番外編.更に動き始める者達
(──おじさんっ!! 聞こえてますかっ!? 聞こえたなら何かアクションを起こしてくださいっ!!)
『違う世界にいるおじさんへなんとか声を届けてほしい』──そんな無茶振りを神様にされてから、私は何度も心の中でおじさんへ呼び掛けます。
しかし、当然のことながら何の変化もなく……耳には文化祭ではしゃぐお祭りピーポー達の声が届くばかり。
まったく、陽気なリア充達は普段はしゃいでいるのだからこんな時くらい静かにイベントを楽しんでほしいものです。
そんな焦燥と憤(いきどお)りに苛(さいな)まれながら、私はトイレの個室に籠(こも)って再びおじさんへと呼び掛けます。
【2022年に全ての世界線は消滅する】──それを防ぐ唯一の手立てがおじさんの記憶を呼び覚ますということならば、もはや文化祭に興じている場合ではありませんから。
決して、おじさんがいない中……一人で文化祭の場に姿を現すのが怖くなったからではないのです。携帯を見るとヒナちゃんやクラスの皆から鬼電されていたので怖くなってそっと電源をきります。
そして私は──先ほど神様とした会話の内容を再び反芻(はんすう)し、自分を奮い立たせます。
----------
-----
---
「──2022年に必ずやって来る世界終焉の原因とは一体なんなのですかっ?!」
──{……【時代錯誤】という人間達の言葉をお主は知っておるか?}
「え、ええもちろん……『新しい時代を受け入れずに古い時代の在り方を善とする』考えの一種ですよね?今時の……ちょっと乱暴な言葉に置き換えればそんな考えの人は『老害』だとか言われていたりしてますが……」
──{そうじゃ。それが2022年ごろから全く別の意味に置き換わる。文明の進化や世代交代により自由主義者やリアリスト、リベラル派の声が次第に大きくなることにより……【時代遡誤(じだいさかご)】という新たな造語が創られる。『古い時代に遡るのは誤りで新たな時代にのみ目を向ける』といったより過激な思想を表すものとなりおる}
「【時代遡誤】……」
──{若い世代が古い時代に全く目を向けなくなり、過去はどんどん淘汰されてゆく……その特異点となったのが2022年──人々の記憶から過去は消え去り、同時に全てが消えゆく事になった}
「………えっ!? な……何故ですかっ!?」
──{ふむ……少し説明が長くなるのじゃが……お主は人間の脳の構造と宇宙の形成構造が似通っておるのを知っておるか?}
「……は……はい」
──{それは偶然ではなく……わしら神の手により創られたシステムが使われておるからじゃ。無限に近い密度を形造る回路……わかりやすく『無限回路』とでも呼ぶとしようか……}
「……『無限回路』……」
──{お主も見てきた無数の世界線。あれを構成しておるのも『無限回路』──つまりは【宇宙】=【世界線】=【脳】の構造は基本的に全て同じなのじゃ。ここより少し先の未来……人間の手によりそれは科学的にも立証されたはずじゃ。そこに気づいただけでも大したもんじゃと称賛を送りたいところじゃが………もう一つ、人間には決して暴けぬ真実が潜んでおる}
「そ……それはなんですか?」
──{それらは
「!?」
──{言わば三竦みであり、互いを呑み込む三本蛇(ウロボロス)……人類がそれまでの世界線を切り捨てたことにより、宇宙の流れにも支障をきたし、それは終焉を形造り、誕生してしもうた。2022年に地球に襲来するその終焉の正体とは──【ブラックホール】じゃ}
-----
----------
---------------
改めて危機を認識し、私は少し吐き気を催します。
(やっぱり無茶だよぅ……そんな宇宙規模の脅威を防ぐなんて……人にどうにかできる問題じゃないよ……)
ブラックホールにより全てが呑み込まれるなんて……いくらおじさんが不可思議な能力をもっていたところでどうにかなるわけがありません。
確かにおじさんの性格上、それを事前に言われていたら『いや、これラブコメだよね?! 最終章だからって何してもいいわけじゃないんだぞ!?』とメタ発言で悪態を突きながら全てを諦めていたでしょうが……たとえ今のおじさんに『ブラックホールをどうにかしてくれ』と言ったところで結果は同じような気がします。
(──でも、やるしかない!! けど……神様にどうにもできない事を私がどうにかできるわけが…………………神様……神………そうだ!!)
私は、再度、携帯の電源をいれ、個室を出てある人に連絡をとります。
「──………も、あっ、もしもしっ!! あああのっ!! ちょっとお時間よろしいでしょうかかかっ!?」
『え、あ……阿修凪ちゃんの方だね? どうかしたの?』
【アオアクア】の【ido】様は電話口でもすぐにおじさんのアシュナじゃないと気づき、神妙な声色で察してくれます。
現状、お母さん以外で世界線の事情を把握しているのはido様だけ──私ひとりでどうにもならないのであればido様に相談するのは必要不可欠です。
「あ、え、えと……お話が」
「ア~シュ~ナ~、やっと見つけたっ! もうどこに行ってたの! ほらっ、早く練習始めるよっ!」
「え、あ、ヒメちゃんっ……ちょっと待っ──」
私を探し回っていたというヒメちゃんに見つかり、弁明する間もなく手を引っ張られ、拍子に通話を切ってしまいました。
「待ってる暇ないよっ! もうあたしらの出番なんだからっ!!」
「えっ……あれっ?!」
携帯電話で時間を確認してみると、確かに演奏演目の時間がもう差し迫っていました。
どうしようっ……このままじゃおじさんがっ……!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます