第157話 女子高生(おっさん)と早苗エナと宿題


〈早苗宅〉


「いいいいらっしゃいアアアシュナちゃんっ!」

「あら、エナ……学校のお友達? 凄く綺麗な子ね~お人形さんみたいだわ」

「もうお母さんっ! 余計なこと言わなくていいからっ! お部屋行くからあっち行ってて!」


 凄く普通のやり取りを繰り広げるは、〈回りくどい狂気娘〉の異名を持つ早苗エナのマイホーム。

 久しく触れていなかったありふれた家庭でのやり取りにほっこりしつつ……高校の宿題を一緒にやろうということで夏休みの予定トップバッターを飾ったわけだ。


「ちゃんと綺麗にしたんだけど……汚かったらごめんね?」

「うぅん、気にしないよ。足の踏み場が無くても私はくつろげるから」


 独身のおっさんを嘗めるなよ、ゴキブリがいたって気にせず寝れるんだから──と謎のマウントをとりつつ招かれた空間は可愛らしさと勤勉さを両立させたごく普通の女子高生の部屋だった。


「今日はミクはいないの?」

「うん、家族で旅行に行くんだって」


 いつもミクとセットだったエナとの、初めての二人きりに若干緊張しながらも……持ってきた宿題を机に並べる。


「じゃあのんびり始めよっか」

「ぅぅぅんっ、宜しくおおお願いしますっ!」


 まるで初夜でも迎えるかのようにどもりまくるエナと、のんびりしながらも着々と宿題を進めた。エナは真面目だし頭が良いので、効率良く消化できてとても助かる。


「ご、ごめんねアシュナちゃん……」

「……ん? なにが?」

「わたしと一緒にいても面白くないでしょ……お部屋にだって趣味らしい趣味ものも置いて無いし……」

「へ? そんな事思ってないよ? 宿題やるのに目移りしなくて逆に助かるけど」


 だが確かに、可愛い人形とかを除けば部屋には参考書がぎっしり詰まった本棚と普通のベッド、テーブルくらいしかない。TVがないのには少し驚いた。部屋で何してるんだろうか。


「わたし……昔からミクちゃんに比べて華とか面白味がないっていつも言われてる。ミクちゃんの派手なお友達から『なんであんな地味子とつるんでるの?』とか陰口をミクちゃんが言われてるのも知ってる……アシュナちゃんも私といるとそう言われちゃうかも……」

「いいよ? そんなくだらない事言う奴、高速でビンタするから」

「アシュナちゃん……」

「ありのままでいいよ、エナはそれで凄く魅力的だし可愛いから。ミクもそう言ったはずだよ?」

「…………ぅん、ありがとうアシュナちゃん……あ、ごめんわたし下からお菓子と飲み物持ってくるね!」

「お構い無く~」


 そう言って、エナは慌てるように部屋を出た。ドアを勢いよく閉めたからか拍子に本棚から参考書が何冊か落ちた。


 その奥に、もう一冊、本が収納されていた。

 二段構えの隠し本棚……その背表紙には、『気になる娘を堕とす黒魔術』『好きな娘を振り向かせる長文テクニック』『おっぱいを大きくする方法』『これであなたも無個性だ!』『百合大全集』とブック●フに大量にありそうな本達と、百合の同人誌達が所狭しと眠っていた。


 個性あるじゃん、詰め合わせセットじゃん。


「──それでね、仮にだよ? 仮にわたしとアシュナちゃんが結婚するとしたらやっぱり法律の壁が立ち塞がるよね? だからわたし政治家になろうと思っててそうしたら同性婚も容認できる国づくりを政策に組み込む手筈なんだけどもし良ければ待っててほしくて子供が欲しがったら養子って手もあるし嫌だけど精子提供でわたしが産むって手もあるからそしたら──」


 戻ってきたエナと将来の展望について話してたら、めっちゃ早口で語ってきた。

 個性の塊じゃん。面倒くさいけど健気で可愛いじゃん。


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