第14話 写真の動向
「ん……?」
真澄は枕元で鳴った音に目を覚ます。原因のスマホを手に取ると時刻は昼前を示していた。昨日はスケルトンへ三回の変身を果たし、遅くまで魔物と戦っていたため遅い起床となった。
――時間は大丈夫って言ったら、ファイネが乗り気でやらせるんだもんな。
結果、十を大幅に超える数を相手にしたことで訓練が身になっていると実感は持つに至った。
「あれ、菊姫さんだ」
待ちに待った連絡で一気に目が覚める。撮影会から数日が経過するなか、自分からの連絡はどうにもできないでいたのだ。
菊姫【来ちゃった】
「これは……?」
まさかと思い布団を慌てて抜け出す。玄関へ行って引き戸を開けると菊姫が無表情で立っていた。
「やあ」
「おはようございます……」
「入るよ」
「あ、どうぞ……」
真澄は家に上がり込む菊姫を棒立ちで迎え入れる。そして、急いで洗面所に行って顔を洗い自分の部屋で着替えを済ませて居間へ向かった。
「お待たせしました!」
「学校が休みの日は遅寝遅起き?」
居間でくつろいでいた菊姫が眠たげな表情を作る。
「昨日はちょっと……」
「遅くまで遊ぶ友だちがいるんだ?」
「当たり前じゃないですか」
「ふーん。私がなってあげようか?」
「デート場所がダンジョンでいいならぜひ」
撮影会で菊姫への怖さを軽減させた真澄は軽口に対抗しつつ、テーブルを挟んで座って話を聞くことにした。
「今日は写真の動向を教えてもらえるんですか?」
「気になってた?」
「水着姿を投稿していたアカウントが削除されたので気が気じゃありませんでした」
「心機一転で新しいアカウントを作ってね。画像の保存は?」
「……ノーコメントで」
「忘れてたら撮ってもよかったのに」
「いやもうまったく保存してないんでお願いします」
「一万円」
「……」
――水着姿を撮れるのなら安い、のか?
「販売サイトに載せた売り上げだけど」
「そっちでしたか、って本当に!?」
真澄は驚いてテーブルに乗り出す。
「SNSで評価が良かった」
菊姫が出したスマホにはSNSが表示され、穴に落ちたスケルトンの画像が一枚載せられていた。
「他は全部販売サイトのほうに載せたんですか?」
「販売サイトも穴から這い出る一枚だけ。あくまで魔物に見える必要があると思って。変に詮索されると困るでしょ?」
「……やっぱり菊姫さんって良い人ですよね」
「きみには負ける」
金銭になったと聞いて、モデルをしただけの真澄にも嬉しさが込み上げた。
「数日で一万も売れたなら、かなり期待できるんじゃ?」
「購入者はダンジョン関連のサイト運営者が多いはず」
「あぁ、利用者を増やすために迫力ある画像を使いたいんですね」
「長期的に売れるかは未知数だよ」
――当たり前だけど購入したくなる写真を撮らないとダメか。
「ダンジョン系で売り上げ上位はどんなものが?」
「ランクの高い魔物とか風景かな」
「なるほど……スケルトンは絵として弱いと」
「勝負するなら迫力に加えての珍しさ。罠に落ちたスケルトンは結構良かった」
「となると作戦がいりますね」
「考えてるのは剣と盾を持つスケルトンに扮すること。素手よりは迫力が出る」
「ダンジョンに出る魔物のスケルトンから奪えばいいんですか?」
「魔物が持つ武器は本体が死ぬと時間差はあるけど、ボロボロになってダンジョンに取り込まれるみたい。だからわずかな時間で撮影するか、きみの言う通り奪って本体を放置するか。もしくはレプリカ品を売るサイトで買うかだね。私はレプリカを用意しようと思ってる」
魔物と戦うのは難しいと考える菊姫に対し、素手のスケルトンと戦ったばかりの真澄は正反対の考えを持つ。ファイネの存在が二人の意見に差を生まれさせていた。
「またモデルを頼めるかな」
「その前に聞いてほしいことが、ってその万札は……?」
「モデル料」
「……」
――こう現金を出されて戸惑うのはなぜだろうか。
「えっと……今はいいかもしれません」
「水着がいいんだ?」
「はい、じゃなくて……ダンジョンで使える武器の現物支給とか?」
――きっとプレゼント感が出て生々しさが消えるはずだ。
「わかった。欲しい生写真があったら連絡して」
「……」
水着より露出が控えめなら安く済むのでは、と浮かぶ邪念を振り払って真澄は話を戻す。
「ダンジョンで俺と色違いの作業服を着たスケルトンがいましたよね? 名前はファイネと言うんですが、力を借りればお金をかけずに迫力ある写真を撮れると思います」
「魔物に名前を付けるのは異常だね」
「いやいや、ファイネは異世界人なんですって!」
「そんな設定まで……」
菊姫の可哀想な人を見る目に、やはりスケルトンになってもらうしかないと考える真澄だった。
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