第12話 ヤバい話

「だから、あのスケルトンは人間なんですよ」


「時間が経ってもスケルトンのままなのに?」


 真澄はファイネに投げてもらった服をなんとか着て、縁側に菊姫と並んで座る。


「それはもう一つの秘密で……隙あり!」


「あ、エッチ」


「今のは違うくてですね……!」


 裸のデータを消そうとカメラを取りにかかるが、直前で避けられて身体を大胆に触ってしまった。


「ぐぬ……」


「いい写真が撮れた。SNSに上げて評判が良かったら販売サイトにも載せてみる」


 菊姫は満足気にカメラのデータを確認していく。


「……もちろんスケルトンのほうだと思うんですけど、モデル料はもらえるんですか?」


「私の水着姿なら撮らせてあげてもいいよ」


「そ、それは……」


 あまりに魅力的な提案だが武器購入資金との天秤は悩ましかった。


「今、売り上げを考えるのは不健全。もし売れたらその時に相談かな」


 真澄はどこかでからかわれて終わりだろうか、と思っていたが真面目な反応に肩透かしを受ける。


「菊姫さんって意外にまともな人なんですね」


「意外じゃない。はい、連絡先」


 そして、スマホを出されたので連絡先を交換することになった。


「私は帰るけどダンジョンには入っちゃダメだよ」


「普通に入ります」


「……」


「いてててて!」


 真澄は頬をつねられるが、痛みより単純な触れ合いに心が躍ってしまう。


「つつ……あのスケルトン、色違いの作業服姿ですよね。あんな魔物います?」


「きみが着せたのかな。危険な遊びはやめたほうがいい」


 まったく信じない姿勢にもどかしさを覚えつつ、自分も初めは逃げていたので強くは出れなかった。


「菊姫さんも一度スケルトンになってみませんか?」


「水着の下を見たいの?」


「いやいや、骨までいかれるとさすがにですって」


 住んでる場所が近いということで、真澄は菊姫に簡単な灯りだけを渡して見送る。その後、すぐにダンジョンへ入るのだった。


「カタカタカタカタカタ!」


「ごめん、遅くなった!」


 早速ヘルメットと食い気味に出された音楽プレーヤーの充電池を交換し、奥に進んでスケルトンに変身する。


『いやぁ、予定外なりに良い繋がりができたかも』


『そうなんですか?』


 真澄はファイネと小部屋に行って、菊姫との出来事をかいつまんで説明した。


『なるほど。当たり前ですが武器を買うにもお金がかかりますよね……』


『ダンジョンで使われている物を確認したいのもあるし』


 まずはファイネに武器をと思っているが、一応自分のためになるとフォローする。


『こっちではダンジョンにある鉱石を魔鉱石と呼んで売買してるんだけど、潜ってみた感じ何か見たりはした?』


『魔鉱石はワタクシの世界でも資源でしたね。ただここには乏しく、一般的に外れと言われるダンジョンです』


――全てが上手くは進まないか。


『シャシンというのが必要なら協力できますよ!』


『菊姫さん次第かなぁ。上手く行きそうだったらお願いしよう』


 時間はいつもより遅いが、話の後には訓練を始める。ファイネの物腰は変わらず柔らかいものの、指導は段階的に厳しくなっていった。




 ◇




『ぐっ!』


 真澄がスケルトンの姿でファイネ相手に木刀を振ること数日。甘い打ち込みには反撃が追加されていた。


――痛みはなくても衝撃を感じるから変な気分だ。


『薄っすら武器に魔力がまとわり始めましたね』


『武器に魔力……?』


『未経験者にしては成長がとても早いです。魔力体のスケルトンだからこそかもしれません』


『えっと……スケルトンは魔力の供給で動いてるっていう話?』


 真澄は以前聞いた、ファイネが食事いらずで済んでいる理由を思い出した。


『はい、そういう話です。ワタクシがマスミさんに攻撃すると、身体に留まっている魔力が散っていくのが確認できますよ』


『……それ、ヤバい話なんじゃ』


『はい、ヤバい話です』


 ファイネはヤバいという語感が気に入ったのか骨を細かく震わす。


『魔物のスケルトンを倒すには攻撃を与えてすべての魔力を散らす必要があります。おそらくそれと同じで、人間がスケルトンの状態になっても魔力を全て失えば死んでしまうのでしょう。あ、でもご安心を。マスミさんの魔力がなくなる前に訓練は打ち切っていますので』


 筋肉痛が消えて疲れ知らずの状態だったスケルトンに示された死のリスク。決して無敵ではないと思っていたが、言葉にされると肝が冷えた。


『身体に魔力をまとうのと違って、武器などにまとわせるのは余分な魔力を消費します。攻撃の際には自然と散っていきますので注意が必要です。人間の姿では平気でも、スケルトンの状態だと命を削っての攻撃になりますからね』


――軽い調子で言うものじゃ……。


『ということで、そろそろ魔物相手に本番と行きましょう』

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