申告の闇
一色 サラ
・・・・
「タク、どこ行くの?」
玄関先で、三奈に引き留められた。
「すぐ戻ってくるよ」
優しく微笑みかける。三奈の目はじっとこちらを見つめている。
「ダメだよ。怖いことしちゃ」
「分かってるよ。何も怖いことはしないよ」
三奈の頭を撫でて、玄関を出る。そこに、薄暗い廊下がもの静かに続いていて、暗さが心を絞めつけてくる。非常階段に続くドアと開いて、冷え切った階段に座ってメビウスに火とつけた。夜が更けた寒空に黒煙が空に舞い上がる。
このまま、堕落した生活を続けるのか、そもそも続けることができるのだろうか。
ガチャとドアが開いた。男が非常階段に入って来た。
「あ、先約いたんだ」
男が言って、ドアが閉まりかけた。
「そういえば、君がタクさんだっけ」
「えっ?!」
タクは言葉に詰まって、男の顔を凝視した。知り合いにこんな顔の人物はいない。
「三奈ちゃんと別れないの?」
「はぁ。喧嘩でも売っての?」
「いや、売ってないけど、避けてるよね。そうじゃなければ、外で煙草を吸わないよね」
「どこで、吸おうが人の勝手じゃん」
「そうだね。」
男は薄気味悪い笑顔をして、ドアを閉めて目の前から消えて行った。三奈からマンションで男の住人と仲良くしているとは聞いたことがなかった。聞くとしたら、隣の303号室の
「ダメって、言った」
急に声がして、顔を上げると、三奈が立っていた。春先で少し寒そうな服で階段にタクの隣に座っていた。
「ごめん。ダメなことはしてないけどね」
寂し気な三奈の頭を撫でる。いつもならタクの手を払ってくるのに、三奈はしょんぼりとして、何もしてこなかった。
「どうした」
「さっき、男に人きた?」
「ああ、三奈のこと知ってる感じだったけど、どういう関係?」
「ごめんなさい」
三奈はそう言って、顔を伏せる。やめてくれと思う。
「なあ、あいつとやったの?」
否定してほしい。
「何を?」
「あれだよ。セックス」
動揺か隠せない顔をした三奈。
「ごめんなさい。」
それを聞きたくなかった。
「あっそう。あいつと上手くやれよ」
タクは立ち上がって、今は三奈と一緒には居たくなかった。
「ごめんなさい。もう、しないから」
三奈に手首を握られたが、それを振り払い、非常階段のドアを開けて、出て行った。そのままエレベーターで1階に降りた。
マンションのエントランスを越えて、怒りを踏むように歩いていく。春先の深夜1時過ぎはやっぱり寒い。怒りが込み上げすぎて、早歩きで道を歩いていくことしかできなかった。ただ、怒りを発散できていない。このまま、三奈のいる部屋には戻れない。
24時間のファーストフード店で、時間を潰すことにした。一杯のコーヒーを手に窓際に座った。
ここ最近、三奈を避けていたのは事実だ。三奈が夜になると先に寝ようとする。ベットで後ろから抱きしめても、眠いと三奈に言われ、セックスレス状態だった。それなのに、三奈は他の男とやっていた。もう、三奈とは終わったんだ。
スマホを見ると、画面に6:10と表示されていた。一度、帰らないとと重い腰を上げて、マンションへと戻っていく。マンションの近くに行くと、救急車などが、並んでいた。
「どこに行ってたの?」
隣の住人の遠島に話しかけられた。
「えっ、ちょっと空気を吸いに」
遠島は顔が引きつっている。
「なんですか?」
「三奈ちゃんが、402号室の
「はい?」
タクの頭は真っ白に染まっていく。
「命には別状ないらしいけど。」
タクの住む部屋である302号室の上の住人だった。なんで刺したのか、全く見当がつかない。
「三奈ちゃんに何も聞いてないよね。当たり前だろうけど。」
「なんですか?」
タクは吐きそうになった。
「まあ、世に言うレイプだったみたいよ。あと、三奈ちゃんは、、、」
「まだあるんですか?」
「マンションから飛び降りて、亡くなったわ」
タクの頭は真っ白で、何も入ってくる気がしなった。何も気づてやれなかった。
申告の闇 一色 サラ @Saku89make
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます