第121話 女子高生(おっさん)の修学旅行~②日目『予想外のイベント』


〈PM12:50 料亭『精根のシークワサー』〉


「て……てめっ……何者だ……っ……俺らがどこの組のもんかわかってっ……!」

「俺が何者だろうが、お前らが何者だろうがどうでもいい。ここにいるお嬢はやがて世界を統べるお方だ、お前らは会話はおろか……視界に入れる事さえ許されないと知れ」


 コクウ君はヤクザ達を一瞬で倒し、まるで俺を海賊王の器みたいに言ってのけた。個室の広間には死屍累々の如く……ヤクザ達が積み重なり気絶している。

 十数人いたヤクザ達を数秒で倒すなんてもはやSPの強さじゃないし、バトル漫画じゃあるまいし──と、色々言いたい事はあったけど……とりあえず無用なトラブルを避けるためにコクウ君を一旦、宥(なだ)める事にする。


「コクウ……いえ、コクウさん。落ち着いて……いや、落ち着いて下さい」

「お嬢……なにか言葉に距離を感じるんですが……」

「あわわ……んかい……ふぃんぎてぃくぃみそーれー、くぬ人達ーうちなーうぅてぃ一番まぎさるふりむんさんっし……くとぅぬまぎくないる前にふぇーく……」


 琉球弁の従業員さんが青ざめて、異界の言葉を話す。テンマに通訳してもらい要約したところ……『この人達、ここらで一番大きいヤクザだから早く逃げて』らしい。


「ふっ、俺がいれば恐れる事はないアシュナ。鳳凰一族に手を出す事がどんな意味を持つか……裏社会の人間ならば重々承知しているだろうからな。アシュナに手を出すなら鳳凰一族が黙っちゃいない」

「口を出すな鳳凰天馬。お嬢、俺は現首相ともコネがあります。この男に頼らずとも暴力団など俺だけで排除できます」

「あたしだって芸能界にコネくらいあるわ、心配いらないからねアシュナ」


 こんな状況でもテンマとコクウ、更にはヤソラまで加わり謎のマウント合戦を繰り広げる。『やだ……私のパーティー頼りになりすぎ……』としみじみ感じるが、ヤクザ達には同情を禁じえない。


「おい……人がトイレ行ってる間になんの騒ぎだこりゃあ……」

「あ……さ……三代目……こいつらがいきなり……」


 すると、廊下の奥からイケメンが現れた。伸されたヤクザ達が三代目と呼んでいたのでどんな『龍●如く』が出てくるのかと身構えたが………まるで、女子が思い描くヤクザの親分を形にしたかのようなワイルドイケメン(しかも若い)だった。


「あん……? カチコミか……? 【マイコー】の一派じゃなさそうだが…………!!?」


 三代目と呼ばれた男はこちらを一瞥(いちべつ)したのち──戦慄して苦悶の声をあげ、何故かうずくまってしまった。


「──っ!! お……女っ……!!? てめぇら……一般のっ……しかもチャラチャラした女なんぞにちょっかいかけやがったのかっ……!?」

「す……すいやせん坊っちゃん……酔った勢いで若ぇ衆がつい……」

「大変だ……女を坊っちゃんの視界から隠せっ……」


 満身創痍だった手下達は苦しそうな親分を俺達女子組から守るように立ち塞がる。

 一体何なのか……ミクもエナも不安そうに怯えていたので、俺は事情に詳しそうな従業員さんに聞いてみる。


「あの……あれは一体……?」

「あぬ方ー組ぬ親分やいびーん……ぬーやてぃんいなぐんかい免疫ぬなさしじてぃ……いなぐぬ近ゆいんがなっしアレルギーぬんじてぃしまいんりさぁ……」

「『あの男がヤクザの親分だが、女性に免疫が無さすぎて女を見たり近寄ったりするとアレルギーが出るらしい』……だそうだ」


 テンマに通訳してもらい全容を知る、要約すると……三代目は童貞だそうだ。本当にヤクザの親分!? と突っ込みたかったが……怖いのでできる筈もなく、とりあえずこのチャンスに皆で逃げようとしたその時──


「………? お……おい待て、そこの女……っ!」

「──えっ?」


 ──俺は三代目に手首を掴まれた。


「……あ、あのっ!? なななんですかっ!? わわ私なにも悪いことしておりませんがっ……」

「……………やっぱりだ……アレルギーが出ねぇ……動悸も起きねぇ………なんでだ……? ……もしかしてお前……いや、そんな事よりもだ! お前に一つ頼みたい事がある! 振りで構わねぇから俺の伴侶に……極道の妻になってくれ! 頼む!」


 ヤクザの親分はわけのわからない事をおっさんに頼み込んで土下座した。

 なんでおっさんに対してはアレルギーが出ないかは知らないが……わかるのは、沖縄に修学旅行に来てこんなイベントを起こすのはきっとおっさん女子高生だけだろうという事だけだ。








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