第02話 暗躍・厄年、それ役不足/Rhythmic.ver
武田信玄、病で死。
後ろ盾をなくしたよ・し・み・つ(足利義満)
京都を追われ、室町幕府The End。
天皇は義満(足利義満)に換えて、信長、選ぶ。
毛利(中国地方)、上杉(越後)を攻め、傘下に。
敵となるのは、四国の長宗我部元親。
信長、元親(長宗我部元親)に四国領有を与え手を結ぶ。これで全てが上手くいくはずだった。
光秀の家臣・斎藤利三。
長宗我部元親と親戚関係。
信長は、長宗我部元親への四国領有の容認を反故にし、四国征伐を決意する。
驚愕したのは、明智光秀。
直様、信長と斎藤歳三を通して、長宗我部元親との関係修復に乗り出した。
長宗我部元親は、信長に歩み寄る書簡を斎藤利三に託す。信長はそれを握りつぶす。
戦を好まない光秀 vs 疑心暗鬼の信長。
今川義元は、京を目指して桶狭間で、信長の急襲に合い戦死。
今川の一部隊だった松平元康は、岡崎城に帰還。
その後、今川から離れ、清洲で織田信長と清洲同盟を結ぶ。その頃、松平元康から徳川家康と改めた。
家康は、生前の武田信玄に挑み大敗。それでも、無謀・勇敢と信長・諸大名の好感を得る。
それに気を良くした家康は、信長に援軍を出し関係を深める。そんな家康に忠誠心と脅威を感じる信長。
長宗我部元親に対する四国征伐の日が迫って、焦る光秀。
光秀、苦慮、苦汁、了解出来ない。
堺商人も苦慮・苦難に出口なし。
それなら自ら切り開く。
算術に長けた羽柴秀吉を贔屓する堺泉州の天王寺屋宗及たち。それに従うように見せかけ、このままでは秀吉に乗っ取られると危惧する越後忠兵衛たち。
それぞれの思惑が交差する。
越後忠兵衛たちが暗躍する。
金の力で、利権と厚顔、傍若無人。
身分、家柄、関係ない。
せっせと政権上層部に手土産下げて媚を売る。
お蔭で大名も黙らせる高利貸しに。
信長、笑って、裏では略奪を狙っている。
それぞれの思惑が交差する。
火種、燻り、我が欲、くすぐる。
顔で笑って、心で敵対。
化かし合うは、狐と狸。
おやおや、何だか、きな臭くなってきた。
諸大名たちを影で操る越後忠兵衛たち。
大名たちはそれを「閻魔会」と称し、その中心人物を「闇将軍」と皮肉を込めて呼び捨て、恐れていた。
窮地に立たされる忠兵衛たち。
織田信長が、鉄砲製造・販売の権利を狙っている。
如何に信長であろうと、黙っちゃいられない。
忠兵衛、闇の会を招集して、何やらよからぬ企みをせっせと練り上げ始めた。
(越後忠兵衛➡閻魔会の頭目)
「本日、集まってもらったのは他でもない。あの信長はんのことだす」
(宮本小次郎➡情報収集に長けた人物)
「聞いております、鉄砲の利益を狙っている件ですな」
(忠兵衛)
「そうだ」
それに元武家の近江蔵之介、根っからの商売人の鴨家小弥太、が同意した。そこに怖いもの知らずの田崎新右衛門が続いた。
(新右衛門)
「あのお方は、金では動きまへんから、ほんま厄介でっせ」
(成田重信➡裏仕事請負人)
「脅しの材料を調べたんですが、あきまへん、どれもこれも使えまへんわ」
(植野長七郎➡軍配師)
「人質でも取れるか、と調べてみたんですが、我が身大事のお人や、効果あらしまへんわ。弱みも見当たりまへん、にっちもさっちもですわ」
(重信)
「一層のこと、あの世にでも逝ってもらいまひょか、その方が楽でっせ」
一同は一瞬、氷ついた。が、すぐに冗談として、薄笑いが起きた。
(忠兵衛)
「私に策がありますが、それがかなり込み入っておりまして、綱渡りの危なっかしやつでしてな、しかし、既に、下準備は進めておます。出来たら、ちょちょちょいと片付けとうおますわ。他に簡単な方法があったら教えてくれやす、あの暴君、信長を黙らせる手立てをね」
一同は無言で、忠兵衛の方を凝視していた。その沈黙が、険しさを物語っていた。
越後忠兵衛は、重い口を開いた。
(忠兵衛)
「気まぐれな信長はん、私たちを、困らせるなんて、許せませんなぁ。そんな悪戯っ子には、ちゃんとお灸を据えないと、いけまへんなぁ」
(小弥太)
「まさか、暗殺でっか…」
一同は、冷酷無比、沈着冷静な忠兵衛の発言だけに背筋が凍りついた。
(蔵之介)
「本気でっか。そんなことをしてみなはれ、仇討とやらで、厄介な輩に命を狙われまっせ、お~怖」
(新右衛門)
「忠兵衛はん。その顔は、本気でんなぁ。それで、どうなさると…」
(忠兵衛)
「下準備は終えております。茶人の今井崇久と千利休には利権確保でしょ。宣教師には、キリスト教徒になるのを拒む信長は邪魔でしょうから、この国から消しちゃいましょうって。これが思いのほか受け入れられましてね、ちょっと、私も拍子抜けしているんですよ、く・く・く・く」
(小弥太)
「それで忠兵衛どん、どうなさるつもりだす」
(忠兵衛)
「異国の物をせっせと献上したら、信長はん、偉く異国を気に入ら張ってな。こんなええ機会を逃したら、商売なんか出来まへんがな。行きなはれ、行きなはれって、散々煽ってやりましたわ」
(長七郎)
「それでそれで」
忠兵衛の話を噺家の語り部のように、一同興味津々期待を込めて聞き入っていた。
(忠兵衛)
「そしたら、本人も満更ではないとういご様子、私には、そう見えましたな。ひと段落して信長はんが縁側に出て、空を見上げてため息をつかれたんですよ。ほう、溜息ですか、悩み事があるなら聞かせて貰いますよ、って言ったら、するとね…」
…忠兵衛と信長と打合せの場面が思い起こされていた…
「のう、忠兵衛、わしは正直、疲れた。いつも自分を脅かす者の不安に晒される。いつもじゃ。秀吉にせよ、光秀にせよ、家康にせよ。勢力を強める度に、頼もしい家臣というよりは、いつ、わしの首を討ちに来るかという疑いの目で見てしまう。天下取りはすぐそこにある。しかし、その後に何がある、天皇か…。逆らう者があれば、討つ、それだけではないか、つまらん、実に、つまらん。先が見えているのは。手にするまでは、面白かった。手が届くと分かってからは、つまらんのじゃ、何もかもがな、分かるか、忠兵衛」
目新しい物を前に充分に愉しんだ信長は、越後忠兵衛に本音を漏らし始めた。
「分かりますとも、信長様とは比べてはいけまへんが私も財を築いて、遊びという遊びを金に糸目をつけず、やってきました。ここに来て、遊び尽くしたというか、熱いものが込み上げてきまへん。歳は取りたくありまへんなぁ。信長様はまだ、若おます、やり直しが効きますさかい、宜しおますな」
「やり直すか…それも良いかも知れんな」
「そうなさいまし、幾ら金があっても若さは買えまへんさかいな」
「そう、簡単に言うな。もし、わしが…わしのわがままで、居なくなれば、落ち着きかけている世がまた乱れる、多くの者の命が、土の肥やしになるではないか」
「どうでしゃろ、信長様より長く生きた愚か者の意見として聞いて貰えまへんか」
「何だ、遠慮はいらん、言うてみぃ」
「言うたはええが、無礼者は、なしですよ、宜しおますか」
「分かった、言うてみぃ」
「ほな、遠慮なく。信長はん、死になはれ」
忠兵衛は、さり気なく信長を親しく呼ぶことによって、対等の位置取りを演出してみせた。それを見過ごせば、話に乗ってくる、引っかかれば次の手立てを用意し、注意深く、信長の出方を見守っていた。
「なんと、わしに死ねと…えぇ~い、そこに直れ、先に叩き切ってやるわ」
越後忠兵衛は、微動だりせず、信長を睨みつけた。
「ほら、怒った。まぁまぁ、落ち着きなはれ、まぁまぁ」
「これが、落ち着いておられるか」
「ほな、聞きますが、先の見えたこの世に信長様のやりたいことを見つけ出す、ほかの術はおありでっか」
「わしが死んでは、やりたいことも何もあるか」
「誰が、ほんまに死んでくれなんて、本人を前に言いますかいな。私は、そんな命知らずやおまへんで。私とて商人の端くれ、そんな命の安売りは勧めまへん」
「本当には死なない…とは、どう言うことか」
「ほれ、それどすがな。信長様がどこかの糞大名に戦でわざと負けた、これは、信長様の功績に大きな傷を付けるし、負けず嫌いのあんさんには、不向きで御座います。かと言って、海外に行けば、行ったで、国外逃亡や仏教徒からは、ほら撥が当たっただの、隠れキリシタンなどと揶揄される。残った織田家の方にも、どんな非難が浴びせられ、窮地に追い込まれるやも知れまへん」
「四面楚歌、八方塞がりではないか」
「そこで、ちょいと天下の大芝居を打ってみてはと」
「天下の大芝居とな」
「そうでおます、勿論、主役は信長様で御座います。明智光秀様、羽柴秀吉様、徳川家康様ら重臣さんたちにも、一泡も、ふた泡も、く・く・く、これは失礼致しました、吹いて貰うおと思うております。それ程、大掛かりにしまへんと、面白くおまへん。同じやるなら、大衆演劇のひとつにもなって、世間があっと驚く位のことをしまへんとな。世間が騒げば騒ぐほど、噂や嘘が入り交じり、真相は闇の中に。人の口には、流石に私でも、戸を建てられまへん。それに、出しゃばった奴が、重箱の隅でもほじくり返す、なんてなったら、折角の大一番も、何処へゆくやら、たまったもんじゃありゃしまへん。しっかり筋書きを用立てますよって。どうだす、天下の大芝居、面白おまへんか」
「して、その天下の大芝居とやらは、どのようなものだ」
「おっ、興味をお持ちくださったか、では、この越後忠兵衛の書き下ろした、筋書きをとくとお聞きあれ~、トトントントン」
「調子に乗るでない、能書きは良い、早う話せ」
「これは、失礼致しました」
忠兵衛は、図に乗ったことを反省し、深々と頭を畳につけた。
「さぁ、早う、早う、話してみよ、さぁ、早う」
「そう、焦らさないでくだされ、これでも、下準備にどれ程の時と金を使ったか。まぁ、それは、こっちの話で信長様と関係おまへんけどね…」
忠兵衛は、一瞬「締まった」と思った。信長の承諾なく、下準備を進めていることを悟られたのでは、と思ったからだ。忠兵衛の用意した筋書きは、信長の為を思ってと装って他の目的があることを。
「下準備、とは何か」
「嫌ですよ、信長様。芝居を書く時、色々と下調べをしないといけまへんがな。そうせんと、絵に描いた餅に成り兼ねませんがな、そうならないための下調べのことですよって」
「おお、そうか」
その場をやり過ごし、ほっとした忠兵衛は、意図的に口調を変えた。
「来る6月1日、本能寺宿泊のおり、そこで茶会を開催致します。その情報は、明智光秀の命を受けて、信長様の側近で黒人の彌助からイエズス会に筒抜けになっております」
(これは忠兵衛の偽り)
「何と光秀と彌助が、イエズス会の密偵とでも言いたいのか」
「それは、どうでしゃろ」
「何故そのように言える。裏切っておる…だと、問答無用じゃ、はっきり言え」
「では、不確かですが、それで宜しければ」
「それでもよい、言うてみぃ」
「では、お言葉に甘えて。残念なことですが、事実だす。私たちの情報網は、密偵を通じて、寝物語、密談というやつを事細かに収集する能力に長けておりましてね、警護が疎かになる本能寺に、何らかの企てが起こるという情報を得ましてな」
「その情報とは何か」
「それはですね、信じる信じないは、信長様の勝手で御座いますが、それはそれは恐ろしい企てでして」
「まどろっこしい、早う、言え」
忠兵衛は、重い沈黙を演じてみせた。
「信長様暗殺で御座いますよ」
「誰じゃ、誰がわしを狙っているというのじゃ」
「光秀様で御座います」
「光秀じゃとぉ、何故じゃ」
「そうは言われましても、信長様の重臣、光秀様を裏切り者扱いしている時点で、正直、いつ、信長様の怒りを買って、斬られるか、そう思うと、体の震えが止まらない、というのが本音で御座います」
「お前が、震えているとな、馬鹿を言うな。自信に満ちた面立ちで、居座っておるではないか」
「地獄を見過ぎたせいか、気持ちが顔にでません、損なことですわ」
「忠兵衛の目を見ればどこまで調べ、自信を持っているか分かるわ」
「流石、信長様で御座います。何もかもお見通しのようで」
「わしとて、裏切り、裏切られは、嫌と言う程、
信長が、光秀を小馬鹿にしている噂がある。それは違う。寧ろ、認めていた。その証が「禿げ」だ。気を許す仲と思うからこそ、そう呼んだ。秀吉への「猿」と同じ。常に忠実な秀吉と比較して、意見する光秀の対処への慎重さが信長の苛立ちを誘発しただけ。
可愛さ余って憎さ百倍。信長の思う忠実な光秀像がそこにはなかった苛立ちから光秀への風当たりが強くなったに過ぎなかった。
人は、他人を意のままに動かしたい衝動に駆られることは否めない。それが叶わなかった時、その苛立ちは、その者を責め立てることで緩和されるもの。
理想の光秀像にしたい信長の苛立ちは、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いで明智一族にも及んだ。
朝鮮出兵に明智家の後継者を送り込み一族を絶やすことを企む信長。
明智軍が任務を無事処理すればしたで、それは脅威となる。その場合は、現地統治を理由に遠ざけて置けばいい、そう信長は思っていた。
光秀にすれば、一族が崩壊させられる危機。光秀の立場になれば至極当然の事だった。
「光秀様は、四国征伐を苦慮されて、長宗我部元親殿との仲介に骨を折られておるそうですな」
「そうだ。元親とは親睦を深め、四国を任しておった。しかし、わしが勢力を強める事により敵も増える。瀬戸内の毛利にいつ攻められるか分からぬ。よって、わしが四国制圧を成し遂げれば、毛利とて手出しはしにくであろう、そう思うてのことだ」
「そうでしたか、そうなら、そうと、光秀様に何故、おっしゃらないのですか」
「そうすれば良かったのか…。疑心暗鬼、下克上など当たり前の世の中にどっぷり浸かっておると信じられるのは、自分だけになってしまうものだ。それが、態度に出る。相手に苛立つと叩き潰したくなる。これは性分だ。こうして、そなたの話を聞いているのは、そなたが武士でなく、ただの商人でもないからだ。元親の件は、表立っては討伐であっても裏では和睦よ。そうすることで毛利が怖気をなし、動きを抑えられる。…そうか、意思の疎通か…最早、わしには手遅れの手立てかも知れぬな」
「お察し、申し上げます」
忠兵衛は、信長の四国征伐の言い分を鵜呑みにするはずもなかった。では、なぜ、信長がその場凌ぎの嘘を行ったのか。それは忠兵衛には直ぐに分かった。謀反を仕掛けらている立場を知り、
暴君とは言え人の子。
逃げ場もなく、自らの命が狙われている現実を突きつけられれば、少なからずも自己弁護をしたくなるのは至極当然の事だった。
信長は遠くを眺め、戦に明け暮れる武士の苦悩を憂いていた。
「信長様、光秀様と元親様に使える斎藤利三様はご存知でしょ。光秀様と利三様も旧知の仲。信長様と利三様の間で光秀様の心労は計り知れないことでしょう。さらに、光秀様は隠れキリシタン寄りのお方」
「イエズス会か。聖人君子の顔をした狐か狸か…。騙されはせぬわ」
「そろそろ、確信に入りましょうか。信長様の功績を極力傷つけず、信長様の意向を達する術は、そう、明智光秀による謀反に便乗するのが良い手ではないかと」
謀反を起こさせる明智光秀を敢えて呼び捨てにすることで善悪を信長に刷り込んだ。
「そなたの筋書きではないと言うのか。光秀の決意だと」
「左様で御座います。信長様の側近の彌助は、光秀様の密偵であると同時に、私供にとっては、光秀様とイエズス会の動きを知るための密偵でもあるのです。その彌助から光秀様は、イエズス会の信長様暗殺の情報を得たと言うのですよ」
「わしの暗殺だと…イエズス会がか」
「そうで御座います。光秀様は、その確信を得ようと尽力を注がれましたが、策士であっても、なにせ、それを
「信長様もご存知でしょう。イエズス会とは名ばかりの烏合。その実態は、宗教を隠れ蓑にした日本の植民地化。彼らの後ろ盾にはヨーロッパのユダヤ金融資本があり、情報集めを目的とした諜報機関を要していることを」
「薄々、感じておった。それゆえに入信を頑なに拒んでおる。秀吉も同様にな。しかし、光秀は違ったか。光秀の欠点は、心優しい故、真実を見誤る所か。そうか、光秀がのう…、信仰とは領分弁えねば恐ろしいものよな」
「奴らの情報は、わしにとっては、輝かしきもの。利用すべきは、割り切って利用する。上手く付き合えば良い」
「おっしゃる通り、利用すべきは、利用する。いらなくなれば、捨てればいい。これが、出来るか、出来ないかで、頭に立てるか否かが決まりますな」
「光秀にはそれが、出来ぬと言うことか…だから、色々思う所があるのか」
「身の程知らずを覚悟の上で言わせて頂ければ、そう言うことになりまするな」
「して、わしの後を誰に任せるのだ、いや、そなたに都合の良い後継者は、誰だと思うのか、遠慮は要らぬ、言うてみい」
「お恐れながら、羽柴秀吉様と存じます」
「秀吉か、奴ならやり遂げようや」
「信長様、光秀様謀反のいまひとつの理由が御座います」
「何だ、まだ、あるのか」
「信長様による家康暗殺を光秀様に命じられたでしょう」
「そこまで、知っておったのか…。益々、わしは長らえる事が難しい立場に追いやられていると言うことか…己の蒔いた種か…」
「元親殿のように、昨日までは親睦、明日は敵では、心の安息が御座りませんぬ。光秀様の心が折れたということでしょう。そこへ、イエズス会の避けようのない爆破などという、信長様の功績を打ち砕くような企みが現実味を帯びてきた。光秀様にとっては一族存続の危機でもありますよって。ならば、悪役になろうとも、自らの手で信長様を、と考えられたのも私としては、心中お察し申す、と言う所でしょうか」
「謀反は、わしを思ってのことでもあると、言うのか」
「私には、そう思えます。策士の光秀様にしては、信長様を亡き者にした後のことを何ひとつ、決められておりまへん。それ程、追い込まれ、焦られている。正しく言わして貰うと、思うように援軍が得られないご様子、今はね。私から言わせて貰えれば、根回し、実績、人望が光秀様には足りてまへん。それでも進むは焦っておられるとしか思えません。このままでは、光秀様は、殊勲の仇討を思う秀吉様、命を狙われた家康様からの追ってを逃れられない。大義名分と言うお侍さんの定めのもとで。それでも暴挙に出るのは、最早、私には正気の沙汰では叶わぬことと存じます」
「そうか、そんなことが」
「まだ、ありますよ」
「まだ、あるのか」
「まぁ、これは直接、関係ないでしょうが、ご参考までに」
「何じゃ、言うてみぃ」
「正親町天皇絡みで」
「正親町天皇…毛利家は、皇室の親戚と同じと言いよった奴か。毛利家や本願寺との和議を薦めた張本人だな、支援してやったのに」
「信長様は天皇になろうとしたお方。正親町天皇を退位させ、若き
「天皇は飾りに過ぎず、わしの
「その正親町天皇と光秀様は関係が浅くないでしゃろ。おふた方は、信長様の暴走を食い止める策を案じておられた。比叡山延暦寺焼き討ちの際、光秀様経由で正親町天皇からの京都・盧山寺は戒律寺院で関係がないので焼かないようにとの手紙を見せられたでしょう」
「ああ、だから、聞いてやったではないか」
「そうでしたな。光秀様からすれば、朝廷を朝廷と思わない信長様は、今までの武士が守り続けた気概をぶち壊すお人に見えたでしょうな」
「それがどうした、そんな気概などわしがぶち壊してやるわ」
「それがあきまへんがな。話し合いにならないとなれば、手の打ちようがない。そこへですよ、信長様は光秀様を追い込む真似をなされています」
「何をしたと言うのじゃ」
「家康様の接待役を中断させて、秀吉様の援軍を命じられた。これで、光秀様は信長様による家康暗殺を確信された。そこへ使者を送らはったでしょ。『丹波と近江の所領は召し上げる。その代り、出雲・石見の二国を与える』と。出雲・石見は毛利氏の所領でしたよね、それを与えるってのは、自分で奪い取れと言うことでしょ。光秀様の落胆の色が思い知らされますわ」
「それは裏工作ばかりに精を出さず、やれると言うところを見せてみろと言う、謂わば光秀を思っての鞭じゃ」
「そんな鞭は痛いだけで、有り難く受けられませんよ。光秀様は人の上に立つ者は人の痛みを知る者と。残念ですが、信長様の心情は別として、誰にでも分かる素行を見る限り、光秀様が信長様を見限る引き金になったのではと、私には思えます」
「人の心など知る術など、わしは興味がない。目に見える物、この手に掴める物のこそ信ずるに値する」
信長は、暫し沈黙し、感慨深く、自らの人生を、振り返ってるように思えた。命の炎が乱雑に揺れ動くのを感じつつ。
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