第9話 素敵な桜と骸骨
「ふぅ……」
学校での昼休み。真澄は食事を済ませてテーブルに突っ伏した。
――まだちょっと筋肉痛が残ってるな。
横にスマホを置いて、だらけた体勢のままダンジョンで使える武器を検索する。木刀での訓練を通し、ファイネが重い武器を求めていた理由は感覚的に理解できた。
「高い……」
罠を経験した真澄の中に、ダンジョンは慎重さが重要という考えが大きくなる。できる限り万全の状態を目指したいが金銭的に足踏みが続いた。
「バイトもなぁ……」
ダンジョンで稼いで装備等を更新したいが、そのサイクルに入るまでが遠かった。
――庭のダンジョンに魔鉱石があるかどうかだけでもファイネに確認してもらおうか。
真澄は解決を後回しに探索者を調べる。初めに出てきたのは以前見た、ダンジョンで水着になっているSNSだった。
「何が手本になるかわからないし……」
あくまで念のためと言い訳をして過去の投稿を調査する。中には魔物を背に撮影されている画像もあった。
「手慣れた探索者はさすがだ」
――スケルトンに追われてる最中に撮影したらブレまくるだろうな。
水着はともかくと前置き、実力を備えた探索者と知り合えればと甘い考えがよぎる。他人任せでも近道には違いなかった。実際、探索者の多くはサポートを当たり前に受けて成長していく。
ファイネにも頼れることと頼れないことがある。そして、自分がどう力になれるか。水着に目を奪われながら悶々とする。
SNSをさかのぼると田舎の風景画像が投稿されている。有名な神社仏閣など人気スポットの画像も散見された。
「お、新しい投稿だ」
NEWの文字が躍る一件のポップアップをタップすると、どこかで見た風景画像が表示される。
「ん? これは……」
電信柱の下に公衆電話と並ぶ自動販売機。記憶を辿るまでもなく、家の近くでランニングをした時のゴール地点だった。
「もしかすると……」
ずっと見ていた水着の人物が近くにいる可能性に、真澄はなぜか姿勢を正す。ロム専だったSNSのアカウントでメッセージを送ってみることにした。
――特定しました、なんて送ったら気持ち悪がられそうだしな。
少しの逡巡後に結局は気が利く文言を思いつかず、桜と骸骨が素敵です、という本人だった場合に気持ち悪さが増すメッセージを送ってしまう。
「あれ、画像の投稿が削除された……?」
こうして真澄は、ヤンキーのお姉さんがエッチなお姉さんだと見当をつけるのだった。
学校の帰り道。真澄は田舎道に入り、いつもと違う場所をバイクでゆっくり走っていた。
――緊張する……。
周囲に視線を配って探すのはヤンキーのお姉さんだ。元々消極的な性格だったがダンジョンとの出会い以降、探索者を目指すようになって行動力が増していた。
反面、対人能力は未だに平均以下。助力を受けるための口説き文句は浮かばないでいた。
――できれば平和的にいきたいけど。
一応の策は持っているが、完全に角が立つ方法。時間が経つにつれ一度帰って考えをまとめたい気持ちが強くなるが、川沿い近くを走っている最中に目立つ金髪を見つけてしまう。
「あぁ、怖い人だったら嫌だな……」
さすがに通り過ぎはせずバイクのエンジンを止めてヘルメットを脱ぎ、押し歩きで近づいていく。
――菓子折りの一つぐらい持ってくるべきだったか。
緊張が高まって思考が散らかる。のろのろとした歩みは傍からだと怪しさ満点で、気づいたヤンキーのお姉さんと目が合った。
――よく見ると綺麗な人だ……。
勝手に恐縮を感じ消えてなくなりたくなるところ、勇気を振り絞って視線を受け止め続ける。向こうは不審に思い首を傾げるが、制服姿なこともあって警戒心は薄かった。
距離は目前。真澄は威圧的に腕組みをしたヤンキーのお姉さんに泣きたくなってくる。
「何?」
口を開こうとした矢先、先制まで取られてしまった。
「ダンジョンで水着になっていたのは……」
「ん、メッセージの人かな」
ヤンキーのお姉さんにはすぐに伝わって、ため息をつかれる。
「高校生?」
「こ、高校二年です……その、画像で顔が隠れていたので身元がバレるのは避けたいはずだと……」
余裕な態度に焦り倒した真澄は、弱みにつけこむという用意していた策を早速持ち出してしまう。
「ふーん?」
しかし、ヤンキーのお姉さんにダメージを与えた様子はない。やはり自分には格上の相手だったかと心が折れかけたが――。
「ここら辺に住んでる?」
「そうですけど……」
「行こう」
「え……?」
真澄はまったく想像してなかった言葉を受け、驚きに固まるしかなかった。
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