番外編.残された者達


──{──シュナっ………アシュナっ!!}


「んんぅ………おじさん………もういっかい………私の中をかき混ぜてください………」


──{なんちゅう寝言じゃ……起きんかっ!! そのアシュラが大変な事になってしまうんじゃぞっ!!}


 おじさんの名前が耳に届いて、私の意識はすぐに覚醒しました。

 確認の意味を込めて私は心の中で復唱します。


 私の名前は【波澄阿修凪】。

 複雑極まりない事情で自分の中に違う世界の自分を有している普通の女子高生です。

 そして、そのもう一人の自分の名は【波澄阿修羅】。

 紛(まご)う事無き正真正銘のおじさんで、えっちだしいびき凄いしセクハラするし女の子大好きだし……けれど愛しいもう一人の私。


 これまでに色々あって……おじさんは元々いた自分の世界に帰る事になりました。

 おじさんが自分で決めた事なら……と、救(たす)けてくれたおじさんに恥じない様に私も自分を変えて笑顔で見送ろうと頑張ってきたのですが──


「──…………え? 神様……今なんて言いました……?」


──{このままではアシュラは運命の収束に呑まれてしまう……そう言ったのじゃ}


「なんで……というかっ! おじさんはもういないんですかっ!?」


 私が眠ってる間におじさんはもう新しい世界へと旅立ったと神様から聞かされ、喪失感に胸が張り裂けそうになりましたが……そんな暇は無いと神様は続けて言います。


──{よいか? 落ち着いて聞くのじゃ。アシュラをこの世界線に呼んだのには理由があった。本人には聞かせんかったが……あやつは2022年に消滅する運命を辿る}


「…………えっ? 消滅……?」


──{うむ。じゃからわしはあやつの精神をここへ呼んだ。『祠(ほこら)』を捜してもらうため……そして、【運命の収束を回避する方法】を見つけてもらうためじゃ}


「運命の収束を回避する方法……? もうなにがなんやらでわかりませんよぅ……」


──{しっかりせい! アシュラを救える可能性があるのは最早お主しかおらんのじゃ!}


「………わかりました、とにかく全部話してください」



 神様から聞いた内容を纏めるとこうです。


 おじさんは神様(奥様の方)の御力で性別を越えた【娚人】という特別な人間として、新たに拓かれた世界へと転生しました。(どうしてそうなったかは話してくれませんでした)

 その新しい世界線というのは未知の世界であり、神様でもその内情はおじさんの体験(め)を通してしか把握できないようでした。

 おじさんを通して知る真っ白な世界。

 神様でも未来を予測できない不測の地……しかもおじさんに干渉もできなかったらしく、何度呼び掛けても対話することは叶わなかった、と。

 それでもおじさんは無事に波澄家に新たな【波澄阿修凪】として誕生したようで胸を撫で下ろしたそうです。


 ですが、ここで最初のハプニングは既に起こっていました。

 どうやらおじさんはこの世界線の記憶を全て失っていた様子だったのです。

 あまりにも様々な世界線体験をしたおじさんの脳を守護する防衛本能が働いたのじゃろう──と神様は言います。


──{じゃが……たとえこれまでを忘れようとアシュラは無事幸せに生きていける……そう思うて後手に回ってしもうたのじゃ……}


 最初に異変に気づいたのは、おじさんが転生してから14年後──中学二年生の時……【皇めらぎ】さんとの出会いだったそうです。


「中学生にして小説家……しかも映画化……おじさん、新しい世界を満喫してるみたいですね……」


──{問題はその後、めらぎがアシュラの影響で『チューバー系配信者』として生きるようになった事じゃ}


「チュ………なんです? 背信者……? 物騒な響きですけど……」


──{そう、の人間ならばそんな反応になるじゃろう。当然じゃ、2004年にはまだ出てきておらんのじゃから}


「……? あの……なんの話です? めらぎさんが背信者になったのが問題なんですか?」


──{肝心なのはそこではない。|。20042022という予想だにせんかったエラーが巻き起こっておった}


「な………なんですかそれ………」


──{お主らが高校生のまま……いや、世界中の人間が2004年の時のままでアシュラが中年だった時代を過ごしておるのじゃよ。本来、どんな世界線であっても時がズレたりわしらが干渉できんなんて事はあり得ん……恐らくはアシュラが神の力を得た事……度重なる次元渡航……本来起こり得る運命を曲げたこと等が重なり──全く未知のバグが発生したのじゃろう……}


 神様の話は察しの悪い私にはピンときませんでした。

 が、神様の次の言葉は否応なく事態の深刻さを私に理解させました。


──{ここで当初の問題に戻る。2022年にアシュラは運命の収束により消滅する──ぃいや、この際はっきりと言おう。【全世界線が2022年の終わりに原因不明の事態により消滅する】。それを阻止する役目がお主らだったのじゃ}


 きっと、おじさんならばこう言ったでしょう。

『これハーレムラブコメだよね!? 急なテコ入れシリアス打ちきり展開やめろ!!』……と。

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