーは書いてありましたけど本名じゃないですね」


――直近を調べれば、ってカスミン……?


 塩浦の外面からは遠いが、内面にぴったり合いそうな別名に当たりをつけた。再度、動画配信サイトでカスミンを検索すると蒼海桜華のアカウント外に、短い動画がヒットした。


――再生してみるか……。


『ちゃおっはー! みんなのカスミンだよ!』


 いきなり流れた映像では美少女が青いメッシュ入りの黒髪を揺らし、笑顔を振りまいていた。


「こ、これは……」


 美少女はダンジョンにいることを元気に説明し、変わった形の刀剣を鞘から抜いて奥へ進み始める。


――顔は……塩浦なのか?


 メガネを外した顔を思い出すと目鼻立ちはそっくりだった。


『あいたっ!』


 ダンジョンは石組みで、地面にできた段差に足を引っかけて派手に転ぶ。格好はどこかの学生服で短いスカートがめくれて黒いタイツが大きく露出した。


『もう、今のはこの地面が悪いのよ? わたしをドジっ子扱いする人は私刑なんだから!』


 終始にわたってのカメラを意識した振る舞いは、自然と胃もたれを引き起こす。


――このいたたまれない気持ちはなんだろう。


 耐えられずにテレビを消した真澄に菊姫がジト目を向けた。


「クラスメイトはてっきり男だと思ってたよ。なかなかどうして、隅に置けないね」

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