第6話

 校庭に皆が集まると、冷香は


「集合が遅いわね。貴方たちのもう高校生なんだからそれぐらいもっと早くできないのかしら。…できないわよね、まあ良いわ。それはもう仕方ないし。それじゃ、さっさと始めるとするわ。今から貴方たちのにやってもらうのは実力検査よ。やり方は簡単、名簿番号の1番と2番、3番と4番、といった風に2人で模擬戦をやってもらうわ。…あー、怪我とかの面は心配ないわ。私が責任を持つから。流石の貴方たちでも固有スキルは持っているわよね?その固有スキルを今から自己紹介も兼ねて見せてもらうわ。」


 と言って、実力検査を始めた。


「…まずは1番と2番ね。1番はえーと…赤井君で、2番が…岩守君ね。じゃあ…初めてちょうだい。」


 そう言われて出てきたのは、いかにも不良っぽい格好をした赤井あかい血羅けつらとかなり筋肉がついていて、静かそうな生徒、岩守いわもり綺羅きらだった。


 最初に血羅と呼ばれた人が口を開いた。


「早速俺様の出番かぁ?それにしちゃ敵が少し地味だなぁ、もっと派手なやつはいねぇのかぁ?俺様の晴れ舞台にふさわしい派手なやつはよぉ!」


祇園精舎ぎおんしょうじゃの鐘の声、諸行無常しょぎょうむじょうの響き有り。……おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢の如し。…平家物語は良いよなぁ、この良さがわかんないかなぁ…わかんねぇか、奢れてるやつには。」


 血羅の挑発に乗りもせず、かと言って無視もせず、ただ静かに返した男は、岩守と呼ばれた生徒だった。


「…そんなに死にてぇなら殺してやろうか?」


 岩守の返が気に食わなかったのか、血羅は眉を吊り上げて、今にも襲いかかりそうな顔になった。その様子を見ていた冷香が


「血羅君、それ以上やるようなら退学よ。」


 と冷たく言い放った。すると血羅は今度は冷香に向かって


「ああ?こんなんで退学にするのはおかしいだろ。」


と言うと、


「いいえ、おかしくなんかないわ。このクラスの担任は私よ。私の言うことは絶対なの。あなたたちがなんと言おうと私が退学と言ったら退学になるのよ。退学になりたくなかったら私の気分を損ねないことね。」


 そう言い放った冷香の表情は決して冗談を言っている様には見えず、血羅もそれ以上はなにも言わなかった。


「…落ち着いたようね。それではこれより実力検査を始めます。試合時間は無制限、先に相手を戦闘不能にした方の勝利です。殺す以外は何をしても良い事とします。では…始め!!」


 冷香の合図とほぼ同時に血羅が手から赤い塊を高速で綺羅に投げつけた。砂埃がもうもうと立ち込める中、血羅が声を発した。


「決まりぃ!どうだ見たか!俺の固有魔術、赤血せっけつの力を!俺の固有魔術は赤血って言ってなぁ、自分の血を使っていろんなことができるんだよ!例えば今みたいに血を固めて相手に投げたりなぁ!」


 血羅が喋っている間に、砂埃が晴れてきたと思ったら、血羅の顔がギョッとした顔になった。


「よくもまぁベラベラベラベラと自分の情報を喋ってくれるなぁ。だったら俺の固有魔術も教えてやるよ。」


 そう言いながら立ち上がった岩人の体は光沢が出ていて、至る所が角張っていて、一言で表現するなら…宝石といったところだろうか、が綺羅の体中に巡っていた。


「俺の固有魔術は宝石ほうせきだ。自分の体を宝石のように固くすることができる。さて、今度はこっちの番だな。」


 そういうと、綺羅は青い宝石と赤い宝石を取り出して


合体ドッキング・オン


 と唱えた。すると青い宝石と赤い宝石が綺羅の周りを回りながら光り始めた。とすぐに光が収まって消え、そこに現れたのは腕が赤く、足が青くなった綺羅が立っていた。


「ルビーの石言葉を知っているか。ルビーは情熱の象徴とされ、同時に炎、血の象徴ともされるんだ。逆にサファイアは誠実、忠実、慈愛といった意味があり、揺るぎない心の象徴とされる宝石だ。俺の固有魔術には他にも使い方があってな」


 そこで言葉を切ると、綺羅は走り出した…と思ったらいきなり血羅の目の前に迫っていた。そして赤くなった腕で、血羅の顔面を思い切り殴り、血羅を軽く五メートルは後ろに吹き飛ばした。


「宝石の種類によって俺の能力を変化させることもできるんだ。ちなみに、今使ったルビーは腕力増強、サファイアは脚力上昇だ。」


 そう説明をし終わった頃、血羅が起き上がってきた。


「良い度胸じゃねぇか。だったら俺もやってやるよ!殺し合いと行こうぜぇ!」


「そこまで!2人とも下がって頂戴。血羅君、私言ったわよね?これは実力検査だって。もう貴方たちの実力はわかったわ。だから下がって頂戴。」


 2人が次の戦闘態勢に入った直後、冷香が声をかけた。


「…ッチ、わぁ〜ったよやめりゃいいんだろやめりゃ。おい石野郎、命拾いしてよかったな。だが、次はねぇぞ。」


「負け犬の遠吠えにしか聞こえんな、噛ませ犬が。死にたきゃいつでもこい。殺してやるよ。」


「なんだと?もういっぺん言ってみろや。喉噛みちぎるぞ。」


「何度でも言おう。死にたきゃいつでも来い、負け犬。」


「おうじゃあ今から行ってやるよクソ野郎!」


「2人ともやめなさい!」


 売り言葉に買い言葉で2人がヒートアップしてきた時に、冷香がそれを阻止した。


「これ以上やるようなら2人には退学してもらうわ。入学式早々退学するのが嫌なら今すぐやめて列に戻りなさい。」


「「…ッチ。」」


 2人とも舌打ちして、列に戻っていった。


「…ッハァ。今年は大変そうね。」


 冷香がため息を漏らした。

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