第153話 女子高生(おっさん)、保健室の秘め事


〈保健室〉


「もぅ、保健のセンセーってなんで肝心な時にいないかなー……アシュナっち本当に大丈夫?」

「……うん……熱があるわけじゃないし病気でもないから大丈夫……ありがとうミク。出席日数(たんい)足りなくなるから行って」

「なーに水臭いこと言ってんの……でも、単位はまじヤバいのは事実……体育めんどいからサボりすぎたかんなー……じゃあ、アタシは行くね。でもなんかあったらすぐに呼んでよ?」

「うん、ありがとう」


 保健室──クラハ先生は不在のようで……室内は二人きりだ。ミクが体育をサボりがちで単位が足りないのは知っていたので戻るように促すと不承不承(しぶしぶ)戻っていった。


 静寂に包まれると再び思考が『クリ●ゾン反応』へと移る。やはり、男を視界に入れなければ治まるようで身体から電流は抜けきっていた。

 しかし、何故に急にそんな事になってしまったのか……思い当たる節は全く無かった。

 おっさん、男に興味ないしおち●ちんを持つ生命体なんか恨みの対象であれ(おっさんが失くしたおち●ちんを持ってるから)欲情するような相手ではないはずなのに。


 身体に何かしらの異変が起きてるのは確実だった。

 キヨちゃんならわかるかもしれないが……流石にまたすぐ沖縄まで行くわけにもいかないし……なんて、思ったその時だった。


──{ほっほっ、呼んだかの?}──

「!?」


 聞き覚えのある、子供の声が脳内に響いた。

 沖縄で出会った神様が当たり前の如く心の呼び掛けに応じ、返答したのだ。


「えっ? キヨちゃん?! もしかしてあれかな? 神様の力を取り戻したことによって俺と心の中でいつでも連絡が取れるようになったとかそーいう展開かな!?」


──{相変わらず凄まじいほどの理解力じゃな……まぁ、その通りじゃよ。本来ならもう少し後に出てくるつもりじゃったが……困っとるみたいじゃから出番を早めたのじゃ}──


 なんというご都合主義な展開──かと思ったけど、よく考えてみればアシュナになってからの人生……ほとんどご都合主義だった──と開き直って早速、今この身に起きているその原因を知らないか尋ねてみた。


──{──ふむ、ようやく身体と精神が噛み合ってきたというところじゃ。アシュラ君、お主も『お主が挿入(はい)るまでのアシュナは何処へ消えたのか』……その答えは『消えたわけでも、入れ替わったわけでもなく、』が正解じゃ}──


「ま……混ざり合った……?」


──{そう、つまり今……お主の身体に起きておる不可解な現象は『以前の波澄アシュナ』もとい『心身ともに女性だった波澄アシュナ』のものと考えられる。お主が男色家でもなければの話じゃが……あ、ちょっと待っておれ。猫の餌の時間じゃから一旦離れるぞ──}──


「テレワーク中の社員!? 神様と精神で繋がってるシステムってそんな感じでいいの!? ……ちょっ、もしもし!?」


 それっきり、キヨちゃんの返答は途切れた。肝心な事が聞けずじまいだったが……二次元に生きてきたおっさんはすぐに悟る。

 つまり、女(アシュナ)が目覚め始めたということであり……おっさんが両刀遣いになりかけているという事実に他ならない。


 そして思考する暇もなく……次の試練はすぐに訪れた。


「お嬢っ! 大丈夫ですかっ!?」

「!!」


 SPのコクウさんが慌てた様子で保健室の扉を開く、どうやらミクに話を聞いて飛んできたようだった。

 他に人がいないから良かったけど病室なんだから静かにしなきゃ駄目でしょ──と、言う暇もなく、再び動悸と疼(うず)きの感覚が身体に迸(はし)り、呼吸を荒くした。


「──はぁっ! ……んっ……はぁっ……はぁっ……」

「お嬢っ! しっかりしてくださいっ!」


 そんな事情を知る訳もないコクウさんは、ベッドに座りながら前のめりに踞(うずくま)る俺の肩に、支えるように腕を回した。必然、顔を上げると吐息がかかるくらいに二人の距離は近付いた。


 端正な顔立ち、紫がかる黒髪と瞳、まるで未来で『お兄様』と画像検索したら埋め尽くされていたあのキャラみたいなスマートさ。しかも比類なき強さを誇るチートキャラ。

 女性が男性に求めるもの──その筆頭に『清潔感』が挙がる意味がようやく理解できた。彼はまさにその好例……肌は綺麗だし、男の癖にいい匂いだし、着ているYシャツに皺(しわ)も無い。嫌悪感を抱かないというのは抱かれてもいいかどうかに於いて最重要なファクターと言えるのだろう。


 そして彼は幼き日からずっとSPとしての仕事に従事していて、これまでに女性とそういった関係に至ったことがないチェリー君。そんな初めての相手となるに好条件の整った彼を目の前にして、目覚めた女(アシュナ)が我慢できるわけがなかった。

 互いに頬を紅く染め、唇の触れあいそうな距離感で時は止まる。コクウ君は俺から目が離せない様子で固まっている……しかし、荒い呼吸、高鳴り聞こえてくる心臓の音が──彼も興奮していると俺に教えてくれた。


 やがて、俺も同じ──と伝える意味を込め、彼の手を取り……甘えるような声で言った。


「……お願い、我慢できない………………触って……?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る