第13話 初めての魔物討伐

 ファイネとの訓練後、人間の姿に戻った真澄は再び罠に入ってスケルトンに変身した。


――明日が休みとはいえ、ハードな一日だ。


『魔力量が元に戻っていますね』


『自分じゃ違いを感じられないが』


『スケルトンは魔力で動く存在なので、そのうち感覚を掴めるはずです』


『楽しそうだけどファイネと違って魔力とは無縁な人間だしなぁ』


――スケルトンの状態で戦うならともかく、最終的に戦うのは人間の姿なわけで。


『マスミさんが人間の姿のときも微量ですが魔力を感じますよ』


『マジで?』


『はい、マジです』


 それはダンジョンに入り浸った影響かスケルトンの影響か。話を聞ける相手がいないため、探索者が通る一般的な道かはわからなかった。


『魔物と戦う際に魔力のコントロールはできたほうがいいので、実践を通して身につけましょう』


『コントロールまでか……』


 スパルタ加減に磨きがかかり、真澄はついて行けるか心配になる。ファイネにとっては武器の調達に取り組む話を聞き、求められた剣の扱いを含め力になろうとしているだけなのだが。


『では行きましょうか』


 ファイネを先頭に分かれ道を別方向へ進む。洞窟具合は変わらずでも未知の領域は自然と緊張が高まった。


『心構えに教えてほしいんだけど、どんな魔物と戦う予定なんだ?』


『スケルトンですが素手のタイプです。落ち着いて対応しましょう』


『素手かぁ……』


――スケルトンはともかく、殴りかかってくるのは単純に怖いだろうな。


『ワタクシは手を出しません。頑張ってください!』


『ピンチになったときは?』


『マスミさんはヤバいので大丈夫です!』


『あ、はい……』


 勢いのあるヤバいには突っ込めず、自分でなんとかするしかないと気合を入れる。


 それから一本道が続いて現れたのは自然にできたような階段だった。


『いきなり下りるんだな』


『ここは二階層目に魔物が現れます。少々複雑なため、ダンジョンに潜る際は必ずワタクシを伴ってください』


『頼まれても一人じゃ来ないよ』


 ダンジョンの構造は洞窟のまま。同じ風景は途切れず、早速の分かれ道に迷う予感しかなかった。


『ファイネの頭には地図があるのか?』


『もちろん、と言いたいですが今のところはですね。階層はまだまだあって難しさがあります』


――スケルトンだけに骨が折れそうだ。


『ダンジョンの地図を作るなら紙に書くほうがわかりやすかったりする?』


『大助かりですね』


 電波が遮蔽されるダンジョンではシンプルな方法が役に立つ。


『何か考えとくよ』


『ありがとうございます。催促する形になって申し訳ありません』


 照れくささに見返りを求めてとまでは返せず、かと言って信頼を口にするのも気恥ずかしい。お互いに遠慮が残る二人だった。


「カタカタカタカタカタ!」


 洞窟内に響く骨の音に気が引き締まる。ファイネが横に移動して真澄を促した。


『罠で人間がスケルトンになってる可能性は?』


『襲ってくる時点で魔物とお考え下さい』


――初めて会ったファイネも襲ってきてたようなもんだけど。


『さらに言えば、スケルトン同士で言葉が通じない時点で判断できると思います』


『そっちのほうがわかりやすいな』


『死霊系の魔物は音に敏感です。骨の音が聞こえれば、灯りの範囲外でも捕捉されている可能性が高いでしょう』


 真澄はファイネの前に出て、先へは行かずに待機する。


『……』


「カタカタカタカタカタ!」


 骨が震える音が近づく。ライトがぼんやりと姿を捉えて裸のスケルトンを照らした。


「カタ、カタ、カタ!」


 ライトが癪に障ったのか、スケルトンは急に走り出す。ターゲットは前に立つ真澄だった。


――来る、来るぞ……。


 木刀を構えて心を落ち着かせる。ファイネを相手にしたときほどの怖さはない。剣先を揺らして狙いを定めた。


「カタカタ!」


『ふっ!』


 スケルトンが伸ばした右手を叩き落す。次に体勢が前に傾いたところで、下からあご部分目掛けて二撃目を打ち上げた。


「カタ……!」


『はあっ!』


 三撃目は後ろに大きく反った瞬間に、正面から頭部へインパクト重視の痛打を与える。衝撃にスケルトンは地面に崩れ落ち、人型を保てなくなって骨をばらけさせた。


『ふぅ……』


――思っていたより上手くいったな。


『まだ微かに魔力が残っています。もう一撃加えてみてください』


 ファイネの言葉に抜いた気を入れ直す。言われた通りに攻撃を加えやすい頭部へ木刀を振り下ろすと、ばらけていた骨が地面で跳ねて周囲に散らばった。


『一か所に骨が留まっている場合は注意しましょう。魔力を感じられなくても対応は可能です』


『見逃すとどうなる?』


『再び人の形を取り戻し、攻撃してきます』


――油断を誘うやらしさがあるんだな。


『戦ってみた感想はいかがですか?』


『ちょっと自信が出た』


『訓練は嘘をつきません。結果的に、スケルトンの状態で行うようになったのがプラスに働きましたね』


『人間の姿で通用するのか課題は残るけど』


『武器に魔力をまとわせられないと二倍以上の攻撃数を叩き込まなければなりませんが、マスミさんには目の良さがあります。動きを予測できれば対処は容易なはずです』


――目なんて初めて褒められた。


『でもやっぱり魔力は重要な要素か』


『剣の扱い以上に、かもしれませんね。魔力を多くまとわせるとどうなるか、お見せしましょう』


 ファイネが前に出ると奥から音に反応したスケルトンがやってきた。


「カタカタカタカタカタ!」


『行きますよ』


 軽い調子で握った木刀が振るわれる。どこか緩慢な動作で斜めに一閃。次の瞬間にはスケルトンの骨が斜めに切断され、全ての骨が周囲に散らばって落ちた。


――たった一撃で倒したのか……?


 真澄は落ちた骨を拾って確認する。切断面は鋭く人の肌で触ると怪我をしそうに見えた。


『打撃を斬撃に変えることだって可能なんです』


――こんな芸当を目の当たりにすると湧いた自信が迷子になるな。

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