第22話 掲示板の人たち

「んっ、はぁ……」


 真澄は放課後になって伸びをする。午後の授業中にずっと視線を感じていたため、うとうとすることさえできなかったのだ。原因はもちろん塩浦で、鞄を持って教室を出た後も背中に圧が続いていた。


――追ってきてるよな……?


 通り魔的にカミングアウトを受けて困惑するしかないが、Okikuの件は疑われたまま。上手く誤魔化していればと後悔した。


 上履きを靴に履き替えて校舎裏へ向かう。駐輪場でバイクに手をかけると足音が聞こえ、振り向くと急いで走ってくる塩浦が目に入った。


「ず、ずるい……」


 そして、近くへに来るなり呟く。


「わたし自転車なのに……」


――家まで来るつもりだったのか……?


「俺はダンジョンに興味ないし、Okikuに心当たりもない」


「名郷って嘘をつくとき瞬きが多くなるのよね」


「そんなはずは……」


「ほら、多くなった」


 指摘されたら誰でも多くなるだろうと、真澄はため息をついた。


「塩浦に聞いた話は黙っておくから」


「そんなことはどうでもいいのよ」


「どうでもって……」


「色々考えた結果、わたしに必要なのはやっぱりOkikuだと気づいたの」


 また面倒なことを言いだしそうな気配にヘルメットを持つが、ひったくられる。


「後ろ盾がないとダンジョンズエクエスのカードになるのすら難しいのよ。Okikuの協力を得られたらきっと上手くいくはず!」


「それなら新人に頼らなくても……」


「甘いわね」


 塩浦はヘルメットを抱えたままスマホを手にし、軽く操作する。


「ほら、見てみなさい」


 スマホを渡された真澄が画面を見ると、そこには掲示板が表示されていた。




【DE】フォトグラファー Okiku【ダンエク】


212 名前:名無しさん@手札不足

 フォトグラファーのカードで久しぶりに当たりじゃね?


213 名前:名無しさん@手札不足

 写真からイラストに起こしたやつって違和感あるのが多いのにな


214 名前:名無しさん@手札不足

 いまいちなのは絵に比べて迫力が出しづらいのが原因だけどさ

 他の“古のスケルトン”と比べても一番いいな


215 名前:名無しさん@手札不足

 名前を調べたらSNSしか出て来んわ

 画像を二枚載せてるだけだった


216 名前:名無しさん@手札不足

 そもそもアカウントの作成日が最近すぎる


217 名前:名無しさん@手札不足

 運営の秘蔵っ子?


218 名前:名無しさん@手札不足

 写真の販売サイトで一枚売ってるな

 購入回数が100を回ってるしプロの名義変更とか?


219 名前:名無しさん@手札不足

 する意味ある?


220 名前:名無しさん@手札不足

 攻撃の寸前だよなこれ

 相手がスケルトンとはいえ度胸がある


221 名前:名無しさん@手札不足

 この出来は次も確実に運営がオファーするはず


222 名前:名無しさん@手札不足

 イラストレーターと違ってフォトグラファーだしな

 指定した絵を撮って来いは難しいだろ


223 名前:名無しさん@手札不足

 フォトグラファーが少ない理由でもある


224 名前:名無しさん@手札不足

 探索者のカードはほとんど写真撮ってのイラストじゃん


225 名前:名無しさん@手札不足

 大抵は本人が自撮りでしょ

 人気があるのはイラストレーター頼みが多いし


226 名前:名無しさん@手札不足

 Okikuって名前が日本っぽくていい


227 名前:名無しさん@手札不足

 新規カードを任せられそうだな


228 名前:名無しさん@手札不足

 つっても道具か武具カードが精々じゃねーの?


229 名前:名無しさん@手札不足

 魔物の新規カードは元からイラストが多いもんな


230 名前:名無しさん@手札不足

 特定の効果を持たせようとしたら絵が強い


231 名前:名無しさん@手札不足

 あとで足せばどうとでもなるだろ


232 名前:名無しさん@手札不足

 まあオリジナル系は仕方ない


233 名前:名無しさん@手札不足

 とにかく一枚目は成功だな


234 名前:名無しさん@手札不足

 二枚目が楽しみにはなった




「どう?」


 塩浦がなぜか得意げにする。


「今日の昼に実装でこれか。ダンジョンズエクエスの人気ぶりを改めて認識したよ」


「名郷がすごいんでしょ」


「いや、俺はOkikuじゃないんだって……」


「瞬きが多くなってるわよ」


「……」


 真澄は平行線になって話が長くなりそうなのでヘルメットを奪い返す。


「カードになりたいようなことを言ってたけど意味があるのか?」


「大ありよ。たとえば自分が探索者だって証明はどうすると思う?」


「……自己申告?」


「されて信じる?」


「……何か専門の機関があるんだろ」


「それがないのよね。だって探索者として認めた人が簡単に命を落としたら責任問題になるでしょ?」


――また責任の話か……。


「登録代だけ巻き上げて自己責任でっていう団体もあるんだけど、怪しいところばかりね。そこでダンジョンズエクエスなのよ! レアリティに魔物の強さと同じランクが採用されてるからわかりやすいの。なんの保証もなくて結局は自己責任よ? でも、Aランクエピック以上に採用されると報酬をもらえるんだから! すごいでしょ?」


「まあ……参考にはなった」


 話している最中に準備を済ませた真澄はヘルメットをかぶり、バイクのエンジンをかけた。


「じゃ、帰るよ」


「ちょ、ちょっと!」


 さすがに走り出したバイクへ掴みかかる真似はせず、塩浦は棒立ちで見送る。


「わたしBランクレアのカードになってたのよ! 頼りになるわよ!」


――Bランクレア……Bランク相当の魔物を倒せるのか?


 身近に実力ある探索者がいたことに驚く。少し揺らぐが初めて聞いた情報が多く懸念点があるため、考える時間がほしかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る