005.女子高生(おっさん)と生徒会長


「アシュナ、ごきげんよう」

「あ、めらぎ。配信見たよ、もう世界的配信者だね」

「いやですわ恥ずかしい……それにそれはアシュナのおかげですわ。ありがとう、わたくしに生きる道を与えてくださって」

「あはは……大袈裟だよ」


 登校時、校門をくぐると呼び止められる。

 お相手はこの高校の生徒会長にして財閥のお嬢様にして今やリアルVチューバーの呼び声高い【皇(すめらぎ)めらぎ】だ。

 彼女とは俺が原作の小説を題材とした映画が歴代興行収入を塗り替えた記念のパーティーで出会った(当時中学二年生)


 関係者以外にも各著名人が集ったその祝賀会で、彼女は俺のファンだと名乗り……同時に悩みを打ち明けた。

 めらぎは本当はエンタメ業界に興味津々であり、自分も様々なコンテンツに傾倒したいが……厳格な父や母と家柄に阻まれている、と。


 そんな彼女を俺は引っ張って……アンダーグラウンドの道へと導いた。今でもその判断が正解だったかは誰にもわからない──けど、彼女が自由に選び取るその意志を不正解だと断ずる権利は誰にもない。


 その後──当然、お家騒動は巻き起こったが……俺が出張るとたちまち収束して公認となった。俺の持つ能力が作用した結果かはわからないが、それ以来めらぎは学校でもいつも笑顔でいるようになったのできっとこれで良かったのだろうと思いたい。


 そして、彼女は『子供がなりたい職業ランキング』に名を連ねる配信者となった。

 その二次元寄りの抜群の容姿と、実際(リアル)のお嬢様言葉、家柄を活かした潤沢な企画力でたちまちに大人気となり登録者数はもはや世界ランキング入りを果たすなど時の人となっている。


「見てっ!! アシュナさんと生徒会長の美しすぎる百合エモーションキタ━(゜∀゜)━!!!」

「はぁ~……マジここ惨事なのってくらい逝ってヨシすぎてすこすこのすこ……」


 いつの間にか周囲を取り巻いていた女子生徒達の会話が耳にはいってきて思わず突っ込みを入れた。


「え、何語? 色んな時代の言葉が混ざりまくってるよ」

「アシュナに教えてもらった旧某掲示板の古き善き言語(ネットスラング)ではないですの。リバイバルブームで女子高生に再度流行しているようですわね」

「……………………え?」


 めらぎのその台詞に、何か喉に引っ掛かってるような違和感が強くなったのを覚える。

 確かにおっさんだった世界での高校生時代にはそんなネットスラングがあった。それは確かだ。

 そしておっさんが産まれ変わる前にはリバイバルブームの波が来ていた。某掲示板の昔の言葉が再利用されるのもあり得る話ではある。


 だけど…………何かがおかしい。


(………え、おっさんが高校生時代に流行った言葉? 今だってタイムリープして高校生をやり直してるはずなのにそれがリバイバル……? なんだろう……違和感の正体が掴めそうな……)


 ピキッ──と、また耳の奥で鳴った。

 これは果たして不穏の前兆か──それとも吉兆の報せなのだろうか。

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