第143話 女子高生(おっさん)と美容室③


〈美容室〉


「あの……それで今日はどんな髪にしますか……?」

「……あ」


 会話が出来るようになったオタク美容師【初音ネツハ】さんから改めてここが美容室だと気づかされる。しかし前述した通り……おっさんは別に髪型なぞどうでもいい、スキンヘッドとかにされない限り。

 けど『じゃあ何しに来たんだよ』と怒られそうだし席に座っちゃったからなにかしら注文しないといけないだろう。


(うーん……『お任せ』して変な髪型にされるのも嫌だし……染めたくもないし……ゆるふわパーマにでもしてみようか……いや、戻せなくなったら嫌だな……)


 おっさん特有のスキル『冒険して変になるの嫌だから現状維持』が発動して中々決められないでいると、ある妙案が浮かんだ。


「そ、そうだ。『エクステ』てのを一度やってみたかったんだけど………」

「あ、はい。どんなエクステつけますか?」

「えっと髪をつけれるんだよね? だったら……【初音ムクッ】ちゃんみたいな長いツインテールを一度やってみたいかな……」


【初音ムクッ】──言わずと知れた超有名ボーカロイドにしてハローキ●ィに並ぶ多数のコラボで一般層にまで愛されているキャラクター。

 2007年に誕生した彼女はその美麗さと可愛らしさでおっさんの時代まで永きに渡り大人気で──


(──って、あ、まだこの時代2004年じゃん。誕生してなかった……この店の名前もネツハさんの名字も思いっきりそうだったから引っ張られちゃった……)


「あ……あはは、なんでもない」

「……!」


 慌てて誤魔化したが、ネツハさんはなんか驚いた表情をしている。


「……初音ムクッ…………ちょっとそれ…………やってみてもらってぃいですか?」


 なんかひらめいた感を出した彼女は、様々なエクステを持ってきて俺に手渡してきた。

 え? おっさんが自分でやるの? 何言ってるか聞き出そうと四苦八苦したり……なんか立場が逆じゃない?

普通美容師さんがやるべき事でしょと思いつつ……やってみたくもあったので素直にやる事にした。


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「──そ……そぅです……そんな感じで優しく柔らかく触って………」

「はぁ……んっ……こ……こんな感じですか……?」

「はぁ……はぁ……凄ぃ……こんなの初めて……」


 美容室の一角に、女子達の艶(つや)やか且つ扇情的な声が静かに放たれる……何故に美容室でそんな状況に? と世の男性達は興奮且つ期待しているかもしれないが……残念なことに、これはえちな事をしている風に見せつつ全く違うことをしているという……よくあるパターンだ。


「こんな綺麗な髪初めて……まるで赤子の頃から一切傷まずに成長してきたような……どうやってこんなノーダメージで髪質を保ってきたんですか……?」

「いや……特になにも………あの、それよりこの後どうすれば……?」

「あ……ごめんなさい………編み込むのはこうして……」


 初音ムクッちゃんみたいなツインテールにするため、おっさんは地毛にエクステを編み込んでいるがやり方が全くわからないため……ネツハさんに手取りご指導賜りながら。彼女は当然、まだ産まれていない初音ムクッちゃんのキャラ像を知らないのでどんな髪型かをおっさんが口頭で教えながら。


 しかし、後ろから耳元で囁(ささや)かれているために問題が起きていた。それは……おっさんが興奮してしまってスピリチュアルおち●ちんが反応してしまっていること──前屈みになると彼女がより密着してくるので性的興奮の永久機関の完成である。





「──えっと、こんな感じですが……」

「なんですのそれなんですのそれっ!? 究極の可愛さがそこにありますのっ!」

「………」


 ウィッグを被り、地毛を中にまとめて……ツインテールのエクステをつけ──初音ムクッちゃん形態へと変貌を遂げたおっさんに、めらぎは漫画を読む手を即座に止めて興奮しまくっている。コクウさんも見張りというSPの職務を放棄してガラス越しにこちらに見惚れている始末だ。


「…………これが初音ムクッちゃん──!」


 肝心のネツハさんはと言うと……なにか閃いた様子でスケッチブックに俺(アシュナ)の姿を描き始めた。


「あの、何してるの?」

「……私、ずっとイラストレーターになりたくて……」

「……え、じゃあなんで美容師に……?」

「イラストレーターだけでは食べていけなくて……元々美容師の方は副業だったんです……それがいつの間にかお店を任される事態にまで……」

「それは凄いね……って、ネツハさん店長なの!?」

「は、はい………駄目ですよねこんなオタクが店長なんて……けど断れなくて…………できましたっ……」


 ネツハさんが描いたキャラクターは、思い切り【初音ムクッ】ちゃんそのものだった。しかし、描れていたのは顔だけだ。


「構想だけはあったんです……けど、どうしてもキャラクターの容姿が納得いかなかった……けど、アシュナさんを見てやっと形になりました……あとは服装だけ……アシュナさんっ! 私の知り合いのファッションコーディネーターが経営するお店についてきてくれませんか!? すぐ近くにあるので!」

「え……あの、今から!? このまま?? 」

「構いませんわっ! 是非行きましょう」

「同感です」

「ちょっと!?」


 めらぎもいつの間にか隣にいたコクウさんも、俺(アシュナ)を着せ替え人形にしたいのか食い気味に同調した。











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